讃岐うどん発祥の地であり、「うどん県」として知られる香川県で、昨年12月、入浴剤「さぬきうどんの香湯(かおりゆ)」が発売された。当初800個限定での発売予定だったが、人気が殺到。追加発注を重ねて3,000個以上を売り上げ、今季は2月をめどに一旦終売するという。「うどん出汁ソックリの匂い」と話題にもなったが、そもそも入浴剤としてその香りはどうなのか……。発案者である「道の駅 源平の里むれ」(高松市牟礼町)のスタッフに聞いた。
【写真】3000個以上を売り上げた「さぬきうどんの香湯」
うどん目当てに訪れる観光客が後を絶たない香川県では、空の玄関口である高松空港に「出汁」の出る蛇口が設置されている。それほど、うどんが身近にあるわけだがあくまでも基本は「食べる・飲む」という発想だったはず。それがいったいなぜ入浴剤に?
「近年、グッズ化されるなど多角的な展開もされている讃岐うどんですが、やはり“食べる”という体験があるからこそのものだと思っています。うどん出汁のお風呂に入るという発想は、地元としてもなかったと思っています」
こう話すのは「道の駅 源平の里むれ」のスタッフ、久保陽平さん。「さぬきうどんの香湯」の発案者その人だ。
これまで香川県の土産と言えば、ご当地ゆるキャラならぬ“ツルきゃら”「うどん脳」のグッズがあるものの、定番はうどんや出汁のセットなどだった。
「毎度のお土産に『うどん』ばかりでは……という思いもあったんです。食べる以外でうどんを体験する方法はないかと考え、ならば、自分がうどんになる、という体験はどうかと考えました」
そこから、人が入れるうどんの器を考え、その発想が湯舟へとつながり、ならば入浴剤を作ってみようと連想していった。
「源平の里むれ」を運営する指定管理者「四国にぎわいネットワーク」が、社員・パートを含めても三十数名の小ぢんまりした組織で、面白いものなら大歓迎という社風だったことも功を奏した。昨年1月に久保さんがアイデアを企画としてまとめたところ、すぐにゴーサインが出た。「やってみなはれ」ならぬ、「やってみまい」(「やってみなさい」の意の讃岐弁)精神だ。
「ゴーサインが出てから、プランの地固めをして、具体的に動き出したのは昨年7月から。道の駅で販売している出汁のうち、かけうどん風、ぶっかけうどん風と希釈度合いを変えた2種類を用意して、長野県のメーカーに再現してもらいました」
8月には試作品が届いた。昆布やかつお出汁の香りが忠実に再現され、ほぼ完成品に近い状態。これに微調整を加えた上で、9月には商品が完成した。
「メーカーさん側は、香りの強さを問題と認識していたようで、あえて一番強い香りにはせず、“切れ”が良くなるように調整していただいたようです」
出汁の色や香りを再現し、本物のような匂いが楽しめる「さぬきうどんの香湯」は、思わず、湯舟のお湯を飲んでしまいたい欲にもかられそう。だが、あくまでも入浴剤を入れたお湯で、飲むことはできない。
気になるのは入浴後の匂いだ。讃岐うどんになる体験はよいが、さっぱり爽やかな浴後ではなく、うどんくさいまま、ということはないのだろうか。
「せっかくお風呂に入ったにもかかわらず、出汁くさくてシャワーが必要となれば、意味がありません。匂いはお湯の気化とともに薄らぐような作りになっています。逆にずっと出汁の香りがしてほしいという方がいれば物足りないかもしれません(笑)」
「かけうどん風」と「ぶっかけうどん風」を合わせて800個用意した「さぬきうどんの香湯」は、昨年12月6日の発売からわずか3日で完売。急遽、追加発注を決めたが、それでも間に合わず、計4回の発注を重ねた。
「当初は最初の800個でひと冬は行けるかな、と考えていたのですが。単品(各税込み260円)でも売っていますが、お土産需要で、2個セット(“よい風呂”で税込み426円)、6個セット(“いい風呂”で税込み1,126円)などもよく売れました」
普段使いというよりは、“話のネタ”になると手に取った人が多かった。
「県外の方へのお土産需要が最も多かったです。購入者からは、『お土産のマンネリ化を防げた』『帰省先や旅先での話題づくりに役立ちそう』という声もよく聞こえました。思っていたよりも大きい反響がありと知って、お土産を渡す相手を楽しませたい、前向きな商品として楽しんでいただけたらと思うようになりました」
2月中をめどに終売を迎えるが、今後の商品についての構想はあるのか。
「販売している2種は、色と香りの濃さが違うのみで、香りの方向性は同じなので、これらを定番として残しつつ、新たな入浴剤を作りたいと考えています。まだ構想段階にすぎませんが、清涼感があってひんやりするクール系の『冷かけうどん風』や、白濁でドロッとした質感の小麦と出汁の匂いが一体化した『釜揚げうどん風』など作れないかと考えています」
「香川県を代表する商品にしたい!」と願う久保さん。どんなものが発売されるのかを心待ちにされるような商品の企画・開発を目指している。
デイリー新潮編集部