発達障害への認知度が格段に上がり、これまでの突き放されていた風潮も変わりつつある。この変化に「原因不明の生きにくさを抱えていたけれど不安が払しょくされた」、「違和感の根本が知れて、ほっとした気持ちになった」という話もよく見聞きするようになった。
発達障害の特性には個人差が大きく、年齢や環境によって変化するため一概に断定しにくいところもあるので、専門機関外での診断を鵜呑みにするもの危険だが、一方で、これまでまったく自覚がないのに、なぜか周りと違うと感じていたひとが、インターネット上にある簡易的な診断で「じつは発達障害の疑いがあった」などと分かれば、次のアクションも取りやすい。
しかし、こういったアクションができるのは、過去を振り返っての違和感を自覚できるからであって、子どもの場合はまた別だ。
特にわが子にその傾向があると言われ、親の判断材料が乏しい場合には、個性や性格の問題とみなして支援が遅れてしまうケースもあるようで、とくにグレーゾーンと呼ばれる軽度の場合は、家庭や学校の環境によっては問題が表面化しにくいとも言われている。
「長男は感情的で何かあればすぐに泣いてしまう情緒不安定なタイプ、次男はおとなしいのですが、集団行動になじめず不登校になってしまったので、情緒学級(自閉症・情緒障害特別支援学級)に通わせています。
それでも学校にいかない次男の今後について相談しないといけないのですが、支援機関とのやりとりがしんどくて…。手がかかるわけではないので、家で好きなゲームに熱中してるなら、それでもいいなのかもなと思っていたりもします」
こう話すのは、夫と小学生の子ども2人を育てる、都内在住のパート主婦、サクラさん(仮名、40代)だ。
予定外のことにすぐにパニックになる長男、何を聞いても自己主張しない次男。幼稚園内での息子たちの行動に保育士たちはサクラさんにも家庭内での様子を色々聞いてきたそうだ。
「保育園の先生たちからは『お母さん、子育て大変でしたよね?』『ご主人とは育児の会話をできていますか?』とか聞かれていて。でもそう言われると私が責められているようにも感じましたし、子育てに無関心で放置している母親に思われている気がしてじつは嫌でした」
サクラさん自身は子どもは『うるさくて元気なもの』という認識があり、周囲から言われるほど息子たちに問題があるとは思っていなかった。それどころか、それが”個性”だとすら思っていた。
「ふたりとも保育士さんたちから発達の遅れを指摘されていましたが、子どもなんだから今の段階で言うことが聞けないのは当然じゃないですか。成長していく過程で変わっていくだろうし。むしろ、なんでそんなに騒ぐ必要があるの?って。だから、保育士さんたちの話はほとんど聞き流していました。
でも、就学時健診でもまた指摘されてしまって。『今まで支援は受けてきましたか?』『お子さんの成長で違和感はありましたか?』って」
サクラさんは、違和感があればすぐに発達障害に結び付ける保育士や教員への疑問も含め、これまでの経緯や就学時健診の指摘もすべて夫に打ち明けると、「支援を受けたほうがいいね!」と即答。妻である自分の考えを受け入ないどころか、突き放された気持ちになったという。
「夫は自分の興味があることには時間をかけますが、家庭のことになると私任せなことが多いです。何に対してもイエスマンだから、一見ポジティブな印象ではあるのですが、正直何も考えずに流されるままな感じで意見を持っていないんです。
プロポーズしたのも住む家を決めたのも私から。夫から行動を起こすのを待っていたらいつになるか分かりません。息子たちの支援の件も、第三者に”言われたから”やったほうがいいと言っているだけだと思います」
子育てを手伝ってくれる気配はない。ふたりの子どもたちを支援機関へ連れて行くのも、やりとりをするものすべてサクラさんがやらなければならない状況だ。サクラさん自身は、指摘されても支援を受けることに必要性を感じてはおらず、自分の考えを押し付けて、放置する夫にもうんざりしていた。
「息子たちをみていて思ったんですが、ふたりとも友達がおらず、でも特に仲間外れにされている様子もないし、いじめられている感じもしない。いたってマイペースなんです。そういうところはじつは私もそうで…。
私も子どものときはに友達が少なく、いつも”浮いている”存在でした。でも、困っている友達には積極的に声をかけたり、ごっこ遊びを提案したり努力してきたつもりです。人の悪口も言ったこともありません。でも私から見たら、腹黒い子のほうが人気があったり、オシャレでかわいい子が目立っていて。
いわゆる彼女ら”一軍”に憧れて、私も同じようなファッション、メイク、言動を真似したことがありましたが、いつも『パクリ』と言われて反感を買っていました…。私は真似されたら嬉しいのに…と不思議だったんですけどね」
じつは、人付き合いが上手くいかない状態はいまも続いており、ご近所のママ友グループやパート先でも周囲から浮いた「なんとなくの疎外感」を感じているという。
周囲ともっと仲良くなりたいという気持ちから、ママ友やパート仲間の住まいや生活費、ご主人の職業を根掘り葉掘り聞いたのがいけなかったのかもしれないと反省の念を漏らしつつ、サクラさんはこう話す。
「誰かが何かをしたいと言い出したら、私は叶えてあげたいと思っちゃうタイプなんです。だからママ友家族との遊びにも率先して計画を立てたりしていたんですが、私に内緒でメンバーが集まっていることを最近になって知って。関係が上手くいっているとばかり思ったのですが、そうでもないんだとショックでした。
パート先でも話しかけてもよそよそしい感じです。なので仕事を回してもらっていないような気がします。作業はテキパキとできる自信があるので、『もっと効率よくできる私に任せてほしい』と不完全燃焼なんです。
なので近々今のパートはやめて、起業しようかと考えていたんです。具体的なプランはまだありませんが」
突きつけられた子どもたちの発達障害の疑いが、過去の思い出を振り返ることによって思いがけず自分に向かいとまどうサクラさん。悩みを打ち明けようにも夫もママ友もあてにならない。
しかし、しんどい環境のなかで、唯一居心地がよいと思える場所がサクラさんにはあった。それがネットの世界だ。
じつは、リアルな環境の人間関係になじめないサクラさんは居心地の良さをもとめてネットの人間関係にハマりもう30年以上が経つ。その人脈は多く、夫と出会ったきっかけもオンラインゲームだ。様々に混在するコミュニティを往来しながら、境遇が同じ人たちと交流し悩みを分かち合うことに、サクラさんは癒されてきたという。
「5年以上前からSNSの写真や動画を投稿にハマって、最近は子どもの発達に悩んでいるママたちと交流を深めています。同じような悩みを持つママ友が多いので私の投稿に共感の嵐なんです。『気持ちわかる!』と言ってもらえたり、『偉いね!』『すごいね!』と応援してくれるママさんもいて、すごく気持ちが楽になります。
でも、最近になってそんな私の平和が壊れる投稿があったんです。フォロワーさんの投稿の中に、子どもの発達障害のことを発信している人がいたんですが、その配信の続きに、子どもが発達障害の場合、その親も発達障害の可能性があると書かれていたんです」
その投稿のコメント欄には『私も似た感じです!』『わかる!』などの共感コメントであふれていました」
もしかしてと不安になったサクラさんは、ネット上にある簡易的な発達障害度のチェックしたところ、その特性がある可能性があると結果が出たそうだ。その投稿には『私も似た感じ』「わかる!、私も』といったコメント多数付いており、サクラさんも気軽な気持ちで診断結果をコメントしたそうだ。
「そうしたら『サクラさんもグレーな感じかな?って思ってた!仲間ー!』って。そのフォロワーさん、じつは同じ地域に住む、2度ほど会ったこともあるママさんなんです。だから、私もグレーと疑われていたんだって、すごくショックでした。
私はそのママさんのことを発達障害があるなんて思ったことはないのに。でもこのことを夫に話すと『落ち着きがないし、発達障害の傾向アリかもしれないね』と言われてしまって、ダブルでショックでした」
傷ついたサクラさんは、800人弱のフォロワーがいた”自分の居場所”を削除し、新たに作り直した。この件をきっかけに発達障害のことを調べると、親に発達障害の傾向があると遺伝に影響するとのネットの情報を目にしたそうだ。そこからサクラさんは自分のことを責めるようになっていく。
「私のことをリアルに知る人から発達障害と言われたことが想像以上に辛かったです。自分の子どもが発達障害と疑われたときは”個性”と受け止めることができましたが、自らのこととなったらまったく受け入れられない。むしろ私は他の人より長けている部分が多いと思っていたくらいでしたから。
ネット情報では発達障害は遺伝する可能性があると書いてありました。だから子どもたちが生きづらいのは、私が発達障害だからだと自分を責めるようにもなってしまって…」
夫にこの件を相談しても「仕方がない」と寄り添う様子はゼロ。心の拠り所がなくなり、塞ぎ込む毎日を送るようになってしまった。
誰とも繋がりを持ちたくない気持ちを抱えこみ、塞ぎこんだものの”別の島”を探しにわずか1週間でSNSを再開したそうだ。そこで出会ったのが、自己肯定感を高めるコーチングセミナーだった。
2か月のサポートで50万円と非常に高額だったが、説明を聞けば聞くほど、今の自分には必要なセミナーだと感じたという。
「今まではママといったフラットな関係のコミュニティに依存していましたが、今後は高めあえる仲間と共に時間を共有していきたいと思います。メンバーからは「あなたは発達障害ではない」と励まされて、自分が特別な人間のように思えるし気持ちが上向きになれる。正直、似たような境遇を慰めあうよりも、一段ステップが上がった気持ちです。
家族のことに向き合うのは正直億劫なので、このセミナーが自分を変えてくれると嬉しいです」
セミナー費用は独身時代の貯金と生活費の一部から捻出した。当然夫には内緒だ。
様々なメディアで取り上げられる機会が増えた発達障害事情。もしかしたら自分も…と心配になり、サクラさん同様に簡易検査をしたことがある人もいるかもしれない。
もし生きづらさを感じる場面があるならば、適切な機関に相談するのが良いだろう。しかしあまりにも敏感になりすぎて気を病んでしまったり、自らが持つ個性を失くしてしまうのは勿体ない気もする。
…つづく<「あなたが産めっていったんじゃない」「里子に出そうか」…45歳夫が絶句、妊活を嫌がる妻が出産したら「地獄」だった>では、子どもに愛情を示さない妻に悩む夫の苦悩を明かします。
【つづきを読む】「あなたが産めっていったんじゃない」「里子に出そうか」…45歳夫が絶句、妊活を嫌がる妻が出産したら「地獄」だった