〈「公園の集団リンチ、刃物の恐怖も…」村田らむ(52)が語るホームレス取材と、ライターになった意外なきっかけ〉から続く
「ホームレス」「青木ヶ原樹海」「ゴミ屋敷」「事故物件」など、明るい世間から目を背けられてきたミステリーゾーンに潜入して記事を書き、注目を集めてきたライターの村田らむ氏(52)。
【画像】「遺体は40体くらいは見ている」青木ヶ原樹海に潜入した村田らむを見る
多くの単行本を執筆する傍ら、現在はYouTubeチャンネル「村田らむのリアル現場主義!!」でも精力的に活動中。そんならむさんに、3回にわたりインタビュー。2回目は、青木ヶ原樹海のお話を中心にうかがいます。(全3回の2回目/つづきを読む)
村田らむさん 文藝春秋
◆◆◆
――ホームレスと青木ヶ原樹海の取材は同じ頃に始めたんですか。
村田らむ(以下、らむ) そうですね。
――樹海への興味はどこから?
らむ 正直、樹海は消去法というか。イラストレーターからいきなりライターになったので、コネクションが全然ないわけですよ。だから芸能とかスポーツのジャンルはできない、特技もそんなにない、でも樹海は行けばある!(笑)。樹海については、当時は今以上に都市伝説が信じられていて。
――「入ったら出られない」とか。
らむ そう。「磁石が効かなくなる」はもちろん「中に村がある」だとか「野犬がいる」だとか。90年代末くらいにはそういう噂があったんで、とにかく樹海に行ってみて出られないか試してみようじゃないかと。
まだギリギリGPSが弱かった頃で、一応購入して持っていったんですけど表示されるのは数字。Googleマップで緯度や経度を数字で表してる、あれです。だから白地図は別に持って。でも、そもそも数字すら合ってるか微妙な時代だし「無理だわ、使えない!」ってなって。でも結局コンパスだけで出ることができましたよ。
――らむさんの著書『樹海怪談』にも出てきたけれど、思い悩んでいる女性と一緒に樹海に行った話をよくされてるじゃないですか。
らむ 「死のうかなと思ってるんですけど、樹海を案内してください」って知らない女性から連絡が来て。まあ断るべきなんですけど、話を聞いてみたくなっちゃって。それで、樹海で遺体を探すのが趣味のKさんという人と、僕と彼女の3人で樹海を回って。そしたらKさんが嬉々として遺体を探すのを見て、彼女は「死んだらそうやって探されるの?」「なんか死ぬ気がなくなっちゃった」って。
――その女性からはもう連絡ないんですか?
らむ ありますよ。いろいろ強いネタを持ってる人だったんで、取材に協力してもらったり、今でもLINEでやり取りしてます。彼女は元気でやってますよ。
――なんかいい話ですね。
らむ いい話ですかね?(笑)
――これも、らむさんの著書『樹海怪談』に出てきたんですが「モテる遺体」という話、興味深かったです。
らむ それはHIDEくんって呼ばれている遺体ですね。樹海で遺体になった人が「HIDEくんへ 就職おめでとう」という手紙を持っていて。
ホストなのかビジュアル系バンドなのかわからないんですけど、そういういわゆるゴシック風ファッションで亡くなっていた。僕はリアルにその遺体は見てなくて、写真で見ただけなんですけど、彼はイベントの女性のお客さんに非常に人気があるんです。
――遺体なのに。亡くなってもルッキズム、みたいな。
らむ 死んだらなおさらルッキズムですよ。他に何にもないんだから。
――キレイな遺体なんですか。
らむ まっさらではなくて、ハエがたかってはいるんだけど、容貌はギリ損なわれていなくて。かっこいいのはわかる、まだ傷みきってない感じ。
――ご自身で遺体を発見したのは何回ですか?
らむ 確か3回ですけど、1人で発見したのが2回ですね。最初はイラストレーターの人とキノコの写真を撮りに行ったとき、その後編集者と行って2体目を見つけて。
その後は遺体を探すKさんと出会って一緒に行動するようになって、リアルな遺体は40体くらいは見ているかと……ああ、自分で見つけたのも、骨を合わせると4~5体はあるかな? 最初から完全に骨になってると、申し訳ないけど、思い出としての差異がなくなってしまうんです。
――遺体を見つけると、やっぱりショックなんですか?
らむ ビックリはしますけど「何でええ!」ってことはないですね。思いっきり探しに行ってますから「見つかった!」という感じです。
――見つけたら、警察に電話して。
らむ 僕が自分で見つけた場合は警察に通報してますけど、Kさんは通報しない。別に違法ではないんでね。私有地だとダメなんですけど、外であれば別に違法ではないんで。
――犯罪絡みの遺体もあるんですか?
らむ 一昨年くらいに外国人の方が遺体を見つけて通報してましたけど、それは殺人犯でしたね。香港の方で、香港で殺人をして日本に逃げてきていたみたいで。意外と樹海から殺人犯が発見されることも多いらしいです。その人は追い詰められて自殺したみたいですね。
――樹海で殺人事件が起きる場合もあるんでしょうか。
らむ 樹海は地盤が硬くて遺体が埋められないから、殺人や遺体処理には向いてないです。樹海でインタビューした殺し屋(「擬似殺人されてみましょう」人肉を食べる“ヤバい殺し屋”と樹海で2人きりに…ルポライターが経験した“戦慄取材”の一部始終 参照)がなぜ樹海に遺体を放置してしまったかというと、まあ埋められなかったからなんです。一応自殺に見せかけたんだけど、拷問でケガをさせていたんで、司法解剖されちゃって。それで発覚したっていう。
――傷があればそうなりますよね。
らむ でも結構な状況でも自殺で処理するのが警察なんじゃないかな。まあ、なぜかそのときはちゃんと調べてましたね。
あと、あからさまに殺されたんだろうなって遺体を見つけたこともありました。2月なのに裸だし、靴を履いてないし、木に向かって首吊っちゃってる。まず自殺なら木を背にしますよね。どう考えても自殺では無理な体勢だったんだけど、事件化されたって話にならなかったんで「自殺で処理したな」と思ってるんですけどね。
――樹海ってクマは出ますか?
らむ 樹海はクマの生息地なんですよ。ただ、そんなにいないって言われていたんです。単純に食べ物が少ないので。地面もガタガタだし。
でも知り合いがクマを見つけちゃって。だからいることは確定しちゃったんです。しかも氷穴あたりの観光地にいた。それで通報したら、柵を張って、しばらく入れなくなったりしていました。
前々から「いるよね」って話はしていたんです。地元の猟師さんに「いるから気をつけてね」って言われたことがあって「どうやらいるらしい」から「いる」に確定しちゃって。
――樹海周りって、猟師さんがいるんですか?
らむ 青木ヶ原樹海自体は、4キロ四方とそんなに広くなくて、普通の森も近いんです。雰囲気としては、普通の森の方が安心感があるんだけど、樹海と普通の森との境界線あたりに行くと危ない、クマが出るって言われてましたね。
――『樹海怪談』で遺体が獣に食べられていたりという話も出てましたね。
らむ 結構多いんですよ。お腹がゾコーン!っと食い破られていたりして。遺体の足がGパンごと食い破られていて、足が骨ごとバツーンとなくなっていて。ネズミとか小動物ではないよね、と。
鹿も遺体は食わないので、イノシシかクマの2択になるんだけど。近くにクマとしか思えないフンが落ちていた。ドラゴンクエストのスライムみたいな形状のフンだったので、多分クマです。
あとちょっと離れた場所の木がガッサ、ガッサ、ガッサ!と揺れたときがあって。
――クマっぽいですね。あわてて離れて?
らむ 大きい声で喋るとクマの方が逃げていくそうなんで、そうしました。結構近距離まで来てたなあってときはありましたから、今思えば怖かったですね。
――樹海の遺体は、首を吊っている場合が多いのですか。
らむ 90何%ぐらいかと思います。
――引っ張っておろすんですか。
らむ 基本的にブラーンとはしていないんですよ。屋内であっても同じなんだけど、9割くらいの人は足を着いてます。むしろ浮くのは大変だし、思い切ってやるのも怖いんでしょう。だからの木の根元に座ってる状態が多い。
僕が見た、服毒で亡くなった男女は木の下で寝ていたので、獣にバンバン食われてましたね。内臓を食って大丈夫かな、食った獣に毒が回っちゃうんじゃないかって思いましたけど。亡くなった人の顔を見たら……それは相当苦しかったと思いますよ。
――らむさん自身が対峙して恐ろしかった動物っていますか?
らむ 僕はね、鹿が怖いです。鹿って舐めてると危ない。すっごい速度で走るんで。樹海で真隣を走られたことありますけど、ぶつかったら原チャリにはねられるくらいの威力だと思います。
廃村を取材してるときに、家の中に入ると鹿がいるときがあって、向こうもおおあわてで逃げようとするんだけど、出入り口に向かって特攻してくるんで怖いんです。
メスはそうやって逃げてくれるんだけど、オスはちょっと気が荒くて、向こうから喧嘩を売って来ることがある。当たったら向こうにもメリットがないから、最終的にはどいてくれるんだけど、立派なツノに接触しちゃったらこっちも大ケガするんで「鹿、怖いな~」と。
――イノシシは遭ったことないですか?
らむ イノシシは大学のときにでっかいのを見たけど、それくらいかな。イノシシは足をバーンっとやられると、牙が刺さったりとか、転倒したりとかするので、かなり危ないです。
でも樹海の獣はまだマシ。北海道なんかではヒグマとか出るから、それに比べれば。北海道に自生大麻を取りにいく人たちが「ヒグマがいるんだよ~」とか言っていて。僕は「そこまでして大麻やりたいか!」とか思うんだけど(笑)。
――今年の3月に出た著書『獣怖 動物たちが織成す狂氣の物語』には動物にまつわる怖いエピソードが満載ですね。
らむ 獣怖(ケモノコワ)、と言いつつまあ、内容的には人怖(ヒトコワ)シリーズなんですけどね。実は、これを出した出版社は怪談が得意であって、人怖はジャンルとして好まれていなかったんです。基本的に「怪談」といえば霊や不可解な恐怖が大前提。それが起きずに、暴力団にさらわれた話とかは「怖くても違うじゃん!」って怒られるジャンルだったんです。
でもそんな頃、Amazonで「人怖」って検索したらほとんど出てこなかったので「誰もやらないなら、人怖の本って出せば売れそうな気がする」と思って書いてみたら、ウケて。
――いつ頃ですか?
らむ 最初はコロナのちょっと前くらいだから5年くらい前かな。人怖って自分の体験談だから、実話なんだけど改めて取材とか行かずに、振り返って書いてます。今までの取材の過程で得た話だけでなく、どちらかというと自分のプライベートとか。
――プライベートの話をオープンにして問題が起きたことはないんですか? 例えば、あの動物を殺めてしまう女性の話とか……。
らむ もちろん変えてます。性別を変えてる場合もあります。本人に行きつかないように、万一行っても迷惑がかからないようには書いてます。
――「違法な蛇を飼っていた女性」の話も大丈夫?
らむ 僕が本に書いただけじゃ証明できないし、警察もそんなに仕事を増やしたくないから大丈夫です。それに、僕が知らないだけで、実は許可とっていたかもしれないしね……(取ってないけど!)。
――な、なるほど……。
らむ まあ、そんな感じでプライベートを注ぎ込んで書けたので、面白いネタは多かった。結構読まれて、重版もかかって。でも『獣怖』入れて7冊くらい出ているから、しばらく人怖シリーズはお休みかな。
――ということは、本のエピソードには、本当に創作や捏造はないってことですね。
らむ 「ちょっと(捏造を)やりましょう」って言われることもあるんだけど、僕は捏造は本当にしてないんです。苦手なんでね。
写真=細田忠/文藝春秋
【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)
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(市川 はるひ)