2023年7月、札幌市・ススキノのホテルで頭部を切断された男性の遺体が発見された事件。逮捕された親子3人のうち、殺人ほう助や死体損壊ほう助などの罪に問われている父・田村修被告(61)の裁判員裁判が、2月18日に結審した。検察は懲役10年を求刑しており、判決は3月12日に言い渡される予定だ。
【写真】ライブ出演で白塗りメイク姿を披露したこともある田村修被告。自宅前に大量に積まれた謎のクーラーボックス
2月5日、6日の公判では、修被告本人への質問が検察官、裁判官から行われた。法廷で常に冷静に受け答えする修被告に、裁判長がしびれを切らしたように切り込んだ──裁判を傍聴したライターの普通氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
7月1日の事件後、車で瑠奈被告を一度家まで送り届けた修被告。その約1週間後となる7月7日、修被告は娘から遺体損壊の撮影を依頼される。切断された頭部が床に置かれ、瑠奈被告が左手で頭部を押さえながら、右手に持ったスプーンで眼球をえぐろうとする。修被告は浴室隣の洗面所からズームをしながら撮影したという。
争点の一つがペンライトの存在だ。検察側は、撮影に際して修被告が照らしていたペンライトが、瑠奈被告の損壊行為の手助けになっているのではないかと主張している。一方被告はそれまでの弁護側の質問で、「精神科医の仕事としてたまたま持っていた」、「ズームのピントを合わせるためだった」とほう助の意思を否定している。
検察官「ペンライトで瑠奈被告の手元を照らしていたのではないですか」修被告「その認識はないです」
当然、ほう助の意思はないと否定する。
検察官「じゃあ、どこを照らしていたんですか」修被告「被写体です」
損壊されている頭部のことを「被写体」と呼ぶ修被告の言葉は、やはり気になってしまう部分ではあった。
事件現場から車で帰宅する場面に戻る。家の直前で瑠奈被告は、修被告に氷を購入するように依頼する。修被告は家の近くのコンビニで2回に分けて、氷を合計8袋購入する。瑠奈被告は理由を言わないし、修被告も理由を考えもしなかったという。
瑠奈被告はその氷を、切断した首を入れたケースに入れていた。その意図を修被告が把握していたと証明したい検察官は、「帰宅後すぐ別のクラブに行くんですよね」、「午前3時ですよね」と、8袋の氷が必要であることの不自然さを質問するが、修被告は理由について特に答えない。
すると、しびれを切らしたように裁判長が質問をした。
裁判長「つまり検察官は、そのときに瑠奈被告が冷やしたいものがあると、あなたが思っていたかどうか聞いているんです。氷だから冷やすんでしょ?」
修被告は少し考えた様子の後、「もしかしたら取調べのときは、SMの後だから腫れを冷やしたいと思ったのかも」と答えた。
それまで、さほど話題に挙がらなかった氷について、裁判員、裁判官が質問を重ねる。
裁判員「氷8袋購入の件ですが、以前から氷は買っていたんですか」修被告「たくさんありました」
裁判員「8袋買うというのは」修被告「記憶にないです、2~3袋だったら」
一般から選出された裁判員にとって、氷8袋を購入する異常性に疑問を持ったのだろう。
裁判長は、それまで続けていた質問から、数秒ほど考えるようにして、頭の中で質問を整理しているように見せてから質問を再開した。
裁判長「氷を必要としていたのは、SMしていたからと思っていた?」修被告「うっすら思っていた気がする」
裁判長「車内で痛がっていたんですか」修被告「それはないです」
裁判長「過去に嫌なことされてる相手に会ってる。それで冷やさなきゃいけない事態だとしたら心配にならないの」修被告「落ち込んでる様子とかでなければ、本人が言わない限り聞かないです」
裁判長「じゃあ、なんで冷やす必要があると思う。何かされたのでは?」修被告「ムチで自分を叩いてしまったとか?」
裁判長「被害者にされたというのが選択肢にないのがおかしいんじゃないですか?」修被告「(娘の)様子から思わなかった」
裁判長「他にどんな可能性があるんですか」修被告「SMに詳しくないんで」
裁判長「わからないなら、なんでそんな発想になるんですか」
怒涛の質問が続く。いくつかの質問を挟んで、少し落ち着いたように改めて質問する。
裁判長「すごい事件ですよね。あなたは割と淡々と話しているように見え、正直感情が見えないんです。遺族が聞いていたら、(被告の反省の意は)伝わるのかと(気になる)。責任について、どう考えますか」
修被告「痛感しています。法廷では、できる限り冷静にと思っており、決して良心の呵責がないとか、口先ではないとお伝えしたいです」
あくまで裁判上の争点は、これまで明らかになった行動が、瑠奈被告の助けとなるほう助罪にあたるかである。
長く続いた公判は、3月12日の判決言い渡しで一旦の終わりを迎える。その判断に注目したい。
(了。前編から読む)
◆取材・文/普通(ライター)