今、ネット上で戸籍制度の必要性について論争が勃発。そんな中、実は日本には戸籍に関することで、生きづらさを抱えた人たちがいる。それが「無戸籍問題」。
【映像】紙切れ1枚で人生を翻弄…24年間“無戸籍”のさやかさん(女性)
様々な事情により、出生届が出されておらず、戸籍に記載がない人のことだ。現在、法務省が把握している無戸籍者数は698人。しかし実際には1万人以上いるとの推測も…。
そんな無戸籍問題の解決を図るため去年4月、約120年ぶりに民法が改正された。しかし、これで全ての人が救われるわけではないと、「無戸籍者を支援する会」代表の市川真由美氏は指摘する。「その法律に該当しない無戸籍者の方たちがおられるので、法律が届かない方々に救済措置ができればいいのにって思う」。改正から1年…未だ解消が進まないこの問題について当事者、救済に奮闘する支援者と『ABEMA Prime』で考えた。
大阪府に住むさやかさんは、生まれてから24年間、戸籍がない状態だった。初めて知ったのは、中学3年生の頃で「高校受験のときに住民票を市役所に取りに行ったら『あなたは戸籍がありません、日本人でもなくて存在してません』ってサラッと言われ、すごくショックで泣いたのを覚えている」。
存在していない理由は「嫡出推定」というルールだった。離婚から300日以内に生まれた子は、たとえ新しいパートナーの子であっても戸籍上は「前の夫の子」になってしまう。そのため、さやかさんは出生届を提出されず、無戸籍になってしまった。
戸籍がないことで彼女は苦難の人生を送ることになった。当時、交際していた男性との間に子を妊娠するも無戸籍がゆえ結婚ができず。挙句の果てには「相手の母親に大切に育てた息子を籍がない女が騙したみたいなことを言われた。罵られて、すごく傷ついたというか、もう本当に自殺しようかと思った」。
男性とは別れ、子供が誕生するもその子も無戸籍となった。このままではダメだと思い、弁護士に依頼することに。手続きから約半年、遂に戸籍を取得することができた。「ちゃんと戸籍があれば違う人生を歩んでいたかもしれないって今でも思う。紙切れ1枚でこんな悲しい思いをしなくて良かったなと」。
母親の事情で出生届が出されず、29年間「無戸籍」で過ごしたユウさん。無戸籍だった経緯は、フィリピン人の母が日本人男性Aと結婚したが、夫からのDVに耐えられず逃げて別の男性Bと出会い、ユウさんが誕生。ユウさんの実の父は「B」だが、離婚が成立しておらず、出生届を出すと「A」の子になってしまうため無戸籍だった。
その事実について、ユウさんは「小学校2、3年生から知っていて、両親から『高校行けないかもしれない』って言われていた」といい、実感したのは「中学卒業して専門学校に行こうってとき、中学校の先生からは『専門学校は行けない。もう仕事するしかない』って言われた。じゃあバイトしようと思ったら、『住民票の提出お願いします』って言われて、そのバイト先も2カ月後に辞めて、職も転々としてた」。
その後、未婚のまま子ども2人を出産。子どもも無戸籍となったが、市川氏の助けもあり2年前に戸籍を取得した。市川氏は、ユウさんについて「お母さんがご存命でいらっしゃったし、運がいいのか悪いのか、お母さんが病院で産んでたときの出生証明が残ってた。それを頼りにひとつひとつ潰していった」と振り返った。
市川氏は、120年ぶりの民法改正された点について、「嫡出推定制度という、『離婚後300日以内に生まれた子どもは前夫の子』が、『母親が再婚していれば、300日以内に生まれた子は再婚相手の子』として届けを出せる。前夫の子として届けるのを嫌がる親御さんにとっては、そのときの再婚相手の子であれば、いい法律はできたと思う」と評価する。
一方で、「新しいパートナーの子でない場合、どう考えるのか」といい、「前夫の子として出生届を出すのか、もしくは家庭裁判所に行って何らかの形で証明するのか。例えば、別居してる間に、新しいパートナーとの間にできた子を前夫に知られたら具合悪いと、家庭裁判所での手続きも嫌がられるんじゃないか」との懸念を示した。
文筆家で情報キュレーターの佐々木俊尚氏は「日本の仕組みがややこしいのは、戸籍と住民票の2重構造になっている。個人的には戸籍制度をやめて、マイナンバーの一本化で、気楽に自分のアイデンティティを保てるようにする。それだけでは結婚してる証明にならないなら、マイナンバーに付随して『誰と結婚してるのか』『誰の子どもであるか』という情報も付与する。個人的にはそういう制度を変えていった方がいいと思う」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)