地面師事件と聞くと、アウトロー集団の犯行と思える。だが、この事件はサラリーマンで新興宗教の信者が、たった一人で起こしていた――。
「私はパーフェクト リバティー教団(以下、PL教団)の教祖とがりがあります。だから教団の土地を安く取り引きできます。この特別な案件を扱えるのは、幹部信者である自分以外にはいません」
こんなキラートークを使い、複数の不動産業者から総額4億円超を騙し取った男がいる。
加藤恭平(48歳)。加藤は東証プライム上場の不動産企業「エスリード」の子会社で次長職に就く一方で、「PL教団の幹部信者」と自称していた。
今年1月21日、加藤は大阪・箕面で地主の同意なく土地の取引を被害者に持ちかけ、売買の手付金名目でカネを騙し取った疑いで府警に捕まった。「地主の許可を得た」と偽って契約を進める、いわゆる「地面師事件」だった。
この逮捕をきっかけに、同様の被害を訴える人たちが続出。明らかになった加藤の手口が「PL教団の名前を利用した土地の架空取引」だった。その結果、1月に捕まったにもかかわらず何度も再逮捕が続き、いまなお警察署に勾留中という異例の事態となっている(7月28日時点)。
「彼はPL学園出身。高校時代は硬式野球部に所属していたというのが売りでした。PL学園といえば、清原和博など名だたるプロ野球選手を輩出した強豪校。加藤のひとつ上に松井稼頭央、ひとつ下に福留孝介がいます。信者であるだけではなく、野球部に在籍していたことも信頼される理由だったのでしょう。
『〇〇先輩はいつもノーパンで素振りしていて気持ち悪かったですわ。どっちのバット振ってんねん』などと、有名選手のエピソードを鉄板ネタにしていました」(加藤の関係者)
加藤が繰り出す高校野球トークは商談の場で客をなごませ、気をゆるませたという。
筆者は、被害者から詐欺の具体的な手口を聞くことができた。大阪で不動産業を営むA氏は、昨春に知人から加藤を紹介された。その際、加藤はこう語りかけてきたという。
「いまPL教団は、高齢化が激しく信者は頭打ちです。その上、3代目の教祖が死んでから内部対立も激しくなっています。そんな中、実権を握っているのは教祖の奥さん。この奥さんが、教団の資産を売却したがっていまして、この私は『土地を整理』する役割を任されているのです」
次に加藤は、PL教団所有の土地の売却価格を提示。なんと、相場の3割引きだった。A氏が振り返る。
「通常、不動産業者は安すぎる物件を警戒します。ただ、加藤によると、宗教法人であるPL教団は土地の売買で利益を得ることを認められておらず、信者しか売買出来ない決まりがあるというのです。
教団内の紛糾なども詳しく話していたのですが、あとで確認すると週刊誌の記事にも同じ内容が書いてありました。こうしたやりとりで彼を信じてしまった」
さらに加藤は、勤務先である「エスリード」子会社とPL教団との間で交わされた契約書も提示した。書類には両者の実印が押してある。そして、こう畳み掛けてきたという。
「実はPLの物件、ウチの会社で売りさばくことになりました。ただ、一部の土地はヨソの不動産業者に横流しするつもりです。そうすれば私に『小遣い』が入りますから……」
ちなみに加藤は、この契約書を使って積水ハウスにも売買契約を持ちかけている(積水ハウスは「取引が弊社子会社に持ちかけられたことは事実ですが、重要な確認事項がクリアされなかったことから、取引は中止しました。金銭被害はございません」と回答)。
A氏は加藤を介してPL教団と物件の売買契約を締結。手付金800万円を仲介者の加藤に支払った。しかし物件はいつまで経っても引き渡しにならない。それもそのはず、契約書にあった教団の印鑑は偽造で教団は契約の存在すら知らなかった。筆者が知る限り、同じような被害に遭った不動産業者は15社を超える。
被害者の中には手付金を払う前、PL教団に売買について確認した人もいる。当然ながら教団側は否定。加藤を質すと、自信満々でこんな返答をしてきたという。
「それはPL教団不動産部の答えですよね。これは教祖側のルートを経た案件です。高校同期で同窓会の会長をやっている友人がいて、彼の父親は教祖の側近です。そのつながりに幹部の私がいるんです」
【つづきを読む】『【独自】地面師事件のカネを明日花キララに「投げ銭」…PL野球部OBが犯した「キツすぎる凶行」」』へ続く。
「週刊現代」2025年08月18日号より
【つづきを読む】【独自】地面師事件のカネを明日花キララに「投げ銭」…PL野球部OBが犯した「キツすぎる凶行」