第1回【コメの流通経路は「際立って前時代的」と「ドンキ」社長が喝破…「小泉大臣」方式の圧倒的なスピード感に「これまで遅かったのは誰のせい?」】からの続き──。共同通信は6月1日、「【独自】備蓄米放出で倉庫収入消失 月4億6千万円、廃業検討も」とのスクープ記事を配信した。(全3回の第2回)
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記事によると備蓄米は60万トンを超える量が放出されるため、全国各地で保管している倉庫では東京ドーム約8個分の空きが生じる。結果、倉庫会社が受け取ってきた保管料が1カ月あたり約4億6000億円失われる見通しだという。
共同通信は《廃業を検討する事業者もある》と伝えた。記事はネット上でも拡散し、XなどのSNSには様々な感想や意見が投稿された。担当記者が言う。
「何よりも多くの読者が驚きました。『倉庫に備蓄米が保管されていないと、倉庫会社は収入を得られない』との制度設計になっていると初めて知ったからです。これでは凶作や災害が発生して備蓄米を放出するたびに、倉庫会社は経営難で廃業することになるでしょう。Xでは『備蓄米は放出するのが本来の使い方だから、放出して破綻はおかしい』、『倉庫会社には備蓄米の保管料ではなく、倉庫自体のレンタル料を払ってほしい』、『備蓄米の保管は民間委託ではなく、国営の倉庫で行うほうがいい』など、放出しても倉庫会社が困らない制度に改めるべきという意見が目立ちました」
ところが、である。備蓄米を預かる倉庫のうち、かなりの数をJAが運営していることをご存知だろうか。
「日本経済新聞の電子版は1月31日、『備蓄米100万トン、維持費は年478億円 低温倉庫で保管』との記事で、備蓄米は《各地のJAなどにある低温倉庫で保管される》と伝えました。また読売新聞の編集委員は自身のXで備蓄米の大量放出問題に触れ、《備蓄米の在庫が減れば1万トンあたり年1億円の血税を払ってきた倉庫費用が浮く》と指摘、《備蓄米の多くを保管してきたJAは収入減で困るだろう》と投稿したのです(註)」(同・記者)
備蓄米を保管する倉庫の所在地を、国は「防犯上の理由」から非公表としている。だが新聞記事のデータベースで調べてみると、JAの倉庫が備蓄米を保管していると伝える複数の記事が表示される。
例えば東北地方のJAが低温保存も可能な倉庫を竣工したと伝えた記事では、「備蓄米を保管することも計画」と報じた。上越地方にあるJAの低温倉庫は一般開放を行い、ガイドツアーが備蓄米の保管状況を見学者に説明した。首都圏のJA倉庫では火事が発生し、多量の備蓄米が焼けた……。
「もちろん物流など、備蓄米の保管を引き受けている、JAとは無関係の民間企業もあります。ただ考えてみると当たり前ですが、JAはコメの集荷を担っています。保管用の倉庫を整備することは重要な事業でしょう。最新型の低温管理倉庫も持っていますから、そこで大量の備蓄米を保管するのは理に適っていると言えます。そして、だからこそJAが落札した“江藤米”の流通がなぜ遅れたのかという疑問に再び注目が集まっているのです」(同・記者)
多くの消費者は「国の倉庫に保管されている備蓄米をJAが落札。JAが国の倉庫から備蓄米を受け取って精米や発送を行っている」と思っていたのではないだろうか。
しかしJAが備蓄米の相当量を保管しているのだから、中には「JAが倉庫に保管していた備蓄米をJAが落札した」というケースもあったかもしれない。その時にJAが急いで手元の備蓄米を卸に流してしまうと、倉庫の保管料は減少してしまう──。
「JAが備蓄米制度に強い影響力を行使した問題は他にもあります。例えば備蓄米の保管方法は2011年に『回転備蓄』から『棚上備蓄』に変更されました。前者は備蓄米を数年保管した後、主食用の古米として市場に売却します。後者は数年保管した後、飼料用など非主食用として売却します」(同・記者)
棚上備蓄に切り替わったからこそ、国民民主党の玉木雄一郎代表は5年を過ぎた備蓄米を「エサ米」と呼んで炎上したわけだ。
実は農水省の試算によると、今の棚上備蓄より昔の回転備蓄のほうが国民の負担は少ないのだという。なぜ国は棚上備蓄に変更したのか、そこにJAの圧力があったのか、第3回【東日本大震災での放出は「4万トン」…備蓄米は本当に「100万トン」も必要なのか JAの影が見え隠れする“備蓄米ビジネス”のカラクリ】では詳細に報じている──。
註:丸山淳一・読売新聞編集委員のXより
デイリー新潮編集部