ニュースで連日報道されている詐欺被害。「なんで引っかかるの?」「自分は絶対に大丈夫」そう思っている人でも、いざ自分がターゲットになると、いとも簡単に引っかかってしまうというのが恐ろしいところ。その実態とは……。
「どう考えても詐欺ってわかるのに、引っかかるなんて信じられない」……詐欺のニュースを見聞きして、こんな風に思う人は少なくないでしょう。
しかし、詐欺師は人をだますプロです。実際に会ってもいないのに相手を信じ、お金を投じてしまうケースは少なくありません。
川村正義さん(仮名・72歳)も「まさか自分が」そう思っていた1人。元妻と30代で離婚してから独り身だった川村さんは、会社を退職後はホームセンターでの品出し、駐車場の車両誘導や配置などのアルバイト。年金月13万円とアルバイト収入を合わせて月19万円ほどで暮らしていました。
元妻との間には40代になる娘が1人おり、大学1年生の孫もいます。2~3ヵ月に1回、2人に会いに行き、会話をするのが楽しみでした。
そんな川村さんは、孫との会話からマッチングアプリに興味を持ちました。直接顔を合わせずに出会うなんて時代は変わったと思いつつ、老後の孤独感もあり興味本位で登録してみたといいます。
しかし、最初の違和感はどこへやら。普通に生活していては出会えない女性と文字や写真でやりとりできることに、すっかりはまってしまいました。
そのうち、ある女性と密にやり取りをするように。50代前半だという女性は写真では40代にしか見えず、メッセージからは優しさがにじみ出ていました。
2人はアプリではなくLINEで直接やり取りするように。「今日は何を食べた」「どこへ出かけた」といった日常の報告から始まり、数ヵ月たつ頃には過去の離婚話まで共有し、すっかり女性に心を許した川村さん。
しかし、残念ながら相手は詐欺師でした。「結婚をしてあなたと暮らしたいけれど、お金が必要」「お金を簡単に増やせる投資がある」と言われ、何度かに分けて、大切な貯金から合計3,000万円を送金してしまったのです。
その後、急に音信不通になり、詐欺の疑惑が頭をよぎったといいます。しかし「彼女はそんなことをできる人じゃない。何かトラブルがあったのかも」そう考えたとのこと。それほど相手を信じ込んでいました。
しかし、1週間、2週間たっても連絡はきません。焦った川村さんは娘に相談。「いい年して情けない」と泣かれたうえ、その話をこっそり聞いていた孫にまで「馬鹿じゃないの?」と呆れられる始末です。
「警察や弁護士に相談してみましたが、ほぼ確実に詐欺だろうと言われました。こんなことで騙されて恥ずかしくて。貯金もほとんど失って、この先どうやって生きていけばいいのか」

川村さんが引っ掛かったのは、典型的なロマンス詐欺。恋愛関係になったように振る舞い、お金を奪う特殊詐欺の一種です。
偽物のプロフィール、写真、人生を作り上げるのはもちろんのこと、数ヵ月~年単位でやりとりをして信用を得るなど、詐欺師は手間を惜しみません。また、「あなただけに話す」と家庭環境や金銭的な問題を伝えて、同情を引くケースも。
密にやりとりする相手のことを、人間は疑えないもの。相手から好意を感じていたらなおさらです。その心の隙をついて、詐欺師は財産を奪いにかかるのです。
警視庁が今年2月に発表したデータ(暫定値)によれば、2024年の特殊詐欺の被害額は721.5億円(前年より269億円増)、SNS型投資・ロマンス詐欺は1,268億円(前年より812.8億円増)。合計被害額は約2,000億円と、過去最高額になったとのこと。
SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は、大阪府が1,016件、次いで兵庫県913件、東京都871件、愛知県675件、福岡県663件、神奈川県537件、広島県345件の順。大都市圏を中心に被害が広がっています。
1件当たりの被害額は1,247.9万円と非常に高額なのも特徴。億単位で被害にあうケースもあります。さらに、ロマンス詐欺の場合は恋愛感情が絡み、精神的なダメージまで負ってしまうのも辛いところです。
警視庁は、対面でのやり取りがない人からお金の話をされたり投資の話に誘導されたりしたら、特に要注意と注意喚起をしています。詐欺被害が他人事ではないと理解し、「自分だけは大丈夫」という思い込みをなくすことが大切です。
出所:令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の 認知・検挙状況等について(暫定値版)