備蓄米を随意契約で入札した企業の社長と面談し、備蓄米の保管された倉庫を視察し、ある時は実食。そして備蓄米の並ぶスーパーを視察――。小泉進次郎新農水相(44)がテレビに映らない日はなく、“小泉コメ劇場”の幕は降りる気配がない。
各放送局の報道番組にも出演し、30万トンの備蓄米放出による米価引き下げを連日アピールしている。政府の資産である備蓄米を「小泉米」として紹介する放送局も出る始末だ。
「集荷業者のJAや卸売業者を通さずに直接、小売に卸し、5kgを2000円で販売させた手腕はこれまでになかったもの。ただ、第1弾の放出分はあっという間に売り切れてしまった。備蓄米の残りは30万トンとなっており、購入を望む国民に行き渡る量ではない。
今後、遅れて江藤拓前農水相(64)が放出した備蓄米が店頭に並ぶことになる。こちらは95%がJAに売却されており、卸売業者のマージンを付けなければいけないため、一年新しいものではあるが5kg3000円から3500円で販売しないと赤字となる。“小泉米”が2000円で出回った後に店に並ぶ“江藤米”が、果たして3500円で売れるのか」(農政専門紙記者)
5月31日、進次郎氏は横須賀市長選で3選を目指す現職の上地克明市長(71)の市政報告会に出席し、「政治は強い意志があれば、道が開ける」「(備蓄米の販売は)6月上旬も無理と言われていた」とJAや農林族を暗に批判した。
同日、鹿児島県鹿児島市で開催された森山裕幹事長(80)の国政報告会で、野村哲郎元農水相(81)は演説の大半を森山氏の礼賛に当て、返す刀で進次郎氏が備蓄米の売り渡しを随意契約に変更したことを自民党農林部会で諮らなかったと指摘し、こう苦言を呈した。
「もうほとんど自分で決めて自分で発表してしまう。ルールを覚えてもらわないといけない」
槍玉に挙げられた、進次郎氏は翌6月1日、備蓄米を扱うスーパーの視察後、「農林部会長だったのでルールは存じている。大臣がやることなすことを一つ一つ党に諮らなければならないとしたらスピード感を持って大胆な判断はできない。政省令の改正や運用などは大臣が決めること。私はこれがルールだと思う」と正面から野村氏の苦言を切り捨てた。
「党内で敵を作らない」とみなされていた進次郎氏が先輩議員に反論したことに、自民党内では驚きの声が広がっている。自民党ベテラン秘書がこう推察する。
「野村氏は鹿児島県農協中央会出身で“JAの代弁者”ともいえる政治家。事前に根回しもせず、JAを通さずにコメを流通させた進次郎氏を目の敵としているのは間違いない。一方の進次郎氏は耳目を集める世襲議員として党内で敵を作らないことに腐心してきた。今回も派手にやりつつもJAを介さずに直接小売に卸すことは“裏総理”の森山幹事長に根回し、連絡を取り合って決めたことです。
森山幹事長は野村氏の発言を横で聞いており、『大幹事長の前では“時の人”である進次郎氏もタジタジ』という文脈の中で進次郎氏を当てこすった言葉であることは当然、わかっている。各紙が報じる前、進次郎氏に『野村氏の発言に悪気はないから』と連絡を入れたと考えるのが自然なことで、森山幹事長のシナリオに沿って進次郎氏が反論したのではないか。メディアは対立構造を好んで報じるものだから」
森山氏の思惑を前述の秘書は続けてこう語る。
「選挙を取り仕切る幹事長として、進次郎氏を既得権益に切り込む改革者として、父親の純一郎氏(83)を彷彿させることで7月の参院選の看板としたいのではないか」
一連のコメ報道で、下村博文元文科相(71)の参考人招致や企業団体献金の結論を先送りした記事の扱いは小さくなっている。それどころか石破政権の支持率もアップしている。進次郎氏をスターに仕立て上げることは、自民党の参院選に向けた戦略といえようか。
「進次郎氏が連日大きなニュースとして扱われること、備蓄米を市場に出してすぐに売り切れることは、コメの値上がりに有権者がどれだけ苦しんでいたかの裏返しでもあります」
立憲民主党備蓄米ワーキングチーム座長で、青森選挙区で祖父の代から田んぼを持つ田名部匡代参議院議員(55)は冷静にそう説き、こう続ける。
「進次郎氏のパフォーマンスに目を奪われがちですが、コメ不足の本当の問題点が解决されていない。備蓄米は税金で買ったもので、国民の財産です。緊急時なので理解しますが、輸送コストまで国が負担している。備蓄米を買えなった人たちの声が高まれば、不公平だとの批判が起きかねない。今の農業政策を見直さない限り、米価の高止まりは続くのではないか」
パフォーマンスの前に、抜本的な農政改革に取り組むことがまず先ではないのか。
取材・文:岩崎大輔