〈「なぜ真夏に暖房を?」発見された時にはミイラ状態に…一人暮らしの高齢者が自宅で亡くなってしまった“驚きの理由”とは〉から続く
「え!? こんなことで?」
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これまで5000体以上の遺体を解剖してきたという法医学者の高木徹也さん。近年「まさか」と驚くような原因で亡くなる高齢者の遺体に出会う回数が増えてきているという。
ここでは、高木さんの著書『こんなことで、死にたくなかった: 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)より一部を抜粋。テレビでプロレスを観戦中に突然亡くなった高齢の男女2人。その時、一体何が起こったのか。(全6回の5回目/続きを読む)

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1962年、テレビでプロレス中継を観ていた人が「ショック死」したと報道され、社会問題にまで発展したことがありました。
当時の新聞記事を見ると、「プロレスでショック死? 老人二人、テレビを見て」という見出しで、プロレス中継をテレビで観ていた60代男性と70代女性が「心臓麻痺を起こして死んだ」という内容で報じられていました。
※写真はイメージ AFLO
「ショック死」とか「心臓麻痺」という用語に関しては、医学的に疑問が残るところではありますが、発症の理由としては、悪役レスラーが相手に噛みついて顔面から流血したシーンに驚いたせいだ、と考察されています。ちょうど各テレビ局が、カラー放送を開始したころです。おそらく赤い流血がブラウン管に映し出されるのを初めて見たことで、視聴者は強い精神的ストレスを感じたのでしょう。
医学的に「ショック」とは、身体にストレスがかかることで自律神経や内分泌器官が過剰に反応し、心不全に向かう状態のことです。仮にプロレス観戦でショック死したとすると、医学的に近いのは「神経原性ショック」でしょうか。
これは、驚きや精神的ストレス、痛みなどが原因で自律神経の「副交感神経」が反射し、心拍数の減少、血管の拡張を引き起こすことで、脳の血流が低下して意識を失う状態のことです。精神的ストレスが原因であれば、頭を低くして脳に血流を促しやすい体勢にすれば、そのうち意識は回復します。
先の事例も、これが原因であれば、動脈硬化症によって「脳梗塞」を発症する可能性は否定できませんが、「心臓麻痺」で死亡するほどのことではないはずです。
では、ほかにどんな原因があるか。
私が検討すべきと考えるのは「たこつぼ型心筋症」です。
通常、心臓は袋状になった心筋全体が収縮して、血液を効率よく送り出すのですが、たこつぼ型心筋症では根元の心筋だけが収縮し、先端部分は収縮しなくなります。そのため、血液をうまく送り出せなくなるのです。このときの心臓の形状が、タコ漁で使われる「たこつぼ」に似ていることから、このような病名がつけられました。
たこつぼ型心筋症は高齢女性に多く、身内の不幸や離婚、口論、災害などによる精神的ストレスが契機となって発症することで知られています。
発症すると、まるで心筋梗塞のような胸の不快感や胸痛、呼吸困難などの症状が出ますが、一過性であることがほとんど。しかし、高齢者の場合は、重症化して死亡する可能性があるのです。

実際、プロレス観戦で死亡したうちの一人は高齢女性でした。つまり、ショック死ではなく、たこつぼ型心筋症によって循環不全を生じた結果、亡くなったのではないか……とも推察されるわけです。
現在、各テレビ局は必要以上にショッキングな映像は流さないよう自重しているようです。津波など震災関連の映像は、流れる前に字幕で注意喚起するなどの工夫がされています。しかし、いつ何時、どんな映像からストレスを受けるかわかりませんから、身体に異変を感じたら速やかに医療機関を受診してください。
・テレビ視聴が体調不良の原因になり得ることを知っておく。
・高齢者に強いストレスを感じさせない環境作りを行なう。
・精神的ストレスを感じたら、早めにカウンセリングなどを受ける。
〈「ととのう」は「脳への血流が減ったことによる気絶状態」法医学者が指摘する、サウナに潜む“死の危険”〉へ続く
(高木 徹也/Webオリジナル(外部転載))