タワーマンションが立ち並ぶ武蔵小杉駅(川崎市中原区)近くの町内会が、今月末で解散する。
役員の高齢化に加え、新たな住民の加入が進まなかったことが主な原因で、地域活動の担い手不足という全国的な課題の象徴と言えそうだ。(田川理恵)
「なくなるのはさみしいけれど、もう運営は不可能。ほかの道は考えられない」
25日夜、「小杉町3丁目町会」会館で開かれた最後の町会役員会では、集まった役員らが口々に無念の思いを語っていた。
同駅周辺はかつて工業地帯だった。バブル崩壊後、工場が次々と移転した跡地に2000年代半ばから超高層マンションの建設が相次いだ。
同町会長の五十嵐俊男さん(82)によると、建設ラッシュ以前、地域には個人経営の店や工場が立ち並び、中低層の集合住宅もあった。町会が最も盛んだった40~50年前の加入世帯は850ほど。餅つきや祭りといった行事の開催に加え、野球部や鼓笛隊も組織され、住民が頻繁に交流していたという。
一帯の再開発で、住民の多くは転出するか、新しくできたマンションへ入居した。タワーマンションの管理組合に加入を持ちかけたが、応じるところはなかった。
現在加入するのは実質400世帯ほどで、約15人の役員も70歳代が中心。10年近く前に子ども会が解散し、コロナ禍以降は地域の清掃や防犯パトロールもやめた。会費の徴収もやめ、防災訓練もほとんどしていなかったという。2年ほど前から解散に向けた話し合いを始め、「自分たちが元気なうちに整理しよう」と、昨年5月の総会で正式決定した。
町会組織は災害時の助け合いなどで力を発揮することが多い。今回の解散を受け、五十嵐さんは「いざという時のために、今後はさらに近所付き合いが大事になる。マンションの人たちが中心になり、地域の誰もが関われるような防災組織ができれば」と期待する。
区によると、実際、小杉町3丁目の人口は04年の1851人から24年には5508人と3倍近く増えたが、区の町会加入率は同じ20年で76・4%から59・9%に低下した。
武蔵小杉駅周辺のタワーマンションには別のまちづくり組織、一般社団法人「武蔵小杉エリアマネジメント」があるが、こちらも18年頃には約5000世帯だった会員が約70世帯にまで減った。マンションの管理組合が全入居世帯から集めた会費を活動資金としていたが、16年に国土交通省がマンション管理規約のひな型を変更し、管理組合による会費徴収が難しくなったためだ。
代表理事の松尾寛さん(74)によると、4月からは事務局業務を企業に委託し、防災を中心とした活動に絞る。負担軽減を図ったことで、役員に手を挙げる人も出てきた。「若い人は仕事も子育てもあり、昔のシステムでは機能しない。業務をできるだけ少なくし、持続可能な体制を作っていく」と話す。
町内会の実情に詳しい地域活性化コンサルタントの水津陽子さん(63)は、「担い手不足は全国で起きており、今回のケースは氷山の一角」と話す。「地域のネットワークが消滅してしまうというインフラ(社会基盤)喪失の影響は大きい。解散後も、今までのコミュニティーを緩やかな形で残しながら、防災などの活動を続けることが求められる」と述べた。