総務省が3月21日に発表した2月の全国消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除くと、前年同月比で3・0%上昇した。中でも「米類」は80・9%の上昇、記録が残る1971年以降で最高となり、“令和の米騒動”は継続中だ。そんな中にあって、ご飯のお供である“ふりかけ”市場は過去最高を更新したという。トップシェアを誇る丸美屋食品工業株式会社(東京都杉並区)に聞いた。
***
【写真】合計売上では「のりたま」を超えるという「混ぜ込みわかめ」
丸美屋の2024年12月期の売上高は674億6800万円と、こちらも過去最高。ちなみに25期連続の増収だ。なぜこんなに景気がいいのか。広報宣伝室長の青木勇人氏に聞いた。
「長期にわたり売上を伸ばしているということで申し上げますと、弊社では『のりたま』に代表されるふりかけ、『釜めしの素』シリーズ、『麻婆豆腐の素』シリーズがシェアトップとなっております。そういった昔からある主力商品が順調なおかげで、新商品も安心してお手に取っていただける。基本的に国内のみの販売ですし、屋台骨・幹がしっかりしているので、枝葉を作りやすい状態になっていると思います」(青木氏)
ちなみに、1960年発売の「のりたま」は今年で65周年、70年発売の「とり釜めしの素」は55周年、71年発売の「麻婆豆腐の素」は54周年だ。
「いずれも半世紀以上のロングセラーならではの安心感が大きいと思います。ふりかけは小さい頃に召し上がられた方が多いと思いますが、そうした幼少期の体験が、ご自身が親になったときに子供に与えやすくなったということもあると思います」(同)
「のりたま」が発売される前は、魚粉などを使ったふりかけがほとんどだった。そんな中で、玉子味の顆粒と刻み海苔を使った「のりたま」の登場は画期的だった。以来「のりたま」は、ふりかけの代名詞と言えるほど日本の食卓に普及した。もっとも、それだけでは米価高騰にもかかわらずふりかけが売上を伸ばしている説明としては納得がいかない。
「はい、ふりかけ市場という観点では、ここ2~3年で特に売上を伸ばしています。その理由としては、一時はパスタやパン等の値上げにより、腹持ちのいい米食回帰が生まれたことで、ふりかけが選ばれたこともあると思います。さらに、給料が上がらないのに物価が上がるとなると、おかずを控えたときにふりかけが……」(青木氏)
2000年から25期続く丸美屋の増収記録は、いわゆる“失われた25年”にピッタリ収まる。また、実質賃金の下落は2022年からといわれる。つまり、景気が良くないとふりかけが売れる、ということだろうか。
「そういうネガティブな部分もなくはないかと……。ただ、そこで選ばれるのがふりかけというのは、子供の頃から慣れ親しんだからだというのは大きいと思います」(同)
確かにそうだ。
「ふりかけも、海苔や胡麻、玉子原料など、全般的に原材料が上がっているため値上げをしているのですが、他の商品と比べると安価であるということもあるかと思います」(同)
ちなみに「のりたま」「味道楽」「すきやき」は、ニューパック(小袋=25g)が130円、大袋(52g)でも254円(いずれも希望小売価格)だ。「ごましお」などはニューパック(40g)で97円である。値上げをしたと言いつつも100円程度の商品が多く、失礼ながら駄菓子屋のような商売で年商600億円超というのが凄い。
「それだけ多くの方に買っていただいております。また、ご家族の皆さんの好みが違っても、価格が安いため全員のお好みが買えてしまうことも強みだと思っております。ふりかけは嗜好品だと思っておりますので、弊社にはふりかけだけで100種類近くがございます」(青木氏)
パッケージの違いも含めて100種類?
「いえ、基本的には味の違いです。例えば、ご飯に混ぜるおにぎりの素、『混ぜ込みわかめ』シリーズにも20種類以上あります。自分の好みはもちろん、家族の好みを試したり、ご飯の上でやれる楽しさを味わっていただければ」(同)
丸美屋は来期、売上高687億円を目標に掲げている。ところが、今年の1~2月は「釜めしの素」シリーズが売上を落としたという。丸美屋にもとうとう米価高騰の煽りが?
「そうですね。米価が高騰する中、釜飯は美味しいのでお米をたくさん食べてしまうということがあると思うんです」(同)
ん?
「釜飯を作るには、お米の量も2合とか3合と多くなりがちです。美味しいからといって貴重なお米を多く使ってしまうのを敬遠されているのではないかと思っています」(同)
ふりかけも美味いが、炊飯の量まで変えることはまずないだろう。ただ、この状態で来期の目標は達成できるのだろうか。
「今年に関しては今までにない難しい局面だと思っています。これまで予想もしなかったお米の高騰がありますし、自社で何とかできるものでもありませんから。ただ、危機感を抱いているのは事実ですが、それでもお米の消費はそれほど落ちていないようですし、お米のコスパ、腹持ちの良さがありますので、高騰しているとはいえ皆さんがお米を買わなくなることはないのではと思っております。また、弊社は1つの商品に特化していないところが強みでもあるので、たとえ『釜めしの素』が落ち込んでも、他の商品で補うことは可能だと思っています」(青木氏)
実際、コロナ禍では、ふりかけの落ち込みを補ったのが釜飯だったという。
「コロナの時はお弁当需要や行楽需要がなかったので、ふりかけが若干厳しいときがありました。でも、逆に在宅の方が増えたことで、1日に3食を作るのが面倒ということもあって『釜めしの素』などが売れたんです」(同)
スーパーで目にして懐かしい!と手にした人もいただろう。
「そうですね。久しぶりに手に取ろうとしたときに、安心感のあるロングセラーの商品が売れるとはよく言われます。現在、『釜めしの素』や『麻婆豆腐の素』といった商品はコスパ、タイパという部分で、共働きの方が増えている社会情勢にもマッチした商品となっています。誰が作っても美味しくできますし、かつてレトルト商品は“手抜き”というイメージがありましたが、今はよく言われる“手間抜き”ということで重宝されていることもあります」(同)
ロングセラーといえば「のりたま」だが、久しぶりに食べると玉子の味が濃くなっているように感じたのは気のせいだろうか。
「『のりたま』は玉子と胡麻、海苔、抹茶塩、鯖の削りぶりを原料にしているのですが、リニューアルを繰り返しており、実は現在9代目。2020年の8回目のリニューアルでは、それまで2種類だった玉子を3種類に増やしているんです」(青木氏)
玉子の種類って鶏の産地とか?
「いえ、加工の仕方ですね。以前は大きい“ふっくら玉子そぼろ”と小さい“サクサク玉子顆粒”の2種だったのですが、そこへ口に入れた際に口溶けのいい“ホロッと玉子顆粒”を加えたことで、最初から最後までより玉子の味をしっかり味わえるようになったんです。おそらく、それで玉子の味をより感じられたのではないでしょうか」(同)
なるほど。ちなみに、丸美屋のふりかけベスト3は何だろうか。
「1位は圧倒的に『のりたま』です。2位が『味道楽』。3位が『すきやき』になりす。ただ、先ほど申し上げた『混ぜ込みわかめ』20種類の合計売上は『のりたま』を超えているんです。ですから、ブランドということでは『混ぜ込みわかめ』が1位ということになります。お弁当、おにぎり需要ということになりますね」(同)
「のりたま」を超えるとは、意外な結果だ。とはいえ、65周年を迎えた「のりたま」は子供向けには“ひよこチップ入り”、シニア向けには懐かしい“レトロパッケージ”を期間限定で発売中、これが好評だという。ふりかけNo.1の座を奪還できるだろうか。
デイリー新潮編集部