新婚の40代女性には、夫に言えない秘密があった(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
ゴミ屋敷に住む40代の女性は、結婚相手にその事実をひた隠しにしながら暮らしていた。しかし、時間が経つにつれ隠し通すことも難しくなり……。
本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。
YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信するゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)に、ゴミ屋敷にならないための秘訣を聞いた。心の持ちよう一つで苦しい状況は好転する。
動画:夫にも言えなかった事実!40代女性の秘密【新生活に向けて汚部屋脱却】
※本連載がマンガになりました。ぜひ、無料で読める【漫画「ゴミ屋敷」~孤独な部屋の住人たち~】もご覧ください。
40代の女性が住んでいたゴミ屋敷は、関西地方にある賃貸の1軒家だった。これまで母と2人で暮らしていたが、母が高齢のため介護施設に入居することになり、1人暮らしが続いていた。
間取りは3DK。生ゴミ屋敷というわけではないが、2階にある寝室の床にはこまごまとしたゴミが散乱している。
イーブイのスタッフに事情を打ち明ける依頼者。話を聞いた1階の和室にもモノやゴミがあふれていた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
2階にある寝室。細かなゴミが散乱している(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
モノが増えるたびに新しい収納家具を買うと、そのぶんモノも増えて部屋が狭くなり、モノ屋敷の原因になってしまう。しかし、整理収納をまったくしないのも問題だ。押し入れや収納家具に入りきらなかったモノがそのまま床にあふれ返っているので、「汚部屋」の印象は拭えない。
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1階の和室と2階にあるもう1つの部屋は、完全に物置状態だった。床が見えなくなるまでモノを詰め込んでいるので、片付けようにも作業を行うスペースがない。多いのは本、チラシ、冊子などの紙類。使わなくなった家具家電。積み上がった衣装ケースの中には大量の服が入っている。
主に洋服類が詰め込まれた2階の物置部屋(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
作業にあたったスタッフが衣装ケースの中の服をゴミ袋に詰め替えながら話す。
「服はどのゴミ屋敷でも必ず出てきますね。多いところで300~400キロは出てきます。ゴミ袋1つで15キロにはなるので、20袋あったらそれで300キロですからね」
現場に入ったスタッフは全部で5人。室内に3人、外回りに2人と二手に分かれて片付けが始まった。必要なモノは依頼主の女性があらかた取り出している。本、貴重品、掃除用具、ダンボール数箱だけを残し、ほかは全処分となる。
1階のキッチンも足の踏み場がない状態だった(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
依頼主の女性はすでに結婚相手と新居に住んでおり、ゴミ屋敷には空家賃を払い続けている状況だという。今回、どうして片付けに至ったのだろうか。
「結婚を機に引っ越しをすることになったんですが、賃貸なので引き払わないといけないじゃないですか。以前は母と暮らしていたんですが介護施設に入所しました。1人ではどうしようもない状態になってしまい、必要なモノだけ新居に持っていきました」
新婚ホヤホヤの夫には、ゴミ屋敷の存在を知られたくなかった。ひた隠しにしながら1人でイーブイに依頼するも、その費用は自分では賄えそうになかった。意を決して「家を片付けたいのでお金を貸してほしい」と夫に相談すると、「片付けをするのに業者を呼ぶってどんな状況なの?」と聞かれる。
「主人は家を見て一言、『離婚や!』と」(依頼主の女性)
寝室のベッドを解体すると、中にもゴミがびっしり(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
冗談まじりではあったというが、夫も驚いたことだろう。そうして、ゴミ屋敷の存在がバレることとなり、結果的に資金を援助してもらえることになったのだ。イーブイ代表・二見文直氏の弟で、1階の和室でゴミの仕分けをしていた二見信定氏が言う。
「隠していたけど、相談してみたら上手いこといった。だから、相談するって大事だなって思いますね」
この量のゴミを1人で片付けるのは難しかっただろう(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
この家のように、作業をするスペースすらない部屋を前にすると、一体どこから手を付けていいのか分からなくなってしまう。途方に暮れ、片付けは進まず、またゴミやモノが増えていく。そうならないために、片付けの順番を知っておくといい。信定氏が話す。
「何から片付けるというよりも、どこから片付けていくかを考えるとスムーズに進みます。現場へ見積もりに行った際、“どこから手を付けていいかわからない”という意見はやっぱりよく聞くんです。
あっちもこっちもやろうとすると、結局どこにも手が出せないという結末に陥りがちです。まずは自分の動線を確保する。それから、1カ所ずつ集中して片付けていく。そうすれば達成感も得られて、片付くまでの流れができるんです」
まずは動線を確保するため、1階のスペースから片付けていく(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
「ゴミ屋敷になっている家を片付けよう」と自分で決意するのもハードルが高い。イーブイに依頼をしてくる人は、引っ越しなどで必要に駆られているケースや、ゴミ屋敷である状況を見かねて親族が代わりに連絡をしてくるケースが多い。
「“自分ではどうしようもない状態”に悩んでいると気持ちもどんどん落ち込んでいくし、部屋の状況もさらに悪化してしまいます。“片付ける”“片付けない”は別にして、一度誰かに相談だけでもすれば気持ちは楽になります。1人で考え込んでいても、いい案はなかなか出てこないですね」(信定氏)
細かい仕分けも多いキッチン。数人がかりで取り掛かる(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
冷蔵庫や食器棚の中もきれいにし、片付いたキッチン(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
午前中で1階部分の片付けが終わり、夕方にはすべてのゴミとモノが撤去され、家の中は空っぽになった。
新婚ということもあるだろう。見積もり時も作業時も、依頼主の女性に思い悩んでいるような様子はなかったが、片付けが終わるとさらに表情が明るくなった。
「こんなにゴミを散らかしてしまった私の責任なんですが、他人から見たらゴミでも自分にとっては思い入れのあるモノもあるじゃないですか。だから、1人で片付けをしようとしても絶対に無理だったと思うんです。もちろん費用は掛かりますけど、“綺麗なもの”をイーブイさんから買ったような気持ちです。いいものを買わせていただいたなと」(依頼主の女性)
1階の和室を片付ける様子(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
畳の上に敷いていたフローリング材も剥がし、すっかりきれいになった1階和室(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
「綺麗なものを買った」。この言葉に文直氏は考えさせられた。
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「僕らはこれまで、ゴミ屋敷で悩む人たちの最後の受け皿のような存在でいたいと思っていました。でも、部屋を片付けられない人が無理して自分で部屋を片付けようとする必要もないと思うんです。家事をする時間がない人が家事代行を頼むように、もっと気軽に清掃業者に依頼すればいいし、お金で解決してもいい」
現状、ゴミ屋敷清掃業者はゴミ屋敷の住人にとって「最終手段」のポジションにある。しかし、そこまで思い悩む前にもっと早い段階で業者に片付けてもらうのもおおいにアリだ。
「たとえば2カ月間かけて30袋のゴミを処分したとしても、僕らだったらたったの10分で終わる作業だと思うんです。片付けに悩んだり、頑張ったりしなければいけないという決まりはないんです」(文直氏)
依頼主の女性はそのマインドを持っていた。よって、夫に相談し、綺麗なものを買うことができた。そして、救われたのだ。
2階の寝室も総力戦で片付ける(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
モノやゴミが一層され、生まれ変わった2階の寝室(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
(國友 公司 : ルポライター)