2017年12月下旬、薄暗いマンションの一室には、異様な雰囲気が漂っていた。床にはブルーシートが敷かれ、片隅にはロープや薬剤、保冷容器が並べられている。やがて全身黒ずくめの男が現れ、壁に掛けられた中華包丁を手に取り、不敵な笑みを浮かべる。
【画像】ブルーシートが敷かれ、壁には異様な器具。大量の保冷容器と薬剤まで…親友A氏が撮影した斎藤純容疑者の部屋
その男は幼少期より、周囲にこう語っていた。「人間を殺して、解体してみたい」。2週間後、彼はこの部屋で宣言通りの凶行に及ぶのだった――。(全3回の1回目/続きを読む)
7年間止まっていた時計の針が動き出したのは、今年6月16日のことだった。
「2018年1月に宮本果歩さん(当時21)を殺害した疑いで、さいたま市に住む無職の斎藤純容疑者(31)が逮捕されました。埼玉県警によると、今年5月に窃盗事件で斎藤容疑者を逮捕した際、家宅捜索で部屋から3つの頭蓋骨を発見。DNA鑑定の結果、その中の1つが行方不明だった宮本さんのものと分かりました」(全国紙社会部記者)
友人に囲まれる斎藤容疑者(知人提供)
県警の調べに対して、斎藤は概ね次のように供述している。
「殺したことに間違いないが、合意の上で殺している。女性とはSNSを通じて知り合い、自宅マンションに招いてロープで首を絞めた。遺体は部屋で解体した後、ゴミ捨て場に捨てたり、部屋で保存したりしていた。小さいころから殺人願望のようなものを抱いており、ずっと頭の隅には『人を殺したい』という概念がつきまとっていた」
斎藤が抱いていた“殺人願望”とは、一体どのようなものなのか。彼はごく親しい友人らに限り、その全容を明かしていた。そのうちの1人が「週刊文春」の取材に応じ、重い口を開いた。
「純とは10代の頃に出会いました。彼は当時からずっと『人を殺したい、解体してみたい』と口にしていた。最初は思春期特有の発言だと思っていましたが、徐々にそれが現実味を帯びていった」
そう語るのは、逮捕直前まで斎藤と連絡を取り合っていた親友A氏。複雑な表情を浮かべながら、言葉を続ける。
「殺人願望がある一方で、純は『無差別殺人をしたい訳ではない。殺すための大義名分がほしい』と話していた。そこで辿り着いたのが、同意殺人や自殺幇助。ある時は『インターネットで自殺志願者を募ってみる』とも言っていました。
ただ、純には独特の世界観があった。例えば理解不能な『イマジナリーフレンド』の話もよく聞かされていました。だから当時は妄想と現実の境目が分からず、彼が話していた犯行の手口も全て妄想だと思っていたんです」
“妄想”という大前提で話に付き合っていたA氏だが、2017年冬に「(ターゲットが)見つかったから、これからやろうと思う」と連絡があった。その後の捜査では、2017年11月上旬に斎藤と宮本さんがSNSを通じて知り合っていたことが分かっている。
実はこの時、A氏は一度警察に相談したという。
「話しぶりから『あ、これ多分マジだな』と感じたので、純との電話を切ってすぐに警察に通報しました。そしたら『お友達なんでしょ、まずはお友達が止めるべきじゃない?』と言われて。確かにハッキリとした殺害予告ではなかったですし、警察も動けないよなと思って電話を切りました」(同前)
また、ふとした話題から「どうやったらスマホのGPSの追跡を切れると思う?」と相談された時には、次のように答えた。
「スマホのSIMカードを抜いて、電源を切って、アナログな方法で待ち合せたらいいんじゃない?」
A氏は当然、犯罪目的とは思わず、深く考えずに答えた。だが斎藤は、それを実行に移したようだ。
「斎藤容疑者は茨城県に住んでいた宮本さんに対し、居場所の特定を防ぐためスマホのSIMカードを抜き取るよう指示していました。宮本さんの家族には『住み込みのアルバイトに行く』と伝えるよう指示し、合流後も監視カメラを避けて自宅に向かうなど、足取りがつかめないよう綿密な計画を立てていた」(前出・社会部記者)
周到な準備はこれだけではなかった。
「2017年12月21日、純から『自分の部屋に冷蔵庫を置きたいから運ぶのを手伝ってほしい』と頼まれて、中古ショップから一緒に運びました。今になって考えると、純は実家暮らしだったのでやや不自然でしたが、当時は用途を知る由もなかった」(A氏)
この時に撮影された動画のワンシーンが、冒頭の場面である。絨毯の上からブルーシートが敷かれ、壁には見慣れぬ金属器具や麻のロープ、実験用保護メガネなどが掛けられていた。そのほか、大量の保冷容器や薬剤、バケツも確認できる。
宮本さんが行方不明になったのは、それから2週間後の2018年1月4日のことだった。その後、遺体の解体の最中とみられるタイミングでも、A氏に連絡があったという。
「電熱工具を使って肉片を削ぎ落とし、冷蔵庫や保冷容器に入れて保存していると言っていた。諸々の処理が終わるまで1週間ほど要したようで、その間も『どうしよう、思ったより大変だよ』と、鼻息荒く興奮した様子で電話がかかってきました」(同前)
斎藤は両親と3人暮らし。両親は「全く気づかなかった」と話しているが、遺体が発する臭いは相当だったはずだ。
「臭いには相当気を遣って、香辛料を大量に用意したそうです。キッチンで香りの強いスパイスと一緒に炒めることで、親が帰ってきた時にも『外国の料理を試しているんだ』とごまかせたらしい」(同前)
こうして誰にも気づかれぬまま、殺人と死体損壊を完遂した斎藤。その模様を聞かされていたA氏も、その後も斎藤に捜査の手が及ばなかったことから、「やっぱり妄想だったんだ」と深く気に留めていなかったという。そして斎藤は7年間にわたり、何事もなかったかのように日常生活を送っていた。事件が露見した今、A氏が胸の内を明かす。
「今にして思えば、『アイツがやらないはずがない』というのが率直な感想です。ただ純は他人に尽くすタイプで、心優しい男なんです。友達もそれなりにいたし、彼女だってつい最近までいました。それが“殺人願望”という間違った方向に向かってしまったのは残念です」
その結果、理不尽極まりない犯行に及んだ斎藤容疑者。だが、果たして犠牲者は1人だけなのか――。
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文春リークス:https://bunshun.jp/list/leaks
〈「今度、抱っこさせてくれ」さいたま頭蓋骨殺人 斎藤純容疑者(31)が親友に持ちかけた“殺人シミュレーション”の一部始終《“通り魔予行演習”動画も入手》〉へ続く
(「週刊文春」編集部/週刊文春 電子版オリジナル)