人はなぜ死に至ってしまうのか。大切な人を突然亡くさないために、できることはないのか――。
大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズを監修し、5000体以上を検死・解剖してきた法医学者で、『こんなことで、死にたくなかった』 (三笠書房)の著者・高木徹也氏が、高齢者の「まさか」の死因を解き明かす――。
【前編を読む】《孤独死ミイラ化》の原因は、まさかの「エアコン」…!? 5000体以上を検死した法医学者が語る「夏の意外すぎる死因」
世界には3500種類以上、日本には100種類ほどの蚊が存在すると言われています。そのうち人を刺して吸血するのは20種類ほど。身近にいる代表的な蚊としては、ヒトスジシマカ(ヤブカ)、アカイエカ、チカイエカが知られています。
蚊は人を刺すと、皮膚に微量の唾液を注入します。人体はその唾液にアレルギー反応を起こすため、「赤み」や「かゆみ」が生じるわけです。
ただ、かゆいだけならいいのですが、蚊から運びこまれた微生物でさまざまな感染症を引き起こす危険もあります。蚊が媒介して起こす代表的な感染症には、「日本脳炎」「ウエストナイル熱」「デング熱」「チクングニア熱」「ジカウイルス感染症」などのウイルスによるものや、「マラリア」などの原虫によるものがあります。
「日本脳炎」は、豚が保有するウイルスを「コガタアカイエカ」が吸血して運び、その蚊に人が刺されることで感染するものです。日本では大正時代に流行し、6000人以上の患者、3700人以上の死亡者を出しています。その後、昭和時代にも流行して多数の患者を出しましたが、その際にウイルスの分離に成功し、現在の日本脳炎ワクチンができました。それでもいまだに年間数名の患者が出ています。
マラリアは、熱帯・亜熱帯地方でいまだに流行している原虫による感染症で、「ハマダラカ」によって媒介されます。ちなみに原虫とは、細菌よりも大きい単細胞の微生物のことです。
最近では、2014年に都内で100人以上の「デング熱」患者が発生する事態が起きました。デング熱はもともと熱帯・亜熱帯地域で流行する感染症で、日本国内での発生はほとんどありません。
当時の患者は、都内の代々木公園に訪れた人たちでした。海外で感染していた人が公園内の複数の蚊に刺され、それらがほかの人を刺したことで発生したものと推測されています。
ところで、蚊に刺されたときの「かゆみ」は厄介ですが、刺されたことを私たちに知らせるものでもあり、感染に対する危険性を早期に察知できる症状とも言えます。
私が東京に住んでいたころ、地元町会の手伝いをしていたときのことです。
夏場は、使用している物置小屋の周辺に蚊が多かったので、いつも虫除けスプレーを使っていました。そこに当時70歳を過ぎた町会長がやってきて、「最近、蚊に刺されないからスプレーを使わなくなったんだよ」「年取ると血がまずくなるのかなあ」なんて冗談めいた話をしていたのです。
しかし、よく見るとたくさんの蚊がたかって、しっかり町会長を刺していました。つまり、高齢になってアレルギー反応が弱くなったため、刺されたところが赤くなることも、かゆみを感じることもなくなるわけです。
蚊に刺された自覚症状がなくても、感染症にかかる可能性はあります。蚊への対策は、年齢にかかわらずしっかり講じておくことが大切です。
・蚊を発生させない環境を整える。
・虫除けスプレーなど、蚊に刺されない予防策をとる。
・海外に行く際には、現地の感染症の情報を事前に把握する。
次ページからは、お盆に起こり得る悲惨な事故の可能性について解説する。
寒い季節になると火災が増えます。不謹慎な話ではありますが、私たち法医学者は、家屋火災が増えると冬の訪れを感じるようになります。
多くの家屋火災の原因は、タバコの火の不始末やタコ足配線、調理器具や暖房器具からの出火、そして漏電です。このような家屋火災で亡くなった場合の死因は、燃える際に発生する一酸化炭素ガスによる「中毒死」がほとんどになります。
血液中にある赤血球にはヘモグロビンというタンパク質があり、通常はこのヘモグロビンに酸素が結合することで、効率よく脳や全身に酸素を運搬します。
ところが、一酸化炭素はヘモグロビンとの結合力が、酸素と比べ250倍ほど強いため、酸素の結合・運搬を邪魔してしまいます。その結果、低酸素になって亡くなってしまうわけです。火災が発生して、まず人体に影響を与えるのは、火よりも一酸化炭素を含んだ「煙」のほうなのです。
ところで、先に家屋火災は寒い季節に多いと言いましたが、とある理由で、夏でも高齢者が火災で亡くなるケースがあります。
それは、お盆の時期です。多くの場合、消防署による鑑定で出火元が仏壇近辺と判明するので、仏壇に置いてあった火のついたろうそくが倒れるなどして、火災が発生したものと推測されます。
仏壇の火が原因の家屋火災で亡くなる場合、血液中の一酸化炭素の濃度がそれほど高くなく、のどの奥が焼ける「気道熱傷」が確認できることがあります。
気道熱傷は、火元に近い場所で、火そのものや熱気を帯びた煙を吸ったことによって生じます。やけどによって空気の通り道である気道が腫れて塞がり、窒息のような状態で亡くなってしまうわけです。
このように、仏壇からの火災で発見された焼死体に気道熱傷が認められた場合は、燃え広がるのを防ごうとしているうちに熱気を吸ってしまったと考えられ、最後まで消火に尽力したことがうかがえます。
一方で、焼死体ではあっても、解剖してみると、心筋梗塞などの虚血性心疾患や脳内出血が死因だとわかる場合があります。仏壇のろうそくからの失火による家屋火災で亡くなった高齢者にも、まれにみられるパターンです。当然、一酸化炭素も検出されませんし、気道熱傷もありません。
みなさんは、なぜだと思いますか? このような場合、私たちは「仏壇のろうそくに火を灯した後に心臓や脳の病気を発症し、正座していた状態から前のめりに倒れたことで、ろうそくを倒して火災を発生させた」と判断します。
高齢者は、突然に心血管疾患や脳血管疾患を発症する可能性がある、ということを心得ておきましょう。火を取り扱っているときに運悪く……という事態も考えられ、二次的な被害につながってしまう可能性もあります。
ご高齢の方は、あまり自分の健康状態を過信しすぎず、日常のちょっとした危険にも十分に注意することが大切です。
・火よりも煙が怖いことを認識する。
・高齢者は単独で火を取り扱わない。
・万が一火災が発生したら、無理に消火せずすばやく退避する。
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