昨年4月、北海道旭川市にある「神居古潭」のつり橋から、女子高校生(当時17歳)を川に転落させて殺害したとされる事件で、殺人と不同意わいせつ致死、監禁の罪に問われている小西優花被告(20)の裁判員裁判が、旭川地裁(小笠原義泰裁判長)で開かれている。
【画像】小西被告が卒業文集に綴っていた将来の夢
2月28日に開かれた第二回公判。
公判では、被害者の両親の供述調書、関係者の供述調書などとともに、検察側は証拠としてAさんが全裸で土下座する動画や、コンビニの防犯カメラの映像を提出。
検察側によると、事件に関与したとされるC(当時16歳)は取り調べで次のように述べたという。
Cは内田梨瑚被告(22)らが被害者のAさんを留萌市から旭川市内まで車に乗せて、監禁しながら移動してきたところに、途中から乗車。
Aさんがコンビニの店員に助けを求めた一部始終も目撃していた。
「(小西)優花さんは、車内でAの顔を殴るふりをしていました。梨瑚さんと優花さんは、終始(Aさんを)怒鳴りつけていました」
さらに、車内で謝るAさんに対して、内田被告はこんな言動にも及んだ。
「梨瑚さんは、『いますぐ、そこの電柱に立ってこい。轢いてやるから』と言っていましたが、実際にはしませんでした」
さらに車内で被告と内田被告は、Aさんの頭部を叩くなどの暴行を加えていたという。
途中で立ち寄ったコンビニから車に乗って、帰宅するために送り届けてもらうときに、最後にこう質問したという。
「梨瑚さんに対し、『(Aさんを)留萌まで送っていくんですよね』と言いましたが、梨瑚さんは『こいつの態度次第だから』と言っていました」
その後、Cは旭川市内で降ろされ、被告と内田被告、Aさんを乗せた車は走り去っていった。
また、検察側は証拠として、神居古潭で撮影されたAさんが全裸で土下座している動画2点と、コンビニの防犯カメラ映像の計3点を提出。
映像は、裁判官と裁判員らの目の前にあるモニターに映し出された。傍聴席からは見えなかったものの、かろうじて声は聞こえる。
そのリアルな声とやり取りに、法廷の誰しもが聞き入っていた。
はじめに、Aさんが助けを求めたコンビニの防犯カメラ映像が映し出された。
コンビニのドアが開閉する音から数分がたった後、「ドン」「ドン」と2回大きな音がした。そしてすぐに、女性の焦った声が聞こえる。Aさんの声だ。
<すみません、通報してください。すみません>
間髪容れずに、「ドン、ドン、ドン」と物音が聞こえ、野太い声が聞こえる。
<迷惑かけんなって。やめろよお前。お前が悪いんだよ。わかったら、早く立て>
<お前が悪いんだべや、早く立てよ>
当時、内田被告が買い物をしており、レジで会計をしていたときの出来事。内田被告はタバコなどを購入していたといい、「年齢確認をお願いします」という電子音声が聞こえる。
レジに立っていた店員の声であろう、「○○円です」がうっすら聞こえる。
そして、再び野太い声が響く。
<やめろよお前>
Aさんは、弱々しく震えた声で再度こう言う。
<すみません…>
検察側によると当時、Aさんはコンビニのレジカウンター付近にある、段ボール箱や新聞入れをつかみ、必死に抵抗していたという。
<お前が悪いんだべさ。わかったら、早く立てよ。いいから行くよ>
Aさんの短い「キャッ」という悲鳴。
<立てや。いいから。お前が悪いんだべって>
<店に迷惑をかけんなって>
「ゴラッ」などと声が聞こえ、どんどん声が遠ざかっていく。Aさんは、被告にアウターのフードをつかまれて、引きずられながら、店外に出されたとのことだった。
つづいて、神居古潭で全裸のAさんが土下座している動画が映し出された。(※実際の映像は傍聴人らには見えないように再生されている)
映像は、携帯電話で撮影した動画特有のノイズ音とともに、Aさんの弱々しい声が聞こえる。
まず、神居古潭に到着後、内田被告の指示で車内で全裸にさせられた後、駐車場のアスファルトの上で土下座させられている、わずか6秒の映像から。
Aさんの声は震えていて、少し早口でこう話す。
<なめた態度ばっかりとって、申し訳ありませんでした…>
次に映し出されたのは、12秒の動画。Aさんが全裸で橋の欄干に座って、謝罪しているものだという。
内田被告「(少し命令口調で)はいどうぞ」
Aさん「なめた態度ばっかりとってすみません……キャッ、やめて…」
法廷に、Aさんの悲鳴が響き、ここで動画は終わっていた。
検察側によると、Aさんが悲鳴をあげて、欄干から橋の床に戻ってきたという。だが、被告らは再度欄干に座るように指示し、転落させたと指摘する。
静かな法廷に流れる、被告らとAさんの音声。裁判員や裁判官、法廷にいる誰もが聞き入っている。
筆者も鳥肌が立った。どこにでもいるような、悪びれる様子は微塵もない若い女の声の奥に、なにか狂気が感じとれたからだ。
当の被告は終始、下を向きながら、目をつぶったり、少し動揺している様子。この映像が流れている間、弁護側のモニターにも同じものが映し出されていたが、弁護人の隣に座る被告は映像には目をやらず、うっすらと涙を浮かべていた。
神居古潭のつり橋から転落したAさん。検察側の証拠によると、転落から32日後の5月21日、下流約64kmの空知郡奈井江町内の川で発見された。
母親と父親が処罰感情などを述べた調書には、最愛の娘を突如として亡くした悲痛な言葉がならんでいた。
母親の供述調書が読み上げられる。
<一番の願いは、Aが生きて帰ってくることです。しかし、その願いは返ってきません>
Aさんは、事件当日の4月19日と翌20日は友人と札幌に行くことになっていたという。小さなころから、幼稚園の先生にあこがれていたAさんは、20日に札幌市内の学校のオープンキャンパスに参加する予定だった。だが、それは叶わなかった。
<(警察から連絡を受けて)本当にAが死んだんだなと思い、涙が止まりませんでした。何時間も連れまわされて、生きたまま川に落とされ、痛み、悲しみを考えるとやりきれません>
<犯人には、極刑を望みます>
<辛かったね。寒かったね。怖かったね。今は暖かいところにいるのかい、と話しかけています>
続いて、父親の供述調書。
<私の大切な長女のAが殺され、17年の短い人生を終えました。Aは、とても家族想いの子でした>
<手を合わせながら、怖かったろ、痛かったろ、寒かったろ、辛かったろ、と語りかけました>
さらに、被告らの犯行についてこう怒りを露わにする。
<こんなひどいことは、人間のすることではありません。Aと同じ目にあわせてやりたいですが、それは私にはできません。できる限り、厳重な処罰をあたえてください>
これまで、被告は裁判中に、目に涙を浮かべる瞬間はあったものの、終始表情をかえることなく、一点を見つめていた。
しかし、被告はこのとき、肩を震わせ、涙を手でぬぐっていた。
休廷後、傍聴人からは「涙が止まらなかった」という声が聞こえるほど、両親の悲痛な想いに法廷は包まれていた。
取材・文/学生傍聴人