毎年東京大学にも合格者を出す秋田県随一の進学校・秋田県立秋田高校。しかしそのインテリな印象とは裏腹に、伝統的に苛烈な「応援歌練習」が行われていた。
【写真】今年の行事予定にも「応援歌練習」とハッキリ書かれている
2020年代に入学したAくんは、当時のことをこう振り返る。
「応援歌の練習は人権侵害。あんなに大声で罵倒された経験は後にも先にもないですし、少なくとも僕がいた頃の『応援歌練習』は異常でした」
秋田高校 公式HPより
Aくんは中学時代に成績がよく、県内で1番の進学校である秋田高校を受験し、晴れて合格を手にした。
「入学するまでは、自由な校風だという話をよく聞いていました。制服がなく服装も自由で、学校案内などでも生徒の自主性をうたっていたので受験を決めました。入学後に『応援歌練習』があるなんていう話は聞いたことがなかったです」
秋田高校に入学式の日。式典に続いてオリエンテーションが終わると、Aくんたち新入生は体育館で待たされた。
「オリエンテーションの最後に部活の紹介があり、それが終わると応援委員会が突然ドカドカと足音を立てて後ろから入ってきました。体育座りしている新入生の前に5人の男子生徒が並び、急に『立て! 間隔を空けて並べ!』と言われて、『おっす』『いっす』と大声で返事をする練習をさせられました。校歌を歌う時は腰をそらして手を後ろに組んだ状態で立たされ、何度も絶叫することを強要されました」

練習の間、応援委員会の上級生たちは歩き周りって新入生が声を出しているかを厳しくチェック。太鼓を持っている人が1人いて、応援委員会のフレーズに合わせて太鼓を叩く。
「校歌を覚えてくるように、という事前の指示はなかったので、当然覚えていませんでした。それでも応援委員は『さっさと声を出せ! でかい声を出せ!』と罵倒してきます。歌っている時もずっと新入生の間を歩き回って、声を出しているかチェックするんです」
初日ということもあり、かなり多くの生徒が校歌を覚えてはいなかった。
「校歌を歌えずにいると、『秋田高校の伝統を汚すな』と何度も言うんです。『生徒手帳を出せ』とも言われたのですが、持っていなかった人は応援団に取り囲まれて『なんで忘れたんだ』と叱責されていました。恐怖で泣いている人もいました。しかもその間、先生はずっと体育館の脇に立って見ているんです。これは教師も公認なのかと驚きました」
罵倒され続けた「応援歌練習」は約30分で終了したが、翌日以降も4日間にわたって応援の練習が行われた。しかしAくんは2日目以降参加しなかったという。
「最終日だけは応援団が優しくなった、と同級生が話していました。それを聞いて、『まるっきり洗脳の手法だな』と思ったんです。自由な校風と聞いてきたのに、実際は全然違った」
応援歌練習をあまりに理不尽に感じたAくんは、部活の先輩に「こんなことを毎年やっているのですか」と確認したという。
「むしろ前の年などはより酷かったと聞きました。ランダムに選ばれた人がみんなの前に出て歌わされる『リード』という仕組みがあり、一部の新入生は強制的に立候補させられたと言っていました。手を挙げずにいると応援団に詰め寄られて無理やり前に引きずり出されたそうです。応援団が竹刀で床を叩いていたとも聞きました
以前にも、Twitter(現在のX)に『秋田高校の応援歌練習がよくないと思う人はリツイートしてください』というような匿名の書き込みがされて学校で話題になったことがあったようです。でもそれを見つけた学校が『応援練習のことをSNSに書くな』という指示があったそうです」
Aくんは「応援歌練習」があったことで心理的に落ち着かない日々が続いた。

応援歌練習についてどう思っているのか。
「応援歌練習は人権侵害です。人生であれだけ大声で罵倒された経験はないですし、異常だとしか思えません。いまでも時々思い出しては腹が立ちます。SNSに書き込むなと脅すのも悪質です」
秋田高校に問い合わせると、「応援歌練習」は現在も行われているが、「今は期間も短く、大声を出さなければいけない、という雰囲気はまったくないと言ってもいい」という回答を得た。

「応援歌練習は応援委員会が指導をしますが、生徒会の生徒も関わっています。体育館で行われますが、昔とは変わりつつあるんじゃないかと思います。以前は長い期間、昼休みや放課後に『応援歌練習』がありましたが、今は期間も短く、昔のように大声を出さなければいけない、という雰囲気はまったくないと言ってもいい。生徒によっても感じ方はありますが、無理に参加させないようにしています」(秋田高校・教頭)
今でも体育会系式の校歌練習が残る高校は全国に多くある。どのようにして新しい時代に適応していくのだろうか。
〈「女の子が泣かされていて応援団を許せなかった」怒号を浴びせながら黒板を叩き、前列の生徒の机をひっくり返す…今も日本中に存在する“応援練習”の闇〉へ続く
(渋井 哲也)