〈「熱い!!」彼女の顔はやけただれ、味覚も失うことに…“冤罪事件のヒーロー”と祭り上げられた元薬剤師(43)→女子高生に劇薬スプレーをかける「悪魔」と化した理由(2015年の事件)〉から続く
かつて同じ郵便局の同僚だった女子高生に、ストーカー行為を働いた43歳の元薬剤師の男。この事件では懲役6カ月執行猶予5年の有罪判決を言い渡された男は、女子高生に復讐を計画。彼女に劇薬をかけ、障害が残るほどの怪我を負わせる。この事件はどんな結末を迎えたのか? ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『実録 性犯罪ファイル 猟奇事件編』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)
【写真ページ】「熱い!!」全治8カ月、唇はただれ、目には障害が残ることに…元ストーカーに「劇薬スプレー」をかけられた悲劇の女子高生
写真はイメージ getty
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美和さんとはアルバイト先の郵便局で知り合った。上田は別の部署で働いていたが、美和さんが休憩所で友人と話していると、必ず割り込んで入ってきた。
帰りのバス停でも待ち伏せし、自宅マンションを突き止められた。学校へ行く途中も付きまとい、たまりかねた美和さんは警察に相談。上田はストーカー規制法違反容疑で逮捕された。

「手紙を渡したかっただけだ。それが何でストーカー行為になるのか。何もムチャなことはしていない。心配のレベルが異常だ。アルバイト先が一緒だったから、バス停でかち合うのは当然のことだ。自分の気持ちを伝えたかっただけ。はっきり拒絶されれば、付きまとわなかった」
だが、この事件では懲役6カ月執行猶予5年の有罪判決を言い渡され、上田はこれに納得できず、最高裁まで争ったが棄却された。
冤罪のヒーローが一転、笑い者になってしまい、その原因を作った美和さんは許せる存在ではなかったのだ。警察は「お礼参りの可能性がある」と警戒し、上田の釈放後、月2回は美和さんに電話して、異常がないかどうか確認していたが、美和さんの親から「もう大丈夫です」と連絡があり、警察がケアをやめた10日後に事件が起こった。
「お前には被害者を狙う動機があるだろう!」
「事件当日の自宅マンションの防犯カメラを見てください。自分が外に出る様子が映っていますか?」
「防犯カメラに映らないように外に出る方法はあるじゃないか。そんなことは捜査員が実証済みだ」
「それを自分が知ってたって証拠はあるんですか?」
「防犯カメラに映ってなかったからといって、外に出なかったというアリバイにはならないぞ」
それでも上田は犯行を認めず、公判になっても見苦しく言い訳を重ねた。
「弁当店に男が預けたというレターパックと警察が差し押さえたレターパックが同一という証拠はあるんですか。その男が犯人だという証拠はあるんですか。親切心で拾った人がたまたまポストに入れようとしていただけなのかもしれない。弁当店の店主は聞き込みで私の写真を見せられ、警察に迎合させられている可能性がある。自分は被害者に近づいてもダメなのに、本件の犯人と思われて陥れられている。マスコミのストーカーのイメージを利用して私を重い罪にしようとしているんです」
美和さんは熱傷で顔が腫れ上がり、全治8カ月の重傷を負った。上唇がただれてしまい、口の中の味覚が戻らなくなった。薬剤をかけられた部分の髪の毛が抜けてしまい、目にも重篤な障害が残った。紫外線にも弱くなり、普通に外出することもできなくなった。
被害者にどれほどむごい仕打ちをしたのか分かっているのだろうか。上田はすべての主張を退けられ、懲役7年を言い渡された。
(諸岡 宏樹/Webオリジナル(外部転載))