〈母親から鉄パイプで殴られ、「産まなきゃ良かった」と言われただけじゃない…虐待から逃れるために母親を殺害「31歳女性を苦しめた“地獄の9浪生活”」(平成30年)〉から続く
「同情の余地はある。被告はこれまで、お母さんに敷かれたレールを歩み続けていたと思いますが、罪を償った後は自分の人生を歩んでほしいと思います」
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2018年1月20日、滋賀県に住む看護学生が母親を殺害し、遺体を解体の末に遺棄した事件。教育虐待の末に、殺人を犯してしまった当時31歳女性のその後とは……。我が子を無惨に殺された親、学生時代ひどいイジメに遭った者などが仕返しを果たした国内外の事件を取り上げた新刊『世界で起きた戦慄の復讐劇35』(鉄人社)から一部抜粋してお届けする。(全4回の4回目/最初から読む)
写真はイメージ getty
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2月20日、取り上げたはずのスマートフォンをのぞみが所持していたことを知ったしのぶさんは、改めて自分で購入したというそのスマホを取り上げたうえで自宅の庭の石で叩き壊し、娘に靴下のまま庭石の隣で土下座、謝罪させた挙げ句、その様子を撮影した。この一件で、のぞみの中に初めて母への殺意が芽生える。
さらに12月24日から26日にかけて、しのぶさんは娘とのLINEのやり取りで「どうせ茶番だろ。助産師の国家試験が終われば、あんたは間違いなく裏切る。私はニべもなく放り出される。だから私はあんたに復讐の覚悟を決めなければならない。母の生きた証だよ!」「ウザい! 死んでくれ! 死ね!」など激しい文言を使い、看護師になることを決して許さないことを強調する。
年が明けた2018年1月5日、助産師学校の願書提出に関して母から激しい叱責を受けたこの日、のぞみは大学のパソコンで「ペディナイフ 殺人」などのワードでネット検索し、同月14日には「ナイフの殺害の仕方 裏・復讐代行業者裏サイト」などのタイトルのサイトを閲覧。3日後の17日にも、メモ帳代わりに使用していたGメールの下書き機能を用いて「チャンスは何回もあったのに決めきれなかったことが悔やまれるぞ。早く決めよう。怖じ気づくな。やっぱり明確で強い思いがないと無理だということがわかった。一応準備だけした」とのメモを残した。
その翌日が助産師学校の試験日で、結果が不合格であれば被害者を殺害しようと思って書き残したものだった。
18日、助産師学校を受験するも不合格となったのぞみは母から厳しい叱責を受け、いよいよ殺害を決意。看護職員の就職手続きの期限が迫っていたことも、気持ちを後押しした。
そして、1月20日午前2時18分ごろ、スマホゲームのやり過ぎで疲れたという母にせがまれ体をマッサージしているうち寝入ったため、事前に作成し隠匿していた包丁を加工した凶器で首を複数回刺し殺害する。犯行後の3時24分、ツイッターに「モンスターを倒した。これで一安心だ」と投稿した翌日、ホームセンターで鋸や鉈を購入し、しのぶさんの遺体を浴室に運び数日をかけて解体。体幹部を自宅近隣の河川敷へ、頭頸部と四肢は焼却ゴミとして処分した。
ちなみに、のぞみは解体から死体遺棄の間に母親のスマホに届いた親類などからのLINEメッセージに、本人になりすまし返信している。

2020年1月から大津地裁で始まった裁判で、のぞみ被告は警察での取り調べ時と同じく、母の死体損壊・遺棄は認めたものの殺害だけは頑なに否認した。また、被告弁護人は、被告には自閉症スペトクラム障害と、パーソナリティの偏りがあるため責任能力がないことを主張する。対して、検察は死体処理の際にポリ袋を用意するなど犯行は計画的で、被告が残した日記に母が自ら命を断つことを望む記述があることなどから責任能力はあるとして懲役20年を求刑。同年3月3日、地裁は懲役15年を宣告し、判決言い渡しの際、裁判長は次のように述べた。
「被害者が自ら命を絶ったという被告の主張は、監察医の報告により、その可能性はないと判断できる。また自ら命を絶った動機について『娘である被告が助産師学校を不合格になったから』というのは、被告が始末書を作成していることからも想定内であり、突発的に命を絶った可能性は否定される。さらに被告は被害者が亡くなったことを隠ぺいしており、その理由は被告が被害者を殺害した以外に理由は考えられない。
精神障害については認定するが、判断能力や行動能力の低下は見られず、責任能力はあると判断する。被告の発言や態度から反省しているとは思えない点や、近隣住民に恐怖心や不安感を与えた犯行であることも見逃せない。動機も自らの希望進路のためと自己中心的である非難は避けられない。
とはいえ、被告と被害者の関係性からも同情の余地はある。被告はこれまで、お母さんに敷かれたレールを歩み続けていたと思いますが、罪を償った後は自分の人生を歩んでほしいと思います」
弁護側は判決を不服として控訴したが、その後、のぞみ被告は一審の判決文を何度も読み返し、自分の心情を事細かに説明、理解を示す内容に心を打たれ、真実を話そうと決意する。
そして迎えた大阪高裁での第二審。のぞみ被告は「母は私を心底憎んでいた。私も母をずっと憎んでいた。『お前みたいな奴、死ねば良いのに』と罵倒されては『私はおまえが死んだ後の人生を生きる』と心の中で呻いていた」「何より、誰も狂った母をどうもできなかった。いずれ、私か母のどちらかが死ななければ終わらなかったと現在でも確信している」など、母殺害の詳細を記した陳述書を同高裁に提出する。
2021年1月26日、高裁は一審判決を破棄し、懲役10年を宣告。検察側、弁護側ともに上告しなかったため、刑が確定した。
(鉄人ノンフィクション編集部/Webオリジナル(外部転載))