パナソニック1万人、日産自動車2万人など、大企業の大規模リストラが相次いで発表された。4月に帝国データバンクが発表した2024年度の倒産件数も1万70件となり、前年度比13.4%増。1万件を超えたのは2013年度以来、11年ぶりだ。
大小企業の会社員の首元に冷たい風が吹きつけている。「終身雇用制度が崩壊した」と言われるようになって久しいが、あまりに厳しい現実だ。
「理由はさまざまですが、いまや整理解雇やリストラはどこかしこで行われています。
かつてなら、ある程度の規模のリストラがあれば報道されていましたが、いまでは多すぎてニュースバリューさえありません。
今回は大企業で相次いだから注目されたまで。今後もこの傾向が収まることはないでしょう」
こうクールに展望するのは、人事関連の著書も多数ある、人事コンサルタントの新井健一氏だ。会社員にとってはつらく厳しい状況だが、新井氏は次のように続ける。
「黒字でリストラのパナソニックと異なり、巨額の赤字を計上し、経営不振が続く日産は、複数の車両工場を閉鎖することで、バッサリと2万人を解雇しようとしています。工場の閉鎖ですから、従業員は解雇に応じざるを得ず、そう言う意味で問答無用の肩たたきと言えるでしょう」
希望退職の場合には優秀な人材ほど離職しがちだが、4要件(※)を満たす整理解雇のケースは有無をいわさない。
※(1)人員削減の必要性(2)解雇回避の努力(3)人選の合理性(4)解雇手続きの妥当性
会社側は早くから解雇候補を精査し、余剰人員を見極める。逆にいえば、企業側もそれほど追い込まれているということ。リストラを行わなければ金融機関等から支援を受けられないなど、会社自体の存続を左右する瀬戸際にあるためだ。
沈みかけた船に乗る会社員は、なりふり構わずしがみつくべきなのか。それとも去るのが賢明なのか。どう判断し、どう行動すべきなのか。新井氏が助言する。
「業績悪化によるリストラの場合は、感情を一切封印して、損得だけで考えてください。周囲の目を気にする必要などありません。こういう状況のときは全てを否定された気持ちになり、前を向きづらいでしょうが、だからこそ、ドライに決断するんです。
ある著名企業に勤めていた私の知人は、リストラで解雇対象でしたが、知らぬ存ぜぬで居座りました。その後、別部署に引き抜かれ、部長になりました。
周囲や感情に流されず、とにかく損得だけで判断を。リストラは人数に達した時点で終わります。会社に残ると決めたなら、嵐が過ぎ去るのを待ってください」
「経営難の会社にしがみつくのはいたたまれない」と考える会社員も多い。しかし、目の前に提示されたオファーを安易に受け入れ、転職することにもリスクがあると新井氏は言う。
「本当に興味があり、自分のスキルを活かせる仕事・転職先が他にあるならいいですが、そうでないなら厳しいでしょう。冷静に判断する必要があります。本当に興味があって行きたいのか、その先にいまよりいい未来があるのかをじっくり見定めてください」
4月に雇用保険法が改正され、失業手当を受け取れる時期に会社都合の退職時と大差がなくなった。それを踏まえれば、ひとまず会社にしがみつきつつ、どうしても耐え切れなくなったら離職するという選択肢もある。
参考:神改正? “自己都合退職”でも7日間で「失業給付」受け取り可能に…受給の条件とは
「とにかく、大規模なリストラが行われるときはスロースタートが鉄則。ほかの社員の様子を見極めてから動くのが賢明です。
転職するかどうかを判断するには、社外の知人に、強みを聞いてみるのもいいでしょう。自分では気づけていないストロングポイントを教えてくれるかもしれません」
しがみつく判断、去る決断。どちらにせよ熟慮が必要といえそうだ。先行きに濃霧がかかり続ける昨今の状況下で、会社員はどう立ち回れば、この不確実な時代をブレずに、地に足をつけて歩んでいけるのか…。
「2つあります。ひとつは『下りの楽しさを知る』こと。もうひとつは、『なんじ自身を知れ』ということです。
前者は終身雇用神話に代表される、メディアや国家など、誰かに作り上げられたシナリオの呪縛から解き放たれるということ。
“上昇志向”こそ善と刷り込まれてきましたが、結局そうではなかった。これまでを振り返り、足跡を検証してみることで、本当に判断基準にすべきはなにかが鮮明になるはずです。
後者は自分の能力を生かせること、興味があることは何かをいま一度じっくりと考えることです。
人生100年時代といわれるいま、それを知らずして、長い道のりを走り切るのは不可能。当たり前の話ですが、自分の能力を生かせること、興味のあることでなければ持続はできません。こういう時だからこそ、周囲に流されず、内観することが重要です」
大企業の構造的な不具合がいよいよ抜本改革抜きに改善できない状況となり、力ずくの人材流動化が不可避となった。
その余波ではじかれる人材もいれば、求められる人材もいる。AIの進化で、求められる仕事の内容と質も激変した。
不用意に周囲に目を向ければ、振り回され、どう進むべきかが見えづらくなるのは必至の情勢だ。だからこそ、いま一度、自分自身をよく理解する。それが、先行き不透明な時代にまっすぐ突き進む、最初の一歩といえそうだ。
<新井健一(あらい・けんいち)>経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー人事部、アーサーアンダーセン(現KPMG)、ビジネススクールの責任者・専任講師を経て独立。人事分野において、経営戦略から経営管理、人事制度から社員の能力開発/行動変容に至るまでを一貫してデザインすることのできる専門家。著書に『働かない技術』『いらない課長、すごい課長』(日経BP 日本経済新聞出版)『事業部長になるための「経営の基礎」』(生産性出版)など。