今年2月、X(旧Twitter)で〈小学校卒業後、中学校には通わないことを決めました〉と宣言し、物議を醸した12歳のYouTuber・Tarou。小学校2年生の頃からオンラインマルチプレイヤーゲーム「フォートナイト」(編注:複数プレイヤーが一つのフィールドで銃などの武器を手に入れ、最後の一人まで戦うシューティングゲーム)の実況を配信し、YouTube「たろうチャンネル」の登録者数は19万人を超える大手実況者だ。
中学校へ通わず、1日9~11時間ほどを「フォートナイト」の練習に充てていく方針だというTarouとその両親。Tarouとその両親が、子育ての方針や将来のビジョンについて語った。【全3回の第3回。第1回から読む】
【写真】ランドセルを背負って「銀の盾」を手にするTarou。海外で大会の様子を実況する姿も
──子育てについて、ご両親の方針を改めてお聞きします。
母:子どもたちを「自分のちからで楽しく生きていける大人に育てたい」というのが前提。ただ、今の社会制度では、楽しく生きていくにはある程度お金を稼ぐ能力も必要なので、将来的にそれにつながるようなことを、本人の適性に合う形で、やらせてあげたいなと思ってる。Tarouの下に2人子どもがいますが、弟たちのほうは勉強的なものが好きで、自分から漢字をたくさん覚えたり、プログラミングをやったりしています。
父:僕個人的には、漢字をたくさん覚えたりプログラミングをたくさん作ったりしても、明確な目的がなかったら、それだけでは意味がないとは思ってるんですけど。今は本人たちが興味を持ってやりたいことをやれる環境を整えています。
──YouTubeでの活動もまだまだ力を入れていきますか?
Tarou:世界大会が第一目標だから、YouTubeはやりたかったらやるって感じです。
父:私個人的には、 YouTuberって、自分でメディアを持つ経験ができるのが貴重だなと思っていて。将来どんな道に進んだとしても、発信力や伝える力ってすごく役に立つと思うので、Tarouにはその過程も含めて、どんどんチャレンジして頑張ってほしい。けれど、Tarouがやりたいこと以外はやらないので、YouTubeを続けるかどうかは私次第かもしれないというか……Tarouが気乗りする企画を私が用意し続けられるかどうかに尽きるのかも。
母:一般家庭で、子どもが興味を持ちそうな参考書を両親が用意するのと同じような感じだよね。
父:Tarouはやりたくないことは絶対やらないけれど、実現したい夢のために必要なこととかは、おかしいくらいやるんです。だから「何が必要なことなのか」を親がいっしょに考えてサポートしてやる。そうすると自分から取り組んでいきます。
あと、私はやっぱり子どもにとって、失敗する経験が一番大事だと思っています。YouTubeが伸びなくなったらどうするんだとか、「フォートナイト」でも勝ち負けを繰り返して本気で悔しい思いをするわけですけど、そういう失敗や挫折は全然してもいいというか、それこそとても大事な経験になると思っています。
競技ってすごく厳しい世界なので、トップレベルの戦いだと上手くいかないことのほうが多い。でもそういう厳しい世界へのチャレンジって、自分にモチベーションがないと挑んでいけないじゃないですか。だから、モチベーションがある今が、そういう挫折や失敗を味わって成長するチャンスなんです。YouTubeも、動画を撮っても数字的には思ったより上手くいかないことも多いんですけど、そういう経験をこそが一番大事だなと思っています。
──小学生のうちから試行錯誤や挫折の経験、数字との戦いをする必要はあるんでしょうか?
母:確かに小学生の間はそういう競争からは距離を置いて、ユートピア的な世界で生きてもらいたいって意見はあると思います。でも、本当にそう思うんだったら、受験戦争に子どもを巻き込んだりするのも少し変な気がします。
父:あとは、やっぱり自分がやりたくてやっていることなら、上手くいかなかったりクリアできなかったりしても乗り越えられるんですよね。やりたくないことを無理にやって、うまくいかないから辛いわけで。
──小学生YouTuberといえば、「ゆたぼん」さんを思い浮かべます。現在16歳の彼も、かつては学校に行かない選択肢を取り、「学校に行きたければ行けばいいし、行きたくない子は行かなくていい」などと発信していましたが、Tarouさんから見てどのような存在でしたか?
Tarou:実は、動画を全然見たことがなくて……。
母:「ゆたぼん」さんとTarouは活動フィールドも違って、一概には言えないから比較するのは難しい。ただ、(私達は)うちはうちのやり方でやりたい、ということだけで、他人に「こうすべき」と伝えたことはないつもりです。
父:ゆたぼんさんの発信を見ていて、以前は彼がどう育っていくのかちょっと気になっていましたけど、最近は彼が留学へ行くことを決めたりとか、楽しそうで自発的でいいなあと思っています。
──TarouさんがこれまでにYouTubeで稼いだお金はどうしているのでしょうか?
父:彼の個人会社を作ってそこで運営しています。基本的に今あるお金は、貯めていくというよりは、YouTubeを維持発展させる、伸ばすための設備や機会への投資として使っています。Tarouの将来の選択肢としても。
──では、その将来についての考えをお聞かせください。
父:Tarouが中学校へ通わないと宣言したことで、Xでは「絶対にまずいから親として止めろ」といった心配のDMなどが届いたり、「法律違反だ」という意見もあったりしました。
「自分もプロゲーマーをやっていたけど厳しくて諦め、今は勉強している」という人もいます。自分の経験を踏まえて「絶対に勉強したほうがいい」という声は、なかなか説得力がありますよね。一方、私の古くからの知人には子育て世代の大手企業社員、経営者なども多いですが、そういった方々からは今回の決断に対して「合理的」「目標に対して最適な選択」と共感の言葉をかけていただけました。
母:私たちは、これからの社会では必ずしも「~卒」という学歴が必要とされるとは限らないと考えています。
–Tarouくん的にはどうですか?
Tarou:(よく「将来の夢は?」と問われるが)それは、「なりたいこと」のことなのか、「なりたいもの」のことなのかってのが難しい。やりたいことは「フォートナイト」の世界大会とか、YouTubeとか、釣りとか。「なりたいもの」、つまり将来的に収入を得る方法はまだ特に決めてないけど、面白いこと、楽しいことで「やりたいこと」があるというときに、それが実現できるようになっておきたい、そのために、やらなきゃいけないことはやるようにしています。
母:Tarouは以前はずっと、将来の夢を聞かれたら「大人になりたくない」って答えてたんです。その理由は、「今がすごく楽しい」ってことと、「親が年老いたり死んだりするから、みんなと暮らせなくなっちゃう」ってことだったそうです。
でも、ちょっと前から「13才にならないと大会に出られないから、13才にはなりたい」とか、今では「大人になってもいいんじゃないかな」と言っていました。
父:「大人になってもいいかも」だなんて、ちょっと笑っちゃいました(笑)。小さい頃の自分は「早く大人になりたい」思っていたので。
Tarou:世界大会出場を達成したら、次は、「世界大会で一位になりたい」と考えるようになると思います。今はとにかく、世界大会に出たいです。それが夢だし、目標です。
3人でインタビューに応じた親子からは、仲の良さと、「言いたいことを言い合える」関係性を感じた。Tarouは中学には形式上は入学し、通学をしない形を取るという。まださまざまな道を選べる年齢であるTarouは、どんな大人になっていくのだろうか。
(了。第1回から読む)