可愛い孫の笑顔はなによりの喜び。しかし、その愛情も度を過ぎると、大切な孫との間に距離ができてしまうという事態にもなりかねません。本記事では佐竹一男さん(仮名)の事例とともに孫への適切な金銭的援助について、FP相談ねっと・認定FPの小川 洋平氏が詳しく解説します。

佐竹一郎さん(69歳/仮名)は元国家公務員、同い年の妻・由美さん(仮名)と定年退職後の生活を穏やかに過ごしていました。公的年金は夫婦で月に32万円。妻と二人、都内の持ち家で安定した生活を送れる金額です。
そんな一郎さんの楽しみは、小学生の孫・健太くん(仮名)と過ごす時間でした。
健太くんは一郎さんにとって初孫。目に入れても痛くないとはこのことかと、溺愛するあまり、遊びに来てくれると、2万円のお小遣いを渡していました。健太くんはディズニーマニアです。月に1回、土日のどちらかでディズニーリゾートに連れて行き、健太くんが小学校3年生の夏休みにはフロリダディズニーにも連れて行きました。釣られてすっかり一郎さんもディズニー通です。
健太くんも小さなころから祖父の家に行くと甘やかされるため、「じぃじ、大好き!」と懐いてくれ、一男さんはその言葉に心から喜びを感じていました。健太くんは小学生になってからもらうようになったお小遣いを、すべてディズニーの軍資金に回していました。
そんな健太くんとの関係に思いもよらぬことからヒビが入ることになってしまったのです。
コロナ禍以降、物価の上昇が徐々に家計を圧迫しだしました。物価上昇に対して公的年金の受給額はあまり増額されていません。現役時代の収入の高さから、もともと生活水準の高い一郎さん夫婦は、少しずつではあるものの家計が圧迫されていきます。
また、大きな打撃となったのが、ディズニーランドの値上がりです。コロナ禍以降、年間パスポートもシニアパスポートも販売中止され、一度行くだけで、大体5万円以上かかります。たいてい入場料に園内での食事に期間限定のグッズにと、負担は大きくなっていました。
加えて、一郎さんは軽度のがんと診断されました。幸いにも手術し5日ほどで退院することができたため、医療費はさほど大きくは掛かりませんでしたが、退院後も通院は続きます。預金が目に見えて減っていき、お金を使うことが怖くなっていきます。
ある日、一郎さんは遊びに来た健太くんが帰ろうとしてもお小遣いを渡すそぶりをみせませんでした。

いつもくれるお小遣いをもらえなかった健太くんは「今日はお小遣いないの?」と尋ねました。一郎さんは「もうお小遣いは前みたいにあげられないんだ」と伝えたところ……。
健太くんは何気なく「そうなんだ、じゃあもう来ても意味ないね」といったのです。
子供の悪意ない言葉でしたが、その言葉に一郎さんは大きなショックを受け、つい声を荒げてしまいました。健太くんは驚いた表情を浮かべ、その日以来、よそよそしくなっていきます。10歳だった健太くんはその後、中学生となりクラブ活動も忙しくなり、一郎さんとの距離は開くばかりです。
この場合、問題点としては2点あります。
まず、孫の健太くんに対して毎度毎度お小遣いを与えていた点です。毎回与えてしまうとそれが当たり前になってしまうのは当然です。お年玉をあげたり、たまにお小遣いをあげたりすることはもちろんよいでしょう。しかしそれが当たり前になってしまうと、祖父とのコミュニケーションを取ることではなく、お金をもらうことが目的となってしまっても仕方がありません。当たり前にお小遣いがもらえると思わせることは、健太くんのことを本当に思っているとはいえません。
もう一つは、自分の家計を熟慮せずにお小遣いを渡し、預金が目に見えてしまったことで支出をやめるようになるなど、場当たり的なお金の使い方をしていた点です。家計の収支を把握し、使っても問題ない支出量を事前に把握していれば、いきなり預金残高が減ることに恐怖することもなかったでしょう。
公的年金は原則、物価に連動し受給額が変動します。「マクロ経済スライド」という物価上昇率に対する公的年金の受給額が抑制される仕組みがあり、老後の収支は徐々に厳しいものになっていきます。
預金だけで持っておくと資産が減るスピードが速くなってしまうことに注意が必要です。インフレに強い株式等の資産を組み合わせて資産を保有することが資産寿命を延ばすために必要となるでしょう。
孫に喜んでもらうため、お小遣いをあげたりディズニーランドに連れて行ってあげたりすることも大事なことですが、自身のお財布事情としっかり向き合うことが第一です。計画的に余裕の範囲に抑える必要があったといえます。

今回紹介した佐竹さんの事例のように、孫が可愛いからと際限なく尽くしてしまうことは、教育上望ましくないことはもちろん、今後の自分たちの生活も破綻させるリスクも孕んでいます。
総務省統計局が発表する消費者物価指数は、円安の影響もあり2022年から年3%程度で上昇を続けています。公的年金の受給額も、68歳以降の既裁定者については物価上昇率に対し受給額が抑制される仕組みとなっており、今後物価上昇が続いた場合には徐々に生活が圧迫されていくことが考えられます。
場当たり的なお金の使い方をやめ、家計管理を行うことは当然として、今後の物価上昇に対応し資産寿命を延ばす管理、運用が求められます。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー