故人を偲ぶ墓参り。仏式なら、生花や線香とともに菓子や酒など故人の好きだった物を供え、手を合わせる━━というのが一般的な作法だが、先日Xで注目を集めたのは、祖父の墓参りに行ってきたという女性が、火をつけたタバコを線香立てに立たせている光景だった。
【写真】実際に大阪キャバ嬢が投稿していた「線香+タバコ」のお供え写真
インスタグラムのストーリーズ機能で“墓参り報告”を投稿したのは、あるインフルエンサーだった。大阪・北新地のキャバクラ店で働く女性で、そのインスタのフォロワー数は91.6万人という人気を誇る。
この女性は5月下旬、「お爺ちゃんのお墓参りに行ってきた」というコメントとともに、墓碑のもとに紙巻きタバコの箱を置き、線香立てに線香とタバコを立てたショットを投稿した。
この様子を複数のXユーザーが取り上げ、〈故人がタバコが好きだったならよくやる事〉など、“喫煙者あるある”だという声が多数寄せられている。
都内在住のAさん(30代男性)も、祖父がヘビースモーカーで「銘柄名は変わりましたが愛煙していました。今も墓参りでは必ずタバコをお供えします」と話す。
20代後半の息子を亡くした北海道在住のKさん(60代男性)は、息子の友人が墓にタバコを供えてくれると話し、目を細める。
「私は息子が吸っているタバコの銘柄なんて知らなかったのですが、葬式の時に息子の友人たちが、息子がよく吸っていたタバコを棺桶に入れてくれました。一緒に行く墓参りでも必ず持ってきては、供えてくれています」(Kさん)
故人が喫煙者だった場合、墓のまわりでその人の面影を残すアイテムとなっているタバコ。ただし前述のように“線香立てに入れて火をつける”行為は賛否が分かれるようで、
〈線香立てに置くのはどうかと思うが、騒ぐほどの事ではない〉〈その人が好きな物だったなら供えるのはいいと思うけど線香と一緒にするのは違う。よかれと思っとんだろうが、非常識だとは思う〉
など、違和感を抱く声が散見される。果たして墓にタバコを供えること、さらには線香+タバコはアリなのかナシなのか。
真言宗御室派の寺院、遍照院(岡山県倉敷市)の大原英揮住職は、「地方では、タバコをお供えする方はまだまだたくさんいらっしゃいます」と話す。
「私たちが管理しているお墓では、ろうそくや線香、生花、お水など、基本となるものの他にお供えするものに特に制限は設けておらず、故人がヘビースモーカーだったのならタバコをお供えするのは自然なことです。
もちろん、その霊場のルールがあればそれに従うことが最優先です。最近は、お供えものを置きっぱなしにすると動物や盗難目的の不審者による被害もあることから、お参りが終わったらお供えものはすべて持ち帰ってほしいとお願いする霊場も増えました。タバコも同様です」(大原氏)
線香立てに線香とタバコを同時に入れる行為はどうか。
「こちらについても問題はないと考えます。供養はその家のものなので、親族が納得しているのなら、周りに批判されるようなことではありません。それよりも『なぜ墓参りに行くのか』、『なぜお供えものをするのか』を考えることが大切です。ただし宗派によってマナーが異なることもあるため、注意は必要です。もし何か迷うことがあったら、契約している霊園やそのお寺さんの住職に聞けば、間違いないでしょう」(同前)
葬儀会社に長年勤めた葬儀ブロガー・赤城啓昭氏も、「お供えものは自由。宗教的にも、“アウトなお供えもの”というのは聞いたことがない」と話すが、“線香+タバコ”の合わせ技に違和感をおぼえる人々の声には一定の理解を示す。
「まず、もしタバコに火をつけるなら、煙や臭いに敏感な参列者がいる可能性を踏まえ、周囲への配慮は必須です。また火をつけたタバコをそのままにするとフィルターが残り、ゴミになってしまう。持ち帰るか、適切に処分すれば大きな問題にはなりません。
線香立てにタバコを入れることも、特に宗教的にNGとされてはいません。仏教の教義というより、神聖な場所に俗的なものを持ち込むことへの心理的な違和感かと思います。たとえば、骨壺には遺骨以外のものを入れ、“容器”として使うことが可能ですが、もしそういった使い方を目にしたら、同様の嫌悪感を抱く人はいるかもしれないということです」
多くの人が一本のタバコをめぐり、お供えもののあり方を考えさせられる一件になったようだ。