人はなぜ死に至ってしまうのか。大切な人を突然亡くさないために、できることはないのか――。
大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズを監修し、5000体以上を検死・解剖してきた法医学者で、『こんなことで、死にたくなかった』 (三笠書房)の著者・高木徹也氏が、高齢者の「まさか」の死因を解き明かす――。
【前編を読む】「蚊に刺されて」「お盆に仏壇の前で」…5000体以上を検死した法医学者が警鐘を鳴らす、夏に潜む「死の落とし穴」
「紳士のスポーツ」と名高いゴルフ。道具は高額で、練習するにもプレーするにもお金がかかるスポーツですが、趣味としての人気は健在です。
ただし、ある程度、時間とお金にゆとりが必要なためか、60歳以上がプレイヤーの半数を占めるとも言われています。つまり、ゴルフ場には自然と高齢者が集まってくるので、プレー中に突然死が起こる確率が高いことも必然というわけです。
ゴルフ場には、アップダウンの多いコースがありますし、日照りや雨風の影響をもろに受けます。さらに、みんな早起きして集まるので寝不足な人もいるでしょう。「いいスコアを出したい」という精神的なプレッシャーも大きい。要するに、心身にさまざまな負荷がかかりやすいのです。
その結果、生活習慣病のある高齢者は、心筋梗塞や不整脈などの虚血性心疾患、脳出血やくも膜下出血などの脳血管疾患を発症する危険性が高まります。
私もゴルフ中に突然死した方の解剖をしたことがありますが、死因の多くは虚血性心疾患で、生活習慣病のある高齢者がほとんどでした。
それ以外の死因として、近年報告されているのが「熱中症」です。厚生労働省の統計では、スポーツ施設での熱中症発生者数は、ゴルフ場が最も多いそうです。
屋根もなく日陰も少なく、芝からの照り返しも強い。汗もダラダラかきます。さらに、昼をまたいでプレーする場合、昼食時に飲酒する人も多く、するとますます脱水が進行してしまいます。
ゴルフは、暑さ対策や水分補給をしっかり行ないながらプレーするのが肝心です。暑さがとても厳しい場合には、途中で切り上げる決断も必要でしょう。
私もたまにプレーしますが、訪れたことのある二つのゴルフ場で、不幸にも事故があったことを耳にしました。
一つは、コース上を移動する際に利用するカートのハンドル操作を誤って、運転していたカートごと坂道で転落した事故。乗車していた一人が、逆さまになったカートの下敷きになって亡くなったそうです。
もう一つは、池に落ちたボールを拾おうとしたプレイヤーが転落し、それを助けようとした同伴プレイヤーも転落して、二人とも死亡してしまったケースでした。池はすり鉢状になっていて、さらに、池の縁にはビニールシートが敷かれており、スパイクを履いていたプレイヤーは滑って脱出できなかったのでしょう。
ちなみに、プレー中の最も危険な事故は「落雷」です。近年は対策も進み、事故も減りましたが、十数年前までは年間に数名がプレー中の落雷で死亡していました。
高い木のないフェアウェイであれば、プレイヤーとゴルフクラブが一番高い地点になるため、雷が落ちて被災することがあります。また、雨が降っているときに、木の下で雨宿りをしていると、その木に雷が落ちて被災することもあります。
雷発生の可能性がある場合にはプレーをすぐに中断し、一番近い避雷小屋などに急いで避難してください。
・心身に負荷がかかるような無理はせず、体調に合わせてプレーする。
・暑い時期には、熱中症対策を万全に。
・最新の天気情報をこまめに確認する。
伸縮性のあるロープを足に結びつけ、高所から飛び降りる──スリル満点のアトラクションと言えばバンジージャンプです。その起源は、バヌアツ共和国で行なわれていた成人の通過儀礼だと言われています。
バンジージャンプは、飛び降りる高さが高いほどそのスリルは高まります。日本では、茨城県にある高さ100メートルの竜神大吊橋や、岐阜県にある高さ215メートルの新旅足橋が有名です。
世界で最も高所の施設は、アメリカのコロラド州にあるロイヤル・ゴージ・ブリッジで321メートルもあります。以前コロラドへ行って訪れた際は休業日だったのですが、橋から下をのぞいてみて、あまりの高さに恐怖した記憶があります。
二番目に高いのは、マカオタワーにあるバンジージャンプ施設で、高さは233メートル。2023年12月、この施設で56歳の日本人がジャンプ後に亡くなりました。
死因の詳細についてはわかりませんが、安全装置の問題や管理不備が原因ではなかったそうで、無事にバンジージャンプを終えた後、気圧の変化によって不整脈を発症したのではないかと言われています。
バンジージャンプをした際に、人体にかかる気圧による負荷をザッと計算してみたところ、マカオタワーの立地条件や高さを考慮すると、落下するまでにかかる時間は約6.9秒、気圧は33ヘクトパスカル程度の変化だと思われます。
健常者であればそれほど大きな影響を受けないでしょうが、動脈硬化などがある高齢者の場合は、血流障害から不整脈などの心疾患を起こす可能性は十分にある数値です。
ちなみに、法医学者として最も恐れているのは「頸髄損傷」です。
バンジージャンプは、高所から、重さが5キログラムもある「頭」を下にして飛び降ります。最下地点では身体部分が上に引き上げられるのに対し、慣性の法則で重い頭は下に向かいます。つまり、「首」に引き伸ばされるような負荷が生じるのです。
足に装着されるロープの長さや伸縮性によって負荷が異なるため、一概には言えませんが、片手に5キログラムのダンベルを持ってバンジージャンプすると考えると、かなりの負荷がかかることは想像に難くないでしょう。
体重60キログラムの人が高さ233メートルから自由落下した場合、時速約240キロメートルの速度で地面に衝突し、約13万ジュールのエネルギーを被ります。これは高速道路を走行している車に衝突されるエネルギーに相当します。
実際には地面に衝突するわけではないですし、ロープによって落下速度が減衰するため単純に比較はできませんが、重い頭を支えている首が引っ張られて、首の骨の中を通っている「頸髄」に損傷が生じる可能性は否定できません。
「頸髄損傷」を被ると、四肢の麻痺、呼吸停止から死亡してしまう危険があります。特に、高齢者は動脈硬化症や骨粗鬆症の方も多いため、気圧の変化による障害だけでなく頸髄損傷を引き起こすこともあるでしょう。
スリルを求めすぎるのも考えものですね。
・バンジージャンプ施設の安全性を確認する。
・高齢者はバンジージャンプを控える。
・若年者であっても、極端に高所からのバンジージャンプはよく検討する。
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