中野区のシンボル「中野サンプラザ」の再開発計画が、突然白紙となった。半世紀に渡って親しまれ、おととし惜しまれながら閉館。跡地には複合施設「NAKANOサンプラザシティ」が建設される計画だったが、今も手つかずのまま残っている。
【映像】中野サンプラザ“閉館”のときのお客の様子(2023年の映像)
その大きな理由は、人件費や資材費の高騰だ。総事業費が当初見積もりの倍近くになることが判明して、計画を白紙にする方針が決まった。説明が不十分だと反発する区議もいるなか、約3500億円の計画提案を白紙にした理由について、中野区の酒井直人区長は「100年先においても中野区の顔となる特別な場所で進めていく提案としては、必ずしも十分ではないと判断した」と説明した。
SNSでは「物価高騰や人手不足で、今後も延期や中止が増えそう」「再開発は防災面でも必要だ」「中野サンプラザは再利用できないのか」といった声が出ている。再開発の延期や白紙化は、日本のまちづくりや生活に、どのような影響をおよぼすのか。『ABEMA Prime』で考えた。
中野区議会議員の加藤たくま氏(自民党)は、中野サンプラザについて、「都心から見ても『三角形の白い建物』で、中野駅の場所が分かった。地元のランドマークタワーかつシンボルであり、東京全体でいう東京タワーのような存在だ」と説明する。
中野サンプラザの再開発は、地上61階、高さ250メートルの複合施設を建設する計画だった。しかし当初見積もりの約1810億円から、2639億円に増額され、さらに2024年9月には約3500億円まで増えたことにより、再開発は「白紙」となった。
当初案では1棟だったが、コストの増加を埋めるべく、見直し案ではツインタワーにして住宅が増やされた。「2021年に野村不動産が出した案では、事務所4割、住宅4割、その他2割の配分だった。建設費の急騰で、採算性を上げるために、住居を4割から6割に増加させて、分譲住宅の売り上げでまかなおうとした。特殊工法を取りやめて、ツインタワーにすることで、建設費の穴埋めを考えた」。しかし、「ツインタワーの案は、コンペで次点となった事業者が上げてきた案だった。公共事業で『次点をまねるのはどうか』という考え方もある」という。
加藤氏は、再開発案には「サンプラザのDNAが入っていない」と批判している。「サンプラザだけでなく、隣の中野区役所と一体による再開発だったため、そこに住居は1棟もなかった。住居比率が4割になるのは致し方ないが、6割を超えると『DNAどころか、誰の子どもなんだ』と疑問符がつく」。
サンプラザ跡地は、今後どうなるのか。「今のデベロッパーとは契約解除となり、どの事業者とやるか再選定する。もしくは、今の建設コストで難しければ、ビル自体をないものにするなど、思い切った変更をする可能性もある」そうだ。
不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏が、各地で進められている「市街地再開発事業」について説明する。「駅前の商店や住宅、工場を1軒ずつ建て替えるのは難しい。そこでそれぞれの不動産の持ち主が、土地と建物を持ち寄って組合を作る。その組合が事業主になって、建物を建てる」といった仕組みで、「土地と建物を拠出した地権者にはお金がない。ならば組合が超高層ビルを建てて、権利者は今まで持っていた土地・建物の評価に合わせた床をあげる。地権者にとっては、タダで家が建て変わる」といったメリットがある。
そして、超高層ビルにすることで、新たな床が生まれる。「それをデベロッパーが買うことで、全体の事業費をまかなう。この方式が全国で数多く行われていて、行政は容積率を上げる代わりに、建物内に公民館や図書館を作るよう求める。それでも地方では資金不足になるため、自治体が補助金を大量につぎ込んで、住宅地や商店街をキレイにして、防災にも役立てる」。そして、こうした現状においては、「出来上がるのは、タワマンか超高層ビルかのどちらかだ」と考察する。
結果的に、再開発が行われている半数以上にタワマンが建設されているという報道もある。「ビルを建てられるところは非常に少ない。中野駅前でもオフィスは成り立つが、新宿や渋谷に大きなオフィスビルが建つなかで、中野は相対的に地位が落ち、賃料があまり取れない。建設費が上がれば、デベロッパーは『オフィスでは採算が取れないから、床を減らさないと』となる」。
環境副大臣で自民党衆院議員の小林史明氏は、「“駅前タワマン方式”は時代に合わなくなっている。『先に箱だけ作って、人が集まればいい』という考え方が元になっているが、人が集まることと、にぎわいのある豊かな地域コミュニティーができることは無関係だ」と考える。
中野の再開発については「今の場所をリノベーションして、1回だけでもみんなで使い、集まった人で『中野サンプラザのDNAって何だっけ』『街としてどうしたい』からアイデアを作り出す」という案を出す。「区が勝手に決めた建物ができて、新しい人が住んでも、『本当に中野として良かったのか』という結論になる気がする」。
牧野氏は「タワマン購入者には、外国人が非常に多い。また、実際には住まずに、半年~1年後に売却する投資家も多い。タワマンが金融商品化していて、にぎわいもへったくれもない。『中野区が投資商品を作って売った』となれば、そこにDNAはなく、ただ投資マーケットを応援しているだけになる」と指摘した。
(『ABEMA Prime』より)