組合員のための組織であるはずのJAで、「不正販売」や「自爆営業」が蔓延っている。
元「日本農業新聞」記者である著者の徹底取材により明らかになったのは、共済(保険)事業と信用(銀行)事業への依存と、職員へ課された過大なノルマの結果もたらされた「不都合な真実」だった。
JAは本当に農家の味方なのか?「農業協同組合」本来の理念や目的を忘れてしまったのではないか?
全国津々浦々に拠点を持ち、1000万人以上の組合員を抱える巨大組織の腐敗を暴いた一冊『農協の闇』より、一部抜粋・再編集してお届けする。
『農協の闇』連載第1回
2021年7月13日から17日にかけて、オンライン・メディア「マイナビ農業」で4回にわたり掲載した、「JA共済の闇」と題するシリーズ記事のことだ。
最終回の公開から1週間後、読み返そうとネットで検索したところ、なんの前触れもなくすべての記事が削除されていたのだ……。
「共済」とは、協同組合に出資している「組合員」たちが互いに掛け金を出し合って、病気や交通事故、自然災害などで、命や家財などが不測の事態に陥った場合に、そこから共済金を受け取れるサービスや仕組みをいう。いわゆる「保険」であるが、あえて「共済」と呼ぶのは「互いに助け合う」という意味を込めてのこと。
設立の目的が、株式会社と違って営利ではなく、「一人ひとりが経済的に弱い立場にある組合員の生産や生活の向上のため」とする、協同組合らしい言葉遣いである。傍点を振ったのは、本来、組合員こそが協同組合の主役であるということを覚えておいてもらいたいからだ。
日本を代表する協同組合であるJAも、独自の共済商品の企画や開発、販売をしている。JAとは、国内に数ある農業協同組合(農協)のなかでも幅広い事業を手掛ける「総合農協」のことで、一般に日本で農協といえばJAを指す。ところが、いま、そのJAがやっていることは、共済という言葉に込められた思いや願いとは、まるであべこべのことばかりなのだ。
JAは、自らの職員に過大な販売ノルマを課し、これを達成するため自分だけでなく、加入してもらった他人の掛け金まで負担する「自爆」と呼ぶ営業を強いている。第一章で詳述するが、JA職員が自爆している金額は多い人では年間350万円以上に及ぶ。年収の大半が吹き飛んでいるというすさまじさだ。
それだけではない。厳しいノルマの被害者である職員が、一方では、共済金や共済貸付金を不正に詐取する事態が横行している。そしてJAは、こうした違法性や背任が疑われる行為の存在を、反省するどころか組織ぐるみで隠蔽しているのだ。
冒頭で紹介したネット記事「JA共済の闇」は、そうした一連の不祥事を一つ一つ追及していったものだ。本書では、より詳しい実態を報告するので、ここでは割愛する。
ただ、問題はこれに留まらない。さらなる取材で、新事実が明らかになってきた。
先ほど述べたとおり、本来JAは、その出資者である組合員のための組織である。ところが実態はまったく異なる。
たとえば共済商品の販売ノルマを達成するために、主役であるはずの組合員をだまして、彼らに不利益となるような契約への切り替えや、新規の販売をしている。また、ときには高齢者や認知症患者に、半ば強引に契約させたりもしている。しかも、それが発覚して契約者やその親族との間で争いになると、事実を明るみに出すのではなく、逆に組織内でもみ消して、なかったことにしているのだ。2019年に発覚して大問題に発展した、日本郵政グループによる「かんぽの不正販売」とそっくり同じことが、JAではいまも続けられているのである。
それにしても、なぜネット記事は削除されたのか。直後にその経緯を調べると、JAグループで共済事業の「司令塔」を自称する「全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)」が、オンライン・メディアの運営会社に圧力をかけていたことが判明した。
JA共済連といえば、有村架純や浜辺美波といった有名女優を起用した広告をテレビや新聞に打っているので、名前くらいはご存じの方も多いだろう。だが、実際は知名度以上に大きな巨大組織で、その規模は業界最大手の保険会社と肩を並べる。
JA共済連は、私の連載記事が掲載されたオンライン・メディアの運営会社にも、数多くの広告を出稿していた。もし連載を削除しなければ、広告の出稿を取り止めると迫ったわけである。そして、これには、広告を出しているほかのJAグループの全国組織も同調をちらつかせたという。
この一件で思い出したのは、2011年に起きた、まったく似たような出来事だった。
『JAは本当に「農家の味方」なのか?…報道機関に圧力をかけ、不都合な真実を揉み消そうとする「JA組合長」の「ヤバすぎる実態」』へ続く。
【つづきを読む】JAは本当に「農家の味方」なのか?…報道機関に圧力をかけ、不都合な真実を揉み消そうとする「JA組合長」の「ヤバすぎる実態」