※本稿は、やしろあずき『すごいADHD特性の使い方 人生が本当にラクになるコツ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
初めましての方は初めまして。WEB漫画家のやしろあずきと申します。クセが強い2頭身キャラで、日常を漫画で綴(つづ)っています。この本は、発達障害の1つであるADHD(注意欠如・多動症)を持つ人、あるいは、ADHD傾向にある「グレーゾーン」の人に向けて書いたライフハック集です。これを書いている僕ももちろん、ADHD診断済みです。
以下、僕の日常。
遅刻癖がどうしても直らない。LINEの未読が100件以上たまっている。何度確認してもケアレスミスを繰り返す。確認せずに行動して失敗する。公共料金の払い忘れ。使ってないのに延々と払い続けるサブスク。空気読めない。喋(しゃべ)りすぎ。何か発言する「え?」という顔で見られる。物をすぐ失(な)くす、忘れる。失くしたはずの爪切りが部屋に何個も転がってる。
……もうね、こんなの無限にあります。僕はADHDのことも漫画にしているのですが、こうした悩みに共感する声もたくさん聞いてきました。
でも、自信を持ってお伝えします。ADHD特性は、マイナスだけじゃない。そこには確実に、素晴らしい才能が隠されています。
注意欠如は、発想力と創造力の源泉に。多動や衝動性は、強靭な行動力に。空気を読めないズレた言動は、常識破りの魅力。集中力や感情のムラも、ハマれば爆発的な力となる。
これらはみな、「すごい」と思われるような特性です。すごい不注意、すごい発想力。すごい行動力にすごい協調性のなさ……。マイナスもあるけど、それを補える「すごい」がいっぱいある。凹だけでなく凸もあって、凸凹(でこぼこ)なのがADHD特性です。
一方で、その特性の凸凹を理解せずに放置していると、マイナスのほうに暴走してしまいます。犬を飼っても、意思疎通をして躾(しつ)ける努力をしないと、パートナーとしてやっていくのは難しいですよね。これと一緒です。
ADHDは基本的に、生涯付き合っていくものだから、愛犬のように飼いならして仲良くなる必要があります。そのためのお手伝いができたらと思い、この本では、さまざまな悩みに対する僕なりの対策法をまとめました。
こまごまとした生活のライフハックから、「何言ってんの?」というやしろ流メソッド、あるいは「ありのままで」という現状維持のススメまで、バラエティに富んだ内容になっています。僕が実際にやらかした失敗談もふんだんに盛り込みましたので、キミの経験にリアルに刺さるものが、きっとあるはずです。
いずれにせよADHD特性を「治す」のではなく、「理解」し、うまく「活用」するのがこの本のテーマです。ADHDの人の中には、これまでにたくさんの失敗を経験してきた人もいるでしょう。でも、自分を責めないでください。キミは絶対にすごいんだから。責めるのではなくて、飼いならす。
愛犬のダメさをいつまでも責め続けたくはないよな?
キミの隠された才能を200%活かすために、キミだけのADHD特性を理解し、躾けて、生涯のパートナーとなる愛犬のように愛(め)でていただけたら幸いです。
準備が遅い、時間の見積もりが甘いことのほかに、遅刻の原因に寝坊を挙げる人も多いでしょう。生活リズムが乱れやすいADHDはどうしても夜型になりがちで、起きるのが苦手な傾向にあります。
深刻な睡眠障害を併発している場合は、なるべく早く医師に相談するようにしましょう。ここでは、単純に怠け者ベースで寝坊が直らない人のための、僕なりの対策方法をご紹介します。
まず、スヌーズを信用するな。これ、寝坊防止の格言にしたほうがいいです。スヌーズで起きたためしがない。あいつらはマジで信じちゃいけない。
スヌーズの致命的な欠点は、「何度もリマインドしてくれる」という安心感を誘っておきながら、ワンタッチであっさりと設定が解除されてしまう点です。
寝ぼけまなこで無意識に解除して、「1回しか鳴らなかったんだが」とブチ切れたことは数知れず。寝坊したくなかったら、まずは脱・スヌーズから始めよう。
じゃあどうするか。面倒でも、全部手動でアラームを設定しましょう。
分刻みに、最低5回は鳴らすようにする。アナログでバカっぽいかもしれませんが、結局これが一番効果があって、信頼できるやり方でした。
ご参考までにADHDあるある的な、僕のアラーム設定画面を貼っておきます(名前は、つけてもつけなくてもどちらでもいいです)。
それでも起きられないという人のために、とっておきの秘策を紹介します。
それは、Xでヤバいツイートを、起きる時間の少し後に予約投稿するというもの。名づけて「予約投稿爆弾」です。
例えば、昔書いた恥ずかしいポエムのスクショや、めちゃくちゃスベッてるドヤツイート、好きな人の名前、ここには書けない過激発言などの投稿を予約して、起きて止めないと、それが全世界に発信される装置をつくるんです。これは本当に効きました。
確実に起きたもん。起きないと人生終わるから。
万が一が怖すぎて眠れなくなるかもしれないので、マジで本当に、死んでも寝坊できない日に限ってやってみましょう。
ここまで遅刻に関してお話ししてきましたが、最後にお伝えしたいのは、「遅刻しそう」と思った瞬間に、相手に連絡するのを怠らないことです。
遅刻するかもとうっすら思っていても、ほぼ0%の間に合う可能性に賭けて、あえて相手に連絡しないことってありませんか? 僕はありました。
あと単純に、相手が怒るかもしれないという恐怖心もありました。でも、断言します。ちょっとでも遅れる可能性が出てきたら、まずは一報「すみません、遅れます」と先打ちすることが超大事。
それだけで相手のストレスは多少軽減されるし、自分の心も軽くなります。
さらに、いざ寝坊したときに、「ADHDだから仕方ない」と開き直るのはやめるべきです。
寝坊や遅刻に限らず、あらゆることを思考停止で「ADHDだから」と片付けてしまうのは、周囲に不快感を与えるだけでなく、自分にとっても危険です。努力をしたうえで「これはできない」と割り切るのは前に進むために必要なことですが、「ADHDだから仕方ない」と開き直るのは、むしろ自分に罪悪感を積み重ねることにもつながってしまうからです。
微妙なニュアンスの違いですが、僕は大事なことだと思っています。
ここまでの話でわかる通り、ADHDはその特性上、人に怒られたり迷惑をかけたりして、謝る機会が多いです。
僕ももちろん、たび重なる仕事のミス、遅刻、失くし物、空気読めない発言などでいろいろな人に謝り倒し、今ではすっかり謝罪のプロになりました。
一方で、「謝るのが苦手」というADHDの人も、少なからず存在します。自分の尺度で生きているので、単純に相手がなぜ怒っているのかわからない人。指摘されたことに対して、謝罪よりもまず言い訳が先に来る人。何となく謝るのがイヤで、先延ばしを永遠に続けている人。平和主義者で、謝るときの独特のピリッとした空気に耐えられない人……。
人によって理由はさまざまですが、おおむね気持ちは理解できます。
僕の場合、相手がミスをしようが遅刻をしようが、「そんなもんだろ」という感じで何とも思わないんですよね。だって自分もそうだから。
誰かに怒るということがあまりないので、相手がなぜ怒っているのか理解できないこともあって。だから昔は「謝る」ことの意味がわからず、余計に相手を怒らせることがたびたびありました。
35年生きてきた今、1つの答えが出ました。謝罪は儀式だ、と。
雨乞いの儀式ってあるじゃないですか。旱魃(かんばつ)が続いた際に、雨を降らせるよう神様に祈るアレです。
現実的なことを言えば、雨乞いをしなくても雨は降るし、降らないときは降らないですよね。でも、あの儀式をすることによって、「やれることはやった」という納得感が生まれる。雨を降らせるのに必要ないけど、みんなの納得感のためには必要。それが、雨乞いという儀式だと思います。
謝罪もこれと全く同じです。謝る行為自体には、何の意味もありません。
謝っても自分のミスは消えないし、今後改善される保証もない。でも、怒っている相手の納得感のために、「反省してます」という姿勢を見せることは大切です。
相手にとっても、謝られる時間というのはイヤなものです。あんまり怒る立場に立ったことがないからわからないけど、「もういいから、早くこの時間を終わらせようぜ」とうっすら思ってるんじゃないでしょうか。
相手にとっても自分にとっても、今起きている問題の落としどころとしての「謝罪」が求められているだけであって、決して本質的な行為ではないのです。
だから、「謝るのが苦手」「謝る理由がわからない」と感じている人も、まずは何も考えずに謝ってみましょう。言い訳はいらない。プライドとかも関係ない。つべこべ言わずに、一度頭を下げてみる。
なぜなら、謝罪はあくまで形式上の儀式だから。怒っている相手と一緒に雨乞いをやっていると思えばいいんです。
ただし、反省はしっかりとしましょう。同じことを繰り返さないためにも、対策はし続けるんです。
謝罪という行為それ自体に意味がないだけで、やってしまったミスに対しては、何が悪かったか、どう防げるかという内省と、今後のアクションにつなげる行動力は絶対に必要です。
僕はむしろ、謝罪ではなく、このリカバリー部分にカロリーを使うべきだと思っています。全部「雨乞いだわ」と思っていれば必要以上にメンタルを持っていかれることもないし、気持ちを切り替えてその後の行動に注力できるんじゃないでしょうか。
はい。ページが余ったので、僕が今までにしたベスト謝罪の話をします。台湾で、ちょっと大人の店に行ったときの話です。
一通り楽しんでお会計をしようと思ったら、財布がないんです。あろうことか、ホテルに財布を置いてきてしまったんですね。
顔面蒼白になりながらそのことを伝えると、奥からボブ・サップ並みの強靭な体格をした台湾人が出てきました。もうね、間違いなく台湾マフィア。「あ、殺されるわ」と、このときばかりは死を覚悟して、全力で謝りました。
「財布、ホテルにあるから! 取りに行って絶対に戻ってくるから! 信じて! アイハブ侍ソウル!!」
そう言いながら、ボブ・サップに過去一の勢いで許しを乞い、ホテルに財布を取りに行って、無事会計できました。
これが、僕が今までの人生で一番真剣に謝ったときのエピソードです。
———-やしろ あずきWEB漫画家自身の日常を漫画にしたブログ「やしろあずきの日常」は毎日更新中で、kindleでも配信中。ADHD診断済。また、誕生日をきっかけに自宅に大量の三角コーンが届くようになったことから、「三角コーンの人」としても知られている。クリエイターが安心して仕事できる環境をつくりたいという思いから、2025年にサンカクケイを設立。主な著書は『人生から「逃げる」コマンドを封印してる人へ』(ダイヤモンド社)———-
(WEB漫画家 やしろ あずき)