東京商工リサーチ(TSR)の調査によると、2024年度における焼き肉店の倒産件数は50件と過去最多を記録した。食中毒問題が広がった12年度の33件を上回る。15~19年度は20件台で推移し、20~22年度は15件前後まで減少したが、23年度は31件と反転し、このところV字に推移している。倒産が増えた背景には、一人焼き肉ブームなどコロナ禍で焼き肉店が増えたことがある。
大手は業績好調も「町焼き肉」を取り巻く厳しい状況…コスト高以外の原因とは?
「コロナ禍では換気能力の高さが評価され、焼き肉店が人気となりました。ゼロゼロ融資や雇用調整助成金などの支援の影響もあります」(TSR情報本部・後藤賢治氏)
ゼロゼロ融資とは、コロナ禍で売り上げが減少した企業を対象とした実質無利子・無担保の融資制度のこと。20年3月に始まり、22年9月に終了した。だが、その後は円安に伴う輸入牛肉の価格高騰や光熱費、人件費の高騰に見舞われ、倒産件数が増えた。他業種からの参入で競争が激化したことも影響している。
「最近はファミリーレストランや居酒屋が焼き肉店に変更するケースが目立っていました。新規参入が多くて価格競争が激しい中、値上げをすれば顧客離れも起こりやすい。付加価値や信頼がないと値上げをコンスタントにできない難しさが焼き肉店にはあります」(後藤氏)
コストが上昇していても、競争激化で簡単に値上げはできないのだ。厳しい市場環境で特に小規模店の倒産が増えたという。
「効率性で劣る中小の焼き肉店は大手チェーンより安くできない。高級店か、ブランドなどのコンセプトで差別化した店舗以外は難しい」(外食関係者)
■「牛角」「安楽亭」は店舗数減少
だが、大手焼き肉チェーンの業績も厳しい。業界最大手の「牛角」はコロナ禍前に600店舗以上、展開していたが、現在は507店舗に減少。コスト上昇圧力や人手不足が収まらず、楽観できない状況が続いているとされる。19年度末に180店舗あった「安楽亭」も143店舗に減少。不採算店の閉鎖やステーキ業態への転換を進めた。
一方、厳しい市場で躍進したのが「焼肉きんぐ」だ。20年6月末の241店舗から、昨年末時点で339店舗に急増。3000円台の焼き肉食べ放題が家族連れに人気で、週末は予約が取れないことも多い。
「焼き肉店は入店前に会計金額が読みづらいのが難点だが、『焼肉きんぐ』は定価の食べ放題メニューなので安心感がある。大量仕入れや配膳ロボットの導入でコストを抑えており、他店にはできない価格で提供できる」(前出の外食関係者)
牛角や安楽亭も食べ放題メニューを提供しているが、特化しているわけではない。コスト高でも低価格を実現できる焼肉きんぐ1強の状態が続きそうだ。牛肉の価格も依然高騰しており、業界全体でさらなる淘汰が進むかもしれない。
(ライター・山口伸)