備蓄米の店頭販売が全国各地で始まった。販売店にはたくさんの人が押し寄せ、多くのメディアが取り上げるなど、米価格沈静化の「救世主」になることを期待されている。
一方で、気になるのはやはり品質だ。売り出されている備蓄米は2022年産の「古古米」や2021年産の「古古古米」だ。
東京都渋谷区で精米店を営む五つ星お米マイスターの小池理雄さんは、品質について「首をかしげざるを得ない」としたうえで「アベノマスクの再来になる可能性もある」と警鐘を鳴らす。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)
備蓄米は5月30日から随意契約した業者に対する売り渡しが始まり、早いところでは翌日から店頭に並んだ。
どの店でも大体5キロ2000円前後で販売。農水省が6月2日に公表した平均価格4260円の半額だ。長蛇の列ができている販売店も見受けられた。
備蓄米の放出について、小池さんは「人によって米の嗜好は違う。安ければいいという人はある程度いるので、そういった人たちがお米を買えるという意味で去年のようなパニックにならなくていい」と話す。
国民民主党の玉木雄一郎代表は衆院農林水産委員会で、備蓄米について「あと1年経ったら動物のエサになるようなもの」などと発言し、物議を呼んだ。
五つ星お米マイスターはその品質をどうみているのだろうか。
小池さんは「米屋が食べるのはせいぜい古米まで、古古米や古古古米は食べたことがないのではっきりとはわからない」と前置きしたうえで、「古米臭がするのは間違いない」と断言する。
古米臭とは、主に米の表面やぬかについている脂肪が酸化して発生する臭いで、小池さんも表現できない独特なニオイだという。
味についても「硬くなることで粘りが落ちてしまうため、味が良くないのが一般的」と分析。そのうえで「去年収穫された米と比べても、首をかしげざるを得ないのは間違いない」と強調した。
一方で、「備蓄米は、きっちりと温度と湿度が管理された倉庫で保管されているので、もしかしたら品質も違うかも知れない」とした。
品質を懸念する一方で、小池さんは備蓄米の随意契約については検討したという。
しかし、今回はあくまでも一般消費者向けで、飲食店などの業務用には使えないうえ、新米などとブレンドしての販売もできないということがわかり、断念した。
「飲食店はこれだけ米の値段が上がっていると、単価を下げたいという思いがある。我々のブレンド技術を使って、食べられる品質に仕立てて飲食店に売ることで、値段の下降に貢献できると思ったが、それはまかりならぬということなので」(小池さん)
専門店でも米が足りない状況は続いているが「現状では備蓄米に使い道がない」と話す。
備蓄米の販売が始まると、スーパーでは長蛇の行列ができ、マスコミはその様子をこぞって取り上げた。小池さんは「一種のイベントになっている感が少しある」と苦笑いを浮かべる。
「実際、買った人がどう判断するか。これはちょっと食えたものではないと思ったらリピーターにはならない」
そのうえで「アベノマスクみたいになるのではないか」と述べ、かつて「世紀の愚策」とも揶揄された政策を取り上げて危機感を示した。
米価格の高騰が沈静化する見通しについて、「まだなんとも言えないが、備蓄米の放出によって、民間在庫にはかなり余裕が出たと聞く」と小池さん。
一方で、「産地の人の話では、業者が今年の秋に採れる米の買い付けをもう始めていて、JAの金額よりも全然高い金額で買い集めているという。まだまだ過熱気味。10月、11月になったら、だいたいわかるのではないか」と慎重な見方を示した。
6月5日からファミリーマートやローソンでも備蓄米の販売が始まった。
備蓄米が生活の救世主となるか、それとも、かつての失策を再現するのか。その判断は消費者に委ねられていると言えるだろう。