日本郵便(JP)で運転手への点呼が適切に行われていなかった問題で、国土交通省は月内にも、JPに対する自動車貨物運送の事業許可を取り消す方針を固めた。
全国の郵便局のトラックやワンボックス車など約2500台による運送事業が対象となる。貨物自動車運送事業法に基づく最も重い行政処分で、大手事業者の取り消しは極めて異例だ。(森田啓文)
取り消し後5年は許可を再取得できない。年10億個(2023年度、市場占有率2割)を扱う宅配便「ゆうパック」や、郵便事業への影響は避けられず、JPは、子会社「日本郵便輸送」や協力会社への委託を増やすなどして対応するとみられる。
同法は、貨物運送事業について〈1〉トラック、ワンボックス車などの自動車で許可制〈2〉軽トラック、軽バンなど軽自動車と二輪車で届け出制――を採り、郵便配達で多用される原動機付き自転車(原付きバイク)は対象外。JPによると、全国の郵便局で〈1〉を約2500台、〈2〉は約3万2000台保有している。
JPでは1月、兵庫県内の郵便局で、乗務前後に酒気帯びの有無や疲労・睡眠の状況などを調べる法定の点呼を数年にわたり怠っていたことが判明した。全国3188の郵便局を対象に内部調査をした結果、75%にあたる全13支社2391局で何らかの不備が確認され、4月23日に総務省と国交省へ報告・公表した。
これを受け、国交省は4月25日、JPへの特別監査に着手した。高輪郵便局(東京都港区)など全国各地の郵便局に対し、各地方運輸局が立ち入り検査を進めている。
関係者によると、立ち入り検査ではトラックやワンボックス車の運転手に点呼の未実施や記録改ざんなどが多数確認され、関東運輸局の管内だけで累積違反点数が許可の取り消し基準(81点)を超えた。ある国交省関係者は「大手事業者とは思えない悪質さだ」と指摘する。
国交省は今月5日にも処分案を公示し、JPの意見を聞く「聴聞」を実施した上で許可を取り消す方針。同運輸局管内で許可の取り消しが確定すれば、他の地方運輸局管内を含めJP全体に効力が及ぶ。
JP関係者によると、JP内には軽バンを増やして運転手の配置を換えたり、子会社に運転手やトラックを移したりする案もある。ただ、対応によっては事実上の「処分逃れ」となる恐れがあり、関係当局が注視している。
国交省は今回、より大きな事故被害の生じる危険性があるトラックなど(〈1〉)の監査を先行させている。今後、集配の主力を担う軽バン(〈2〉)についても監査を急ぐ。軽自動車による運送事業は届け出制のため、許可の取り消し処分はないが、多くの郵便局で順次、車両の使用停止などの処分を受ける可能性が高い。
一方、一連の問題を受け、JPが飲酒運転について集計したところ、4月の1か月だけで、全国10支社で計20件の酒気帯び運転が判明した。このうち1件は、点呼を受けずに原付きバイクで配達業務に出た運転手の呼気から、道路交通法の基準値未満のアルコールが検出された。残る19件は車や自転車で出勤した後、点呼で酒気帯びが発覚した。
JPは貨物自動車運送事業法の規制対象とならない原付きバイク約8万3000台についても、過去の点呼の実施状況を調査している。千田哲也社長は4月23日の記者会見で、「(原付きバイクの)調査結果がまとまり次第、公表する。道交法を守るという観点から、(自動車と)同様にカメラの前での点呼を4月から徹底している」と述べていた。