朝日新聞出版の社員から「パワハラ」を受けて廃業に追い込まれたなどとして、フリーランスの女性が同社と同社の社員を相手取り、計約2000万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は4月7日、計約60万円の支払いを命じた。
判決などによると、原告の女性は2018年11月、朝日新聞出版との間で、ムック本の編集業務の委託契約を結んだ。
しかし、ムック本の編集責任者だった朝日新聞出版の社員(当時「週刊朝日」副編集長)から具体的な指示がされない中、2019年1月、編集に携わる他の関係者に同時送信する形で「考え方が非常識」「親の顔が見たいですね」などと非難されるメールを送られたという。
東京地裁の阿部雅彦裁判官は判決で、こうした内容のメールを送った行為を「違法」と認定した。
女性側は、社員の対応によって動悸や震えが出るようになり、委託業務を終えた後に仕事をできない状況になったことから、休業損害として約1500万円を求めてもいた。
これについて、阿部裁判官は、委託業務が終了してから約3年が経過後に、女性が動悸が起きることなどを医師にうったえていたが、その半年前の診察ではうったえていなかったことなどから「不自然」と指摘し、次のように判断した。
「(社員の)不法行為によって生じた身体反応により就労困難となって休業損害や治療費等の損害が生じたとの事実は認められない」
女性はこの日の判決後に東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開き、「業務の内容を具体的に記載するような契約書を発行することが当たり前になっていくといい」と話した。
女性は委託業務を終えた後、毎日の生活を送るのに精一杯で、病院に行く気力がなかったという。
その間、600万円の貯金を切り崩して過ごしてきたと振り返り、「早く病院に行くことができていればもう少し違った結果になったのかと思うと、とても悔しい」と話した。
原告代理人の平井哲史弁護士は次のように述べた。
「出版社のフリーランスに対する扱いは非常に酷いことが往々にしてあります。これを機に、会社としてきちんと反省して、社内の体制を整えていただく必要があると思います。
また、フリーランスに対するセクハラ事件はいくつも裁判例が出ていますが、パワハラについてはまだそれほど脚光を浴びていないと思うので、世間にきちんと警鐘を鳴らして、行政がきっちり指導する機会になればいい」