群馬県にある上信越道では、高さ70メートルもの大きな足場が組まれていて、落石の恐れがある岩を撤去する作業が行われています。高速道路を止めないで巨大な岩の塊を取り除くという、世界初の工事です。
関東と長野、新潟を結ぶ上信越道。そのルート上に突如現れた異様な光景。高速道路の真上に謎の巨大な建造物がそびえ立っています。高さは70メートル。ビル23階分と、タワーマンション並みの高さがあります。
この異様な光景にSNSでは「まるで要塞みたいだ」「迫力がすごすぎる」「一度見たら忘れられない光景」との投稿がみられました。
場所は群馬県安中市。近くで見てみると、無数の金属パイプで足場が組まれていることが分かります。頂上には作業員の姿とともに、大型のショベルカーなどの重機が何台もあり、何かの工事が行われている様子。この建造物の正体、それは…。
足場が組まれる前の様子では、高速道路の真上には巨大な岩の塊があります。岩は高さ70メートル幅80メートルあり、下を走る車と比べ、いかに大きいかが分かります。
この巨大な岩を撤去するために組まれた足場が、要塞のように見えていたのです。
とがった岩が連なる様子から、日本三大奇景の一つとして知られる妙義山。巨大な岩は、そこに連なる山の一角にあり、500万年前からあるといいます。
昼夜問わず、24時間体制で行われている工事。どうして撤去を決めたのでしょうか?
1996年、北海道の豊浜トンネルで起きた岩盤の崩落事故。トンネルを走行中だった路線バスと乗用車1台が巻き込まれ、20人が亡くなりました。
事故をきっかけに日本中の類似地点を調査したところ、この北野牧トンネルで「大きな地震が起きると落石のリスクがある」ということが判明。“将来的な危険性を取り除くため”岩の撤去を決めたといいます。
上信越道は、関東と信越地方の経済活動を支える大動脈。多くの車が行き交い、流通の要でもあるため、通行止めにしての工事はできません。そのため、高速道路の上に巨大な足場を設置して、撤去の際の落石を防いでいるといいます。
さらに、道路の真上には万が一の際に車への被害を防ぐため、厚さ2メートルの巨大な緩衝材を設置。“高速道路の通行を維持したまま、巨大な岩の塊を撤去する”という、世界初の解体工事に挑んでいるのです。
撤去の現場に行ってみると、険しい山の中に作られたモノレール。切り立った山の中を、まさに壁を登るように進んでいきます。
工事をするのは、これまで数多くのダムやトンネル工事を担ってきた大林組です。
2017年に始まった巨大な岩の撤去。完成まで10年以上かけた世紀の大プロジェクトです。
しかし、70メートルもある岩を撤去するという、これまでに経験したことのない難工事。作業工程を検討したシミュレーションは、なんと85パターンに上ったといいます。
頂上には岩盤を砕くための重機やダンプカー。これを運搬するために特別に作られたのが、インクラインという重機などを乗せる巨大な装置です。
撤去工事のためだけに特別に造られたといい、設置だけで1年を要したといいます。
落石を防ぐ対策や、現場までの仮設路の設営など、解体の準備だけで6年を費やした、まさに前代未聞のプロジェクト。難関ポイントはそれだけではありません。
斎藤寿幸リポーターが工具を使い石を割ろうとしますが、びくともしません。
この岩は、安山岩というマグマが急激に冷え固まってできた岩で、非常に硬く、耐久性が高いという特徴があり、主に建築資材や墓石などで使われています。
すぐ下には多くの車が行き交う高速道路。ただ一つの落石も許されません。そこで取られた工法が…。
先端にダイヤモンドを埋め込んだ、特殊なドリルを使って岩に穴を開けます。その穴にビッガーという大型の“くさび”を打ち込んで、岩にヒビを入れていきます。さらに、ブレーカーという別の重機を使って、岩を細かく砕いていきます。
慎重に進められる解体作業。なかでも最大の難関が…。
岩塊を内側から順番に砕いていきますが、一番外側の岩にブレーカーを垂直にあてると砕けた岩が道路に落ちてしまう恐れがあるといいます。
そのため、外側から斜めにブレーカーを入れ、少しずつ岩を崩していくことで岩を内側に落とし、道路側への落石を防ぐ計画です。
昼夜問わず24時間体制で行われる解体工事。
10年がかりの巨大プロジェクト。高速道路の安全を守るために、どのような工夫が凝らされているのかを知ってもらうため、工事の様子が公開されました
世界初のプロジェクトを見ようと、見学会には定員の70倍の応募。世紀の大工事に対する注目度の高さがうかがえます。
参加者たちも工事の説明を真剣に聞き入っています。
目の前で割れていく岩の塊。工事を間近で見ることができた参加者は、次のように話します。
(「羽鳥慎一 モーニングショー」2025年3月7日放送分より)