兵庫県庁が発表した「2025年度当初予算案」は衝撃をもって迎えられた。2026年度に60億円の収支不足となり、兵庫県は県債発行に国の許可が必要な「許可団体」となる見込みだというのだ。
“阪神・淡路大震災関連の県債の償還が続き、長期金利の上昇も見込まれる”ことがその理由とされたが、一般社団法人兵庫総合研究所政策顧問の中川暢三氏(69)は「復旧復興事業での借金返済はほとんどが終わっています」と否定する。
「大震災のせいにして、行財政改革を先送りしているに過ぎません。兵庫県は震災復興のために国から財政支援を受けず、県債発行により1兆3000億円を借りて事業費を賄いましたが、直近の残債は1800億円余りにまで減っています。
ただ、創造的復興の名のもとにさまざまな施設を新たに整備する一方で、古い施設のスクラップ&ビルドは進まなかった。新たに整備した施設の運営や維持管理に今なお、毎年多額の資金が出ていっています」
「創造的復興の名のもとに整備された施設」とは何か。
「阪急西宮北口駅前の兵庫県立芸術文化センターや、灘浜の人と防災未来センター、兵庫県立美術館、三木総合防災公園、新長田駅南地区再開発などです。再開発で生み出された新長田駅前の商店街は家賃や管理費の負担が大きく、その多くが空き店舗です。
それらのテナントスペースを役所(神戸市や兵庫県)が使うならわかりますが、県と市は新たに合同庁舎を建ててしまった。震災復興のために新たにハードを建設し、それらの運営や維持管理、5年ごとの防災イベントなどを続けるなど、後々までお金が掛かる仕組みを敷いてしまった」
もともと神戸の中心地(三宮、元町)は古いビルが多かった。それらの再開発を後回しにして、復興の名のもとにハコモノを造りまくったツケが、三宮や元町の経済的な地盤沈下を招いているというのだ。復興のシンボルとしてHAT神戸に国際健康開発センタービルを建て、WHO神戸センターを招致したことを中川氏は「馬鹿げている」と一刀両断する。
「兵庫県はそのために年間3億円、神戸市は1.5億円を30年間払い続けてきました。135億円もの追い銭(税金)を払う馬鹿な事業を認めた県議会にも大きな責任があると思います」(中川氏)
なぜ、歴代知事はこのような愚策を採ったのか。中川氏は「天下りが問題」だと断じる。
「兵庫県には外郭団体が33団体もあり、県庁職員OBたちが多数、天下っています。歴代知事が作り出した“金食い虫の組織”で、選挙の時は知事の応援部隊になっていました」
兵庫県では1962年11月に就任した金井元彦氏(故人)、次の貝原俊民氏(同前)、井戸敏三氏(79)、そして現知事の斎藤元彦氏(47)の全員が総務省(旧自治省)の出身だ。
「63年間も総務省出身者を知事に祭り上げてきたことで、財政・人材・情報などさまざまな面で国・総務省への依存が固定化。“私たちの郷土の未来を県民自身が考えて県政を運営する”という自治の精神が削がれてしまったと私は見ています。民間経済を知らず、税金を使う発想しかない役人知事では、前年比で予算を微調整する前例踏襲の県政しかできない。
兵庫県では一般会計・特別会計・公営企業会計で年間約4兆6000億円が県民サービスに使われています。意思決定を迅速化するなどして、業務の生産性を仮に5%上げることができれば、年間2300億円もの新たな予算枠を生み出せます。
ただ、そんな発想で県政改革に取り組める人材は、総務省はじめ国のキャリア出身者にはいません。彼らは各都道府県・政令市・主要自治体などに1~2年間の腰掛けで出向し、大過なく異動を繰り返しているだけです。私は過去2回の兵庫県知事選で斎藤氏と公開討論会で論争しましたが、残念ながら、政治理念・ビジョン・具体的政策さらには情熱も感じ取れませんでした」
斎藤氏を動かしている”キーマン”に中川氏は注目している。大阪府の吉村洋文知事(49)がその人だ。
兵庫県が大阪・関西万博に17億6000万円もの多額の県予算を使っているのは「維新は斎藤知事の生みの親であり、選挙で支援を受けた吉村大阪府知事に首根っこを掴まれているから」だと中川氏は言う。
兵庫・大阪連携会議は、大阪・関西万博に全面的に協力すると公言していた斎藤氏が知事に就任した’21年に設置され、同年12月に初回が開催されている。
斎藤知事は外郭団体に天下った県庁OBについて65歳定年の内規を厳密に守らせたり、682億円もの負債のある分収造林事業の債務整理を進めたりするなどの成果をあげたが、「行財政改革への斬り込みは緩い」と中川氏は手厳しい。
「昨年度の県税収入は9200億円ほどありましたが、これは知事や県庁の努力というより、民間企業の業績が良かったことによるもの。財政難を理由にして、削れる箇所から予算を削減するだけでは縮小均衡させているに過ぎません。いずれ削りしろがなくなれば、収支不足が発生します。将来の雇用増・税収増・人口増・成長戦略に繋がる分野にこそ優先的に税金を投入するべきです」
兵庫県広報課の見解を聞いた。
「(震災復旧復興事業の赤字について)阪神・淡路大震災から30年を迎え、復旧・復興にご尽力いただいた全ての皆様に心より敬意と感謝の意を表します。新長田駅南地区の復興市街地再開発事業は神戸市事業ですが、被災地の復興や災害に強いまちづくりに大きな役割を果たしており、県としても市と協力し、適切に進めてきました」
大阪・神戸両市で開催された阪神・オリックス優勝パレードの開催資金捻出のために不適切な税金投入によって県に約3億円の損失を与えたとして昨年10月、斎藤知事と片山安孝副知事(64・当時)が背任容疑で刑事告発された。
パレードの開催費用は当初、寄付金で賄うとされたが、“実際には県内金融機関に対する兵庫県からの補助金を総額1億円から4億円に増額し、各信用金庫などから寄付金の形でキックバックさせていた”と元県民局長が内部告発していた。
斎藤氏は自身のさまざまな疑惑に対し、いまだに自らの言葉で詳しい説明をしていない。このリーダーで兵庫県政は難局を乗り切ることができるだろうか。
取材・文:深月ユリア