〈「みんな密かにやってるんじゃないかって」女性用風俗でも、不倫でもなく…15年“レス”だった母親が「息子との行為」を始めた“きっかけ”〉から続く
「私は父が好きだったんです」「母が出産しました。僕の子どもです」――タブーとされる「家族間性交」当事者たちは何を思い、日々を過ごしているのか。『近親性交 ~語られざる家族の闇~』(阿部恭子著、小学館)より一部抜粋し、お届けする。なお、本文中の人物名はいずれも仮名。(全3回の3回目/1回目を読む/2回目を読む)
【画像で振り返る】なぜ「息子と母」は性行為をし始めたのか?
母は息子と性行為をして、妊娠した beauty_box/イメージマート
◆◆◆
頻繁にかかって来ていた恵理子からの電話が途絶えてから、1年が過ぎた頃、突然、悠馬から電話があった。
「阿部先生、どうか驚かないで聞いて下さい……」
悠馬のかつてない慎重な話し方に、私の頭には、恵理子が自殺したのではないかという不安が過ぎった。ところが、
「母が出産しました……。僕の子どもです……」
私は言葉を失った。その後、恵理子は悠馬を追いかけ回すことはなくなったが、「死にたい」と頻繁にメールを送ってくるようになっていたという。
「このままだと、僕は殺されると思いました……。母がひとりで死ねるはずはないんです……。僕を必ず道連れにするはずだって……」
悠馬の声は震えていた。悠馬が感じた恐怖は、母と連れ添ってきた息子でなければわからないものなのかもしれない。
「僕は医師なので、命を救うのが使命です。死なれるくらいなら、命を授けようと思ったんです」
悠馬は母親を受け入れ、恵理子は妊娠したのだった。高齢出産や遺伝学上のリスクは承知の上だった。
父親は知っているのかと尋ねると、母親との関係について、既に父親に相談済みだという。父親にすべてを打ち明けても、父親は全く動揺しなかったというが、これほどの異常事態に、驚きもしないとは到底考えられない……。私は恵理子から聞いた夫の話を思い出し、もしかして、夫も母親と同じことをしていたのではないかと疑った。
「父も経験があるようなんです……。他人に言う話ではないが、別におかしいことじゃないって……」
やはり、世代間で連鎖している問題なのだ。悠馬は母と性交したことについて、父に罪悪感は抱かないのだろうか。
「いいえ。むしろ、母と仲良くするのは悪いことではないし……。父に秘密にしなければならないとは思っていませんでした。万引きしたことだけは、今でも秘密にしていますが……」
「悠馬さんにとって、お父さんを裏切るとはどういうことを指しますか?」
「医者にならないことです」
悠馬は迷わず即答した。つまり、佐々木家では妻は息子を産み、そして医師にする道具であり、その役割を担ってさえいればいいというわけだ。
父親は、子どもがもし男子であれば、悠馬の弟として育てるという。法律上は、あくまで嫡出「推定」であり、婚姻中にできた子は配偶者の子となる。
恵理子は無事に、男の子を出産した。子どもが生まれると、夫は喜んで父親の役割を果たすようになり、恵理子にとって、悠馬が生まれた時のような輝かしい日々が戻ってきた。再び子育てができるようになった恵理子は、悠馬に干渉する暇などない様子だった。
「ずっと2人目が欲しかったけど、悠馬に手がかかったし、体調も悪くて……」
恵理子の説明を怪しむ親族はいなかったという。事実を知っているのは家族と私だけだ。
「『弟』の人生に責任は持ちます。とんでもない家族ですが先生、どうか、僕たちを見捨てないで下さい……」
悠馬は密かに父親であり、社会的には兄になっていた。
「私の知り合いでも20歳離れた兄弟っているんですよ、もしかして、あの方々も私と同じなのかなって……」
恵理子の言葉に、私は思わずそんなはずはない……と言いかけたが、実際、起こるはずがないと思っていたことが目の前で起きている。世の中、何があるかはわからない。
(阿部 恭子/Webオリジナル(外部転載))