【全2回(前編/後編)の前編】
今夏の参議院選挙で、与党が「過半数割れ」の危機に瀕する中、躍進が確実視される国民民主党。人気の高まりを受け、永田町では同党の玉木雄一郎代表(56)が首相に担がれるという見立ても。しかし、その一方で、肝心の候補者擁立の内幕をのぞいてみると――。
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「うちの党に追い風が吹いている? まあ、風にもいろいろあって、7月にどういう風が吹くかは分かりませんから。ただわれわれは一貫して現役世代をターゲットに据えた訴えをしてきました。そのため、これまで選挙に行かなかった若者層がおじいちゃんやおばあちゃん世代に“国民民主党を応援してね”と言ってくれているのは大きいと感じています」
慎重に言葉を選びながらも、口ぶりから自信の片鱗をうかがわせるのは、国民民主党幹事長の榛葉賀津也氏(58)だ。
7月20日投開票が有力視される参院選を前に、永田町では早くも「国民民主一人勝ち」を予想する声が上がっている。
同党を率いる玉木代表も「笑いが止まらない」と話すのは全国紙政治部記者だ。
「日経新聞とテレビ東京が4月に行った合同調査では、参院選での投票先として自民(29%)に次ぐ2位につけたのが国民民主(15%)でした。比例区投票先を尋ねた朝日新聞の調査でも首位は自民(28%)、次点が国民民主(17%)の結果となっています。いずれも野党第1党の立憲民主党を上回り、日経・テレ東調査では39歳以下の若年世代に限ると、国民民主が24%と1位に躍り出ています」
追撃を受ける石破政権にとって今夏の参院選は、昨年10月の衆院選で大敗を喫し、30年ぶりの少数与党に転落して初めて迎える国政選挙となる。
石破茂首相は、参院選での目標獲得議席を「与党として参院全体で過半数が最低ラインだ」と公言するが、元自民党本部事務局長で選挙・政治アドバイザーの久米晃氏は悲観的な見方を示す。
「昨年の衆院選では、自民や公明、共産党といった既成政党が軒並み票を減らした一方で、国民民主やれいわ新選組、参政党、日本保守党など新興政党が票を伸ばしました。背景にあるのが既成政党に対する根深い不信です。国民が抱く怒りや絶望の感情はいまも消えておらず、今回の参院選も同じ傾向をたどると予想されます」
参院選(定数248)の過半数は125議席だが、自公の非改選議席が75のため、与党で50議席を確保すれば過半数を維持できる計算だ。
「自民党の比例代表における過去最低議席は12です。今回もこの数字がベースになるとみられ、比例での獲得議席は現状10~14にとどまる見通しです。ただし参院選での勝敗は32ある1人区での趨勢次第となります」(同)
自民党にとって救いとなっているのが、野党共闘が進まず、波に乗る国民民主も候補者を立てない1人区が存在することだ。
「それでも自民が取れるのはいまのままでは10議席程度というのが、私の見立てです。他方、複数区でも13議席程度しか取れない厳しい情勢です」(久米氏)
連立相手の公明党は「14議席以上」を目指すが、獲得議席は10~12程度になると予想する。
「そうなると、自公でギリギリ50議席に届かない公算が大きい。石破氏自ら“与党で過半数”を目標に挙げた以上、達成できなければ責任論が浮上するのは必至です。参院でも少数与党に転落すれば“石破退陣”の流れが加速するのは避けられません」(同)
では、注目の国民民主党はどれほど伸長するのか。
「すでに支持率で立民を上回り、勢いも持続している。比例で10議席、東京や神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡などの複数区で5~6議席は取ると見積もっています。玉木氏が掲げた16議席獲得も、十分に達成可能な目標といえます」(久米氏)
同党の改選組は4人のため、一気に4倍増となる大躍進も現実味を増しつつある。
そんな快進撃が予想される裏で、実は候補者擁立を巡るトラブルが頻発しているのだ。
「党勢を伸ばす国民民主から出馬したいと考える者は多い反面、知名度や実績を兼ね備えた“いいタマ”を確保できないことが悩みの種となっています。実際、候補者選びは代表の玉木氏や榛葉氏、国対委員長の古川元久氏(59)らの個人的人脈に頼る部分が大きいとされ、名前の挙がるメンツを見渡しても玉石混淆(こんこう)は否めない。擁立を決めた途端、批判にさらされ方針を引っ込めるといった混乱も続いています」(前出の政治部記者)
元衆院議員の足立康史氏(59)のケースも、その一つ。
4月に入って新聞各紙が「国民民主党が足立氏を大阪選挙区で擁立へ」と報じると、同党の主要支援組織である連合が猛反発。「暴言王」との異名を取った足立氏の過去の発言が問題視されているのだ。
「足立氏は維新所属時代に労働組合批判を繰り返し、国会でも“アホ、バカ”などの暴言を連発して懲罰動議をたびたび出されています。そんな彼の議員としての資質や素行に疑問を投げかけた連合が擁立に待ったをかけたようです」(前出の政治部記者)
当の足立氏は、こう言う。
「(出馬は)完全にゼロになったわけではなく、現在も調整中です。だから僕の口から話せることはありませんが、すでに(同党の)党員にはなっていますよ。国民民主はいまや唯一無二の政党です。基礎控除などの拡大は30年ぶり、ガソリン税の暫定税率廃止は約50年ぶり。そして自民一強の政治体制を突き崩せば70年ぶりとなる大改革を一度にやろうとする党なんて、他に存在しません」
もう一人、公認の動きが明るみに出るや批判が殺到し、玉木氏ら幹部も対応に苦慮しているのが、元同党所属衆院議員で弁護士の菅野(山尾)志桜里氏(50)である。
4月22日、参院選の比例代表として菅野氏擁立の方針が報じられると、すぐにSNS上で「不倫まみれの国民民主党」や「不倫容認政党」などの言葉が飛び交う“大炎上”へと発展。
菅野氏といえば、2017年の民進党(当時)議員時代に倉持麟太郎弁護士との不倫が発覚。倉持氏の妻がその後自殺するという悲劇も起こった。
折しも同じ4月22日、国民民主の平岩征樹衆院議員(45)が偽名を使い「独身」と偽って不倫していた過去を、週刊誌報道に先手を打つ形で謝罪。玉木氏の元グラドルとの不倫話も蒸し返され、「不倫性党」などと非難の大合唱を生んだ。
「タイミングが悪かったとはいえ、想像を超える世論の反発が党にも押し寄せ、幹部たちも慌てふためいた。ただ菅野氏の政治家としての能力を評価する声は依然多く、党名で選ぶ傾向の強い“比例代表であれば問題なく当選する”として、いまも擁立を模索する動きは消えていない」(前出の政治部記者)
選挙での公認権を握る榛葉氏に「菅野氏を擁立するのか?」と尋ねたところ、
「賛否両論があるのは、それだけ注目されているということじゃないですか。(党の)役員会を含め、いろいろな声があるので、現状(擁立するか否かは)決まっていません」
後編【「自民には“玉木首相”というカードが…」 勢いに乗る国民民主との連立の可能性とは】では、国民民主が擁立を画策しているとされる“隠し玉”や、連立の組み換えの可能性などについて詳しく報じる。
「週刊新潮」2025年5月15日号 掲載