「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」、2つまとめて「サンライズエクスプレス」は「カシオペア」と同じくらい知名度のある列車だと思う。日本でただ一つ、毎日運行する寝台特急だ。
【画像】「まるで自宅」寝台特急サンライズの個室たち
早朝、東京駅へ向かうサンライズ瀬戸・出雲(筆者撮影)
サンライズ瀬戸は東京駅と高松駅を結び、サンライズ出雲は東京駅と出雲市駅を結ぶ。また、東京駅~岡山駅間はサンライズ瀬戸・出雲を連結して走る。車両は赤とベージュに塗り分けた2階建てだ。早朝の上り東海道本線、深夜の下り東海道本線で見かける。見た人は遠い旅路を思い浮かべるだろう。
下りのサンライズ瀬戸とサンライズ出雲は東京駅を21時50分に発車する。横浜駅、熱海駅、沼津駅、富士駅、静岡駅、浜松駅と停車しながら神奈川県と静岡県の人々も乗せて夜通し走り、姫路駅に5時25分着、岡山駅に6時27分着。

山陰と四国への列車というイメージが強いけれど、実は姫路駅に早朝着と考えると近畿圏へのアクセスにも便利だし、姫路駅や岡山駅から山陽新幹線に乗り継げば、広島駅に7時台、博多駅には8時台に到着できる。
岡山駅でサンライズ瀬戸とサンライズ出雲が分離されて、サンライズ瀬戸が先に発車する。瀬戸大橋を渡って高松駅到着は7時27分だ。夏休み期間などは、高松で折り返し、琴平駅まで延長運転する。琴平駅到着は8時39分。金刀比羅宮をお参りして降りてくると、カフェや博物館の見学にちょうど良い。表書院や宝物館は9時、境内のカフェは10時にオープンする。
サンライズ出雲は岡山駅を発車したのち、倉敷駅、新見駅に停まって日本海を目指す。米子駅に9時5分着、松江駅に9時33分着、出雲市駅に10時ちょうどの到着と、観光に便利な時間帯になっている。気心知れた友人と、縁結びで知られる出雲大社へサンライズ出雲で行く。そんな女子旅に人気があるという。
それもあって、サンライズ出雲は繁忙期に1往復増発される。東京駅を22時21分発、出雲市駅13時32分着だ。全区間を乗り通すと15時間11分の長旅になる。これは鉄道ファンにも人気の列車だ。乗り鉄は目的地に早く着くよりも、気に入った列車に長く乗りたいものなのだ。
上りサンライズ出雲は出雲市駅を18時57分に発車して、岡山駅に22時31分着。ここで高松駅21時26分発のサンライズ瀬戸と連結する。姫路、三ノ宮、大阪に停まって、静岡駅に4時38分着。東京駅に7時8分に到着する。朝から活動するには早い時刻だけれど、これは通勤で混雑する時間帯を避けるためだ。
ならば通勤時間帯を避けて9時台の到着にすると、会社や学校に間に合わない。7時台到着は日常生活に戻るための配慮でもある。もし何らかの事情で東京駅到着時刻が遅れると、サンライズ瀬戸とサンライズ出雲は通勤列車を優先させるため、小田原から貨物線に迂回して品川止まりになる。
個室の種類も多く、B寝台個室「ソロ」、B寝台個室「シングル」、シングル2段ベッドの2人用B寝台個室「シングルツイン」、ツインベッドの2人用B寝台個室「サンライズツイン」、1人用A寝台個室「シングルデラックス」がある。すべての部屋が暗号キーで施錠でき、部屋の広さとベッドの幅などで値段が異なっている。「シングルデラックス」がもっとも充実しており、大型デスクや洗面台を備えている。
近年サンライズ出雲が女子旅に人気となった理由は、目的地の魅力に加えて、個室中心で安心なこと、とくにサンライズツインのツインベッドの存在が大きい。4~6人で旅するときも、それぞれの部屋で寝る前にサンライズツインに集まって女子会ができる。
個室以外にも、カーペット敷きの「ノビノビ座席」がある。「座席」と言っても1人当たり1畳ぶんのスペースがあるだけ。頭の部分に左右の仕切りがあり、毛布が用意されている。

ノビノビ座席は制度上「座席」扱いだから、乗車券と特急券で乗車できる。つまり、寝台料金がいらない。しかし女性専用車があるわけではないから、女性には勇気が必要で男性でも心もとない。それでも安価だから人気がある。
とくに大阪~東京間など、比較的短距離の利用で重宝する。私も一度乗った(けれど、さすがに腰が痛くなった)。隣の2区画で両親の間に小さな子どもが寝ており、持参のマットを敷いていた。これは上手な使い方だと思う。
サンライズ出雲・サンライズ瀬戸にはそれぞれ共用設備としてシャワールームが2カ所あり、うち1つはシングルデラックス車両、もう1つはソロ車両にある。シングルデラックスにはシャワーカードが付属している。その他の乗客は車掌さんや自販機からシャワーカードを購入して使う。ソロ車両のシャワー室は近くにミニラウンジがあるから、個室で眠る前に同行者と語らいの時間を過ごせる。飲料自販機はソロ車両とノビノビ座席車両にあるけれど、品数が少ない。

カシオペアは寝台特急の最上級を目指した。これに対してサンライズは寝台特急のサービス基準を底上げした立役者と言えるだろう。
私はサンライズ出雲とサンライズ瀬戸のどちらも好きで何度か乗っている。下り列車は東京駅を発車すると、賑やかな街を走って行く。窓の外には日常があり、こちらは個室寝台で寝そべっている。疲れた表情の人々を見るとちょっと優越感がある。
ただしくつろぎ過ぎてはいけない。とくにパンツ1丁はやめよう。1階席は途中停車駅のプラットホームから丸見えだ。

2階席もベッドと窓が同じ高さになり、やっぱり外から見えてしまう。パジャマとは言わないが、ジャージやスウェットパンツを持参したほうがいい。トイレやミニロビーに行くときに動きやすい。
サンライズは瀬戸も出雲も食堂車や車内販売がない。飲料自販機はあるけど品数は少ない。ふだんから朝食を食べない習慣がある人も、万が一の到着遅延に備えて、飲み物や乾き物を用意しよう。東京駅21時50分発だと夕食は済ませている人も多いだろうが、車内で晩酌や夜食を楽しむためのグッズも買っておきたい。

寝台特急の旅の楽しさは、夜景を見ること、星空を見ること、そして朝の明るくなっていく街を眺めること。始発列車に乗っても見られるけれど、しっかり眠って、起きてから動かずに見られる景色がいい。すごくいい。

朝の景色も見どころだ。下りサンライズ出雲の場合、8時50分頃の進行方向右側に注目だ。天気が良ければ伯耆大山を拝める。広い裾を持つ優美な姿が山陰に来たなと実感させてくれる。気の利いた車掌さんは車内放送で教えてくれる。

米子を出ると、時々水辺が現れる。中でも宍道湖は夕日の名所。上りサンライズ出雲の宍道駅発車時刻は19時11分だから、暦を見ると5月下旬か7月下旬あたりは車窓から夕日を眺められる。

日の出はといえば、熱海駅を出た後、根府川駅付近の景色が見事だ。熱海駅の発車時刻は5時45分だから、こちらは3月上旬、10月中旬がオススメだ。「サンライズ」と名の付いた列車に乗るなら車窓から日の出を眺めたい。

下りサンライズ瀬戸の見どころは瀬戸大橋だ。窓の外を橋の骨組みが流れていく、その向こうに瀬戸内海の島々が見える。進行方向の左右どちらの景色も良い。四国に上陸すると、宇多津、坂出の街並みが出迎えてくれる。高松駅は行き止まり式のプラットホームで、旅の終着地にふさわしい雰囲気だ。

上りのサンライズ瀬戸は瀬戸大橋へ向かう高架区間で、夜景を見渡せる。瀬戸大橋から見える島々に小さな灯りがあり、人々の暮らしに思いを寄せる。岡山から先はサンライズ出雲と同じ。ぐっすり眠って太平洋の日の出を待とう。
こうした素晴らしい旅の時間を過ごせる寝台特急だが、かつての「ブルートレインブーム」は見る影もなくなってしまった。先日はカシオペアが引退すると発表があり、ついに定期運航するのはサンライズのみである。ではなぜ、多くの寝台特急の中でサンライズのみが生き残ったのか。後編では、その理由を解説していこう。

〈「新大阪」でも「広島」でも「博多」でもなく…終点が「出雲市」「高松」なのに、なぜ“寝台特急”の中で「サンライズ」だけ生き残ったのか〉へ続く
(杉山 淳一)