障がい者向けのマッチングアプリを悪用し、男性から金銭を騙し取ったとして警視庁は5月13日、都のぼったくり防止条例違反の疑いで佐古壮汰容疑者ら3人を逮捕した。彼らは薄めたショット系アルコールを数十杯注文させ、正規料金と言ってお金を騙し取ろうとしたという。ぼったくりバーの最新の手口を取材した。
〈写真あり〉ドリンクに「正」の字がありすぎる! ぼったくりバー被害者が受け取った34万円超の伝票の写真
警視庁は13日、マッチングアプリを利用しぼったくり行為をしたとして、都のぼったくり防止条例違反の疑いで佐古壮汰容疑者(22)と柴田小太郎容疑者(21)、菅原梨那容疑者(24)の3人を逮捕した。同件は警視庁が15日発表した。逮捕されたぼったくりグループによる被害者は男性54人で、被害額は計8000万円にのぼるという。
今回摘発された容疑者らが所属するとされているのが「Kグループ」。このグループで活動していたという男性は「K(Kグループを率いる人物)はもともと数年前にも同じ容疑で逮捕されたが、グループ内でも“根こそぎやる奴”として目をつけられてた。本来、歌舞伎町の裏稼業ルール的には障がい者にはなるべく手は出さない。そこにまで手を出しちゃうんだから、やばい奴ですよ」と言う。
実際、被害に遭った男性客のなかには、障がい者もいたとされている。被害者は、障がい者向けのマッチングアプリで知り合った女性と会った当日に「行きたいところがある」などと告げられ、バーに案内されて数十万円の請求を受けたという。
社会部記者が話す。
「被害を受けた男性は最初、5000円で飲み放題という案内を受けていた。知り合った女性にトランプを使ったゲームに参加させられ、数十杯のショットを飲んだ。なかにはクライナーと呼ばれるショットドリンクをピッチャーなどに入れて飲んだそうです。ショット系ドリンクは飲み放題に入れられていなかったことから、退店時に数十万円の請求を店側から受けたのです」
クライナーとは若者を中心に流行しているアルコール度数が15度と20度の2種類ある小瓶のショットドリンクだ。甘くて飲みやすい反面、度数が高いことから多量に飲んでしまうと泥酔してしまうこともある。ぼったくり団は利益をあげるために、ある“カラクリ”を仕込んでいたという。ぼったくりバーなどに詳しいYouTuber「新宿109」KENZO氏が解説する。
「それ、実は水で薄めているんですよ。薄めるためにショットを瓶からグラスやピッチャーなどへ移し替えています。店側も原価がかからなくなる。
いまのぼったくりグループの手口は、昔のように氷が1個1万円とかメニュー表の料金の異常な高さでぼったくるのではない。『お客さんが実際にこれだけ飲んだのだから正規料金として払ってくれ』と数十万円を請求するのです。
例えば、クライナーを1本3000円で設定し、女側はそれを平気で50杯とか頼むわけです。それだけですでに15万円。しかも薄めてあるから50杯でも軽く飲めてしまう。クライナーなどショット系のドリンクが飲み放題の対象に含まれないことを説明する場合もありますが、店によっては説明しないこともあると聞きます」
KENZO氏がこれまで取材を重ねてきたぼったくりバーの事案では、クライナーを大量に頼んだと店側が主張するにもかかわらず、酔った状態に見えない被害者がほとんどだという。
「そもそもクライナーが小さい瓶ではなくグラスで出てくることなんて、まともな店ではほぼないです。クライナー=小瓶で一気飲みのブランドイメージがあるから。また、これまでにクライナーを飲んだことがある人なら、ぼったくりバーが提供してるクライナーの味の薄さに、違和感をすぐ持つ。
要はクライナーというお酒を知らない、飲んだこともない、真面目でおとなしくて『正規料金です』と言われても断ることができない人たちをターゲットにしているんです」
KENZO氏によれば、ぼったくりグループらが被害者に対して、「こいつゴネそうだな」「飲み歩いてて、クライナーを薄めているなとバレそうだな」と判断したら、「急きょ団体の貸切の予約が入りました」などと店側の都合を勝手に作り上げ、店を急に閉店させるという。
今回ぼったくりの現場となった道玄坂のバーをめぐっては、KENZO氏にも今年2月、「ぼったくられそうになった」との相談の問い合わせが来ていたという。相談者の男性は今回の逮捕された内容と同様に、障がい者向けのマッチングアプリを通じて知り合った女性に「いい雰囲気の店だから入ろうよ」とそのバーに連れて行かれたという。
飲み放題5000円で入店し、ゲームを始めると、飲み放題に入らない1本3000円のクライナーを数十本注文させられた。クライナーはピッチャーに入れられて提供されたという。最後に会計が37万円と請求されたものの、男性は長時間抵抗し、大金を払わずに済んだという。
「女性の外見はキャバ嬢やキラキラ女子とかではなく、いわゆる“ふつう”の女性。この男性はぼったくりグループから『最寄り駅までついていくぞ』などと言われ、圧をかけられていました。僕の調べによると彼らは1週間で数百万円単位のぼったくりを行なっている悪質なやつらです。
しかもバーを間借りしている可能性が高い。ぼったくりグループがレンタルスペースを借りたり、バーの店主に直接金を払い、間借りしたりしているのです。これまで店が警察に摘発されたり、僕らに突撃の撮影をされたりすると店自体が使えなくなり、損失が大きかった。それを防ぐためにレンタルスペースの利用や間借りをし始めたのです」
今回、ガサ入れが入った渋谷のバーをめぐって、近隣店舗のオーナーは「今年の初めから、オーナーが代わった。店の名前はあるものの、業態が変わり全く別のバーになったと聞いている」と証言した。
都内某所に店を構えるバーのオーナーは、別のぼったくりグループからSNSを通じて、「店を間借りさせてほしい」と言われたという。
「今年の1月にインスタグラムで、『50万円以上を払うから1カ月だけ店を、月から土曜まで19時から24時まで貸してほしい』と言われました。ウチはもともと深夜営業がメインなのでその時間帯を言われた金額で貸すだけで助かりますし、すぐに許可した。ただ、ぼったくりに使われてることが明らかになり、すぐ間借りをやめてもらった」
前出のKグループで活動していたという男性は言う。
「もともとKは歌舞伎町の30人くらいで構成された大きなグループの一員だった。数年前に“そろそろサムいから(逮捕の恐れがあるなどの意)やめよう”と実質解散したが、Kらを筆頭に再び活動し始めた。
通常ATMから金が下ろせなかったら、帰らすケースもあるが、Kはそうじゃない。クレカでキャッシングさせたお金を奪う。それだけじゃなく、歌舞伎町で深夜までやってる質屋で商品をクレカで買わせて、その商品をその場で売らせ、その現金を奪うという、えげつないやり方をしてた」
アプリで出会った女性の「行きたいところがある」とか「行きつけのバーに行こう」などの言葉には用心する必要がありそうだ。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班