先日、「無課金妊婦」という表現がX(旧Twitter)上で話題になりました。不妊治療中の女性が、不妊治療をすることなく自然妊娠した女性を指して使った語句です。

2021年に流行語大賞にノミネートされた「親ガチャ」を筆頭に、「課金」「SSR(アイテムなどの希少性を示すスーパースペシャルレアの略)」など、元はゲーム用語として広がった言い回しが、育児や人生に対してもどんどん流用されるようになってきました。

◆ゲーム感覚で不妊治療しているわけじゃないのに

今、俗語として日常的に使われている「課金」とは、本来の意味からは反転して、サービスやコンテンツを使用する際にお金を支払うこととして定着しています。

特にゲームにおいて「課金」することとは、アイテムのゲットやプレイ時間の増加など、優遇された楽しさを享受するための行為です。お金を払った分だけ、「自分がほしいものがすぐに手に入る」「簡単に手に入れられる」という意味合いが付加された「課金」。

「無課金妊婦」とのことばの裏には、「自分はこんなに重課金しているのにずるい」といった、羨望を超えた嫉妬心までもが含まれているのでしょう。

しかし、課金をしたとしても、ほしいものたる“赤ちゃん”が手に入るとは限らないのが、妊娠であり出産です。

不妊治療にお金をかけるほど、妊娠する確率をしない状態より上げられはするのかもしれませんが、それでも「絶対に妊娠できる」保証はありません。

不妊治療中の知り合いの女性に、「無課金妊婦」のワードがXで炎上したことについて話を聞いてみると、不快感をあらわにしていました。

「不妊治療をしたのに妊娠できなければ、お金をドブに捨てたように思えるばかりか、自分自身がとても無様でかわいそうな存在にすら思えてしまう。

お金も時間もかかれば、精神的な負担も大きい。けれど本来、それらを覚悟した上での結果は、自分たちが納得できればよくて、他人は関係ないもの。

『ゲーム感覚で不妊治療をしている』印象を与えてしまいかねないから、『課金』を生殖に対して使うのはやめてほしい」

◆わが子が「親ガチャ外れた」なんて言わないように…

同じくゲーム用語として広まっているものに、「ガチャ」があります。ゲームセンターにあるカプセルトイのように、ほしいアイテムやキャラクターをゲットすべく、アプリ上で回す「ガチャ」。

どんな景品・アイテムが出てくるのかは運次第であることから転じて、「運によって大きく結果が異なる」事態にひろく使われるようになっています。

その中でも頻繁に耳にするようになったのが、子どもが生まれてくる環境や親を選べないことを指す「親ガチャ」です。

「ガチャ」に当たり外れがあることと同じ発想で、親ガチャに外れたら不幸、親ガチャに当たったら幸せ、といった価値観を持つ人は、現代ではかなり多いように感じられます。

容姿に悩んで整形する人が「親のこの遺伝のせいで」と遺伝子を憎んだり、大学時代に借りた奨学金を返済している人が「親が貧乏なせいで」と経済状況を恨んだり。

人生はいくら努力をしても大して意味がなく、そもそもどんな親から生まれたかで決まってしまう――そうした考え方は、こと若者の間ではかなり一般的になっているのではないでしょうか。

一方、友人のシングルマザーはこの「親ガチャ」の表現に、知らず知らずのうちに深く傷ついてしまっていると言います。

「元旦那は養育費も振り込まなくなったから、生活に余裕はない。大学に行きたいと言われたら奨学金を借りてもらうだろうし、そもそも父親の愛情も知らないから、両親がそろっている家庭をうらやましく思っているかも。

子どもから将来『親ガチャ外れた』と言われたとしても、『そうだよね、ごめんね』としか言い返せない気がする」