『企業の「売る」を「買う」から考える』をコンセプトに、設立20周年を迎えた博報堂買物研究所が発見した売れる技術とは? 『売れている会社に共通する これ買いたい! をつくる20の技術』(ワニブックス)では、各企業のヒット商品、人気サービスの成功事例を紐解きながら、売れる仕組みを紹介している。
生活者の「買いたい」欲求を刺激する方法のひとつに、「マイペース」があります。「制約がなく、自分の思い通りに買物ができる」ことで、買いたい意欲が高まります。
「マイペース」を感じて買いたくなる瞬間には、次のふたつがあります。
(1)制約を感じず、楽しめそう
(2)自分のペースで買物できそう
それぞれ見ていきましょう。
まずは(1)制約を感じず、楽しめそう、についてです。買物において、どんなことが制約になるのでしょうか。買物に限らず、私たちが日々何かをしようとすると、必ずついてまわるふたつの制約が「お金」と「時間」です。
「コスパ」とタイパと言われるように、投資するお金と時間に対して得られる対価が、厳しく判断されるようになってきました。物価高騰により、市場価格が全体的に上がっており、少しでも節約したいというニーズが高まってきています。
100円ショップ、せんべろ(1000円でベロベロに酔えるという酒場などの俗称)などのように、価格を明確に提示して、価格の期待以上の価値を提供するお店が人気です。
一方、家具、家電、自動車など耐久財のレンタルサービスを提供する企業も増えています。生活者にとっては、初期費用を抑えて気軽に利用できるのがメリットです。
また、博報堂買物研究所の調査では、買物にかける時間は減少傾向にあることがわかっています。こうした傾向は、働く女性が増えていることが関係していると考えられます。時間をかけずにパッと選びたい、あるいは自分のタイミングでタイムリーに買物をしたいというニーズが高まっているのです。
・時と場所を選ばずに買物ができるEC
・ オンラインで購入した商品を実店舗で受け取ることができるBOPISサービス(Buy Online Pick-up In-Store)
・事前予約や、追加料金を支払うことで行列に並ばずに済むファストパス
など、テクノロジーの進化を背景とした時短サービスが登場し、多くの人が利用しています。
次に、(2)自分のペースで買物できそう、には、どんなものがあるでしょうか。
「自分のペース」を崩される要因を考えてみるとわかりやすいでしょう。例えば、買物体験において好き嫌いが分かれるものに、「接客」があります。接客には、迷っているとき、アドバイスが欲しいときに相談できるメリットがある一方で、売り込まれるのではないかとプレッシャーに感じる場合もあります。
それを解消したわかりやすい事例が化粧品です。カウンセリングを受けながら商品を選びたい人は百貨店や美容部員がいる店舗、自分だけで選びたい人はドラッグストアと販売チャネルを選べます。
また、相談はしたいが、自分のタイミングで話しかけたいというニーズに対応するため、店員さんがその場にいなくても、オンラインカウンセリングで相談できるコーナーを設置している実店舗もあります。
「接客」同様に好みが分かれるのが「支払い方法」です。最近、スーパーのレジの種類が増えたのにお気付きでしょう。今までは従業員がバーコードをスキャンする「有人レジ」が主流でしたが、最近では自分でスキャンする「セルフレジ」が拡大しています。
私がよく行くスーパーでも、有人レジよりセルフレジが多くなっています。導入当初は、戸惑う利用者が見られましたが、3~4カ月もすると慣れてきました。今では、買物の量やレジの空き具合など状況に応じて好みのレジを選んで会計するようになっています。
さらに、カメラやセンサー、AI(人工知能)などテクノロジーの進化により、レジや決済行為自体をなくしてしまう「レジなし店舗」も徐々に広がってきています。逆に、ゆっくりと自分のペースで会計ができ、従業員が丁寧に対応する「スローレジ」の導入を進め、高齢者や幼い子連れの利用者に好評を得ている店もあります。
自分のペースに合わせて支払い方法が選べると、買物にまつわるちょっとしたストレスがなくなります。快適さが向上し、そのお店を利用する理由になるのです。
お店でゆっくり選びたい人、さっと用事をすませたい人。支払い方法以外にも自分のペースで「利用方法」を選べるようにする工夫はありそうです。
『チョコザップ』は、パーソナルジムのライザップが新たに2022年7月にオープンさせた、24時間通い放題の「コンビニジム」です。月額3278円(税込)で24時間365日いつでも通うことが可能です。
チョコザップはマイペースのポイントである「料金」「時間」「接客」「利用方法」のすべてを、既存の会員制ジムの常識から覆すことで、ジムの世界でのゲームチェンジャー的な存在として、爆速で成長を遂げています。
なぜ常識を覆したのか。その理由は、コロナの影響でフィットネスジムが営業停止せざるを得ない状況になり、それをふまえた新業態開発だったからです。
通常の会員制ジムの月額料金は5000円~1万円が平均的です。そこを大幅に下げた驚きの価格設定をしています。この金額に決まった背景には、たくさんのABテストを繰り返した試行錯誤があります。例えば、もう少し高めの金額はもちろん、30分利用につき○○円のような従量課金まで検討したといいます。
その結果、「行けない日が増えても損しないから入っておこう」という心理になる現在の価格を採用しました。いつでも好きなときに行けることを大事にした新業態のサービス指針があります。仕事前や仕事後に通いやすいように、24時間営業のジムというのも増えてきました。
さらに365日営業ならなお便利です。チョコザップはそれだけではなく、出店場所にもこだわっています。
ジムの通いやすさでいうと駅前のビルなどの一等地が選ばれがちですが、チョコザップは生活圏内での出店も行っています。コロナで出社が減り、駅の活用が減る中で、地価の高い駅前だけではなく、家から歩いて数分で行ける生活圏内の出店により、ジムが身近なものになりました。
ライザップは対面でのマンツーマン接客を得意としていますが、コロナで人と人とが近づけない中で、チョコザップでは接客無しの無人店舗を採用しました。
その代わりに、店舗にAIカメラを多数取り付け、常に状況を確認した上で店舗運営を行っています。その中で、面白い発見もあったと言います。ライザップの経験から、痩せやすい体を作るには筋肉を増やす筋トレが大事なので、筋トレマシンを多くおいていました。
しかし、AIカメラによる分析では、有酸素運動の方が人気で待ち時間が発生していました。そのため現在では有酸素運動の台数を増やしたのだそうです。
無人店舗ですがAIカメラというテクノロジーを駆使して、客が使いやすい店舗のために日々アップデートしています。チョコザップは、運動初心者でもジム通いを続けやすくするために、徹底的に初心者の気持ちに寄り添っています。そのため、着替えが必要なく、着の身着のままで運動が可能という斬新な利用方法を打ち出しました。
実際、スーツ姿や私服のまま軽く運動する人の方が多いそうです。ジムに行くときの靴や着替えを準備する億劫さをなくし、着替える手間もなくし、手軽さを実現しました。
チョコザップのマイペースさは、「料金」「時間」「接客」「利用方法」という前述の4つだけではありません。ジムの運動や健康的な価値だけでなく、それ以外のサービスを多角的に提供することで、ジム=運動する場所という概念を大きく変化させています。
例えば提供しているサービスの一例が、セルフエステ、カラオケ、ランドリー、マッサージチェアなどです。カラオケで遊んだり、エステで癒やされたり、ランドリーで洗濯をしたりといった運動以外のリフレッシュが来店のきっかけになります。
その結果、周りに運動する人がいるとスイッチが入り、洗濯の待ち時間などに少し運動をして行くという流れになるそうです。まずは、どんな理由でも来てもらうことを重視し、楽しく続けられるサービス設計をしています。
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