「どの店も同じ味です」とチェーン店は一様に主張する。しかし、人や環境が変われば、自ずと味に違いは出てくるはず。徹底調査してみた。
前編記事『噂の「庄内マクド」だけじゃない…天下一品の「こってり」が《店ごとに味が違う》と呼ばれるようになったワケ』より続く。
飲食店チェーンの多くはセントラルキッチン方式を導入している。これにより各社は調理の効率化や味の均一化を図っているが、それでも店ごとに味が変わるケースは少なくない。
代表的なのが、「経営の神様」稲盛和夫も「この店が一番」と評した吉野家 有楽町店。国内1259店舗(’25年2月時点)のうち、「有楽町店は日本一の客数を誇る店舗でございます」(株式会社吉野家広報)と言うが、実はこの来客数の多さが美味しさの決め手になっている。
同社HPによれば、吉野家の牛丼は、〈工場からたれを各店舗へ送りますが、各店舗で牛丼を作る際に肉や玉ねぎの味わいが溶け出したたれに工場から送ったたれを追加で継ぎ足して〉作られている。
一日約1600人が来店するとも言われる有楽町店では、肉と玉ねぎを煮る回数も来客数に比例して増える。結果、日本で一番、肉と玉ねぎの旨みが溶け出した極上のたれが生まれるというわけだ。
あえてマニュアルから外れることで人気を集めるチェーン店がある。立ち食いそば・うどんチェーン、名代 富士そばの三光町店だ。
新宿の明治通りと靖国通りの交差点にある同店舗。ブログ『富士そば原理主義』を運営し、年間200杯富士そばを食すというライターの名嘉山直哉氏は「つゆが別格」と断言する。
「そもそも富士そばは、レシピは画一化されていますが、店舗ごとにアレンジしたり、独自メニューの開発が推奨される、自由な社風が特徴です。
三光町店のそばつゆは、他店よりイルドな風味のなかに、カツオメインの出汁が利き、盛り・かけ共にそばの美味しさが際立っています。店主に聞いたところ、意図的に出汁感を強めているそうです」
チェーン店といえど、現場の作り手次第で味は変わってくる。時として、個人店顔負けの「職人」がいる店も。
中華チェーン餃子の王将は、支店独自のメニューがあるなどの理由で、店舗ごとに固定ファンが付くほど。そんな彼らが一同に「餃子の『焼き』の技術では日本一」と謳うのが荻窪駅西口店だ。
同店に週4回は通うという常連客はこう明かす。
「メニューには記載されていませんが、王将では餃子を注文するとき、『よく焼き』『うす焼き』『両面焼き』と、通常とは異なる焼き方を指定できます。その注文方法を初めて行ったのが、自身も餃子職人で「餃子界のレジェンド」と呼ばれるパラダイス山元氏。
そんな山元氏が常連として通う店が、この荻窪駅西口店なんです。レジェンドの注文に応じる流れで、担当スタッフの焼きの技術が磨かれ、王将ファンの間で『聖地』と呼ばれるまでに至っています」
実際に同店で3種の焼き方を試してみると、「よく焼き」はカリカリとした食感が強まり、「うす焼き」は餡の風味がダイレクトに伝わる。そして「両面焼き」はむごとに食感が変わるなど、異なる味わいが楽しめた。
開店からわずか10分で満席になる様からも、焼きの技術に惚れた客の多さがうかがい知れる。
客の間では、いつもと同じ味という安心感でチェーン店を選ぶ人がいる一方、個人店と同様、自分の気に入った店舗を選ぶ人も少なくないようだ。それを企業側も消費者ニーズの多様化・細分化と捉え、チェーン店でありながら個性を打ち出そう、という動きが増えつつある。
たとえば、カレーハウスCoCo壱番屋では、’22年に「海外ココイチの逆輸入」をコンセプトに海外メニューを提供する「CURRY HOUSE CoCo ICHIBANYA WORLD」、通称ココイチワールドとして京橋エドグラン店をオープンした。
株式会社壱番屋の広報によれば、「カレーソースは、他店舗がポークカレーをベースにしたものに対し、ナッツ類やチーズでコクを出した海外専用のものを、ライスもターメリックを利かせたスパイスライスを用いています」と、ここでしか味わえないカレーが楽しめるようだ。
また、焼き肉チェーン、牛角の成城学園前店は店名・外観こそ他店と差異はないが、実は全国で唯一、サーロインやシャトーブリアンを提供するなど、高級路線を狙う。
「牛肉以外にも、クッパや冷麺のスープは、店舗で毎日、削り節と日高昆布から出汁を取るなど、他店よりもこだわりを強調しています」(株式会社レインズインターナショナル広報)
自分の好みの味を求めて、各地の店舗を回る―そんなチェーン店の楽しみ方を味わってみてはいかがか。
「週刊現代」2025年3月29日号より
噂の「庄内マクド」だけじゃない…天下一品の「こってり」が《店ごとに味が違う》と呼ばれるようになったワケ