2月7日、高級住宅街で知られる兵庫県西宮市の苦楽園は、騒然とした雰囲気に包まれていた。大勢のマスコミが、閑静な住宅街を取り囲んだのだ。
兵庫県の斎藤元彦知事は、「内部告発」問題に続き、「公職選挙法違反」の疑惑が持ち上がっている。昨年10月の兵庫県知事選での当選に寄与したのはSNS展開だが、それを「運用」し「監修者」を務めていた兵庫県西宮市の株式会社merchu(折田楓社長)に強制捜査が入ったのだ。
「ガサが入った」とメディアに情報が流れたのは、7日のお昼時のことだった。斎藤知事は、知事選のSNS展開に対する費用を支払ったとして、折田氏とともに、神戸地検と兵庫県警に刑事告発されている。
公職選挙法では、ウグイス嬢などの登録された人以外には、報酬の支払いは禁じられている。斎藤知事側は、選挙運動費用収支報告書に、折田氏に71万5千円を支払っていることを記載している。これがSNS展開の報酬支払いとすれば、法に触れる可能性がある。
折田氏はnoteに《広報全般を任されていた》《「監修者」だった》とSNS展開の中心的役割を果たしたことを自ら認めているから、疑惑は深まるばかりだった。
2月7日、朝から兵庫県警と神戸地検の「様子が変だった」と地元のメディア関係者はいう。
当日10時ころから、「現代ビジネス」記者のもとにも「merchuにガサ」「慌ただしい」と相次いで、関係者からのメッセージが入ってきた。
12時ころになると、阪急苦楽園駅近くのビルに所在するmerchuのオフィスや、そこから数百メートル離れた折田氏の自宅に、続々とメディアが集まり始めた。ところが、夜になっても、神戸地検や兵庫県警の関係者は姿を見せない。
何があったのか。近隣住民に話を聞くと、「朝に警察みたいな人が出入りしていた」といい、実はとっくに強制捜査が終わっていたらしい。
「merchuの捜索は朝早くに終了した。押収したのはスマートフォンなどで、捜査員を大量動員して段ボール箱で大量に運ぶ出すようなガサじゃない。すぐに終わった」
こう語るのは捜査関係者のひとりだ。
メディアが駆け付けた時点では、すでに終了していたが、強制捜査は確かにあったのだ。
この捜査関係者が続ける。
「折田氏にはスマートフォン、パソコンなど選挙で使用したものを出すように言ってきた。実際、具体的な数点の証拠提供をこれまで何度も依頼してきたが拒否された。そこで今回の強制捜査に至った。」
斎藤知事と折田氏を刑事告発しているのは、神戸学院大学の上脇博之教授と元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士の2人。すでに、告発状は受理されている。
「告発状は神戸地検と兵庫県警に提出し、どちらも受理されている。今回、強制捜査でスマートフォンなどを押収とニュースで見ました。71万5千円の支払いはSNS展開ものとしか考えられない。捜査は確実に進んでいると思います」
上脇教授はそう話す。
斎藤知事やその弁護士は、折田氏側への支払いについて
「ポスターのデザインなどで、SNS展開は関係ない」
「公職選挙法違反ではない」
と否定している。一方で、捜査はかなり進展している模様だ。先の捜査関係者によれば、折田氏は複数回の事情聴取には応じているという。
「折田氏の供述? うーん、報酬がSNS展開に対するものだったということは一定程度、認めている。選挙ポスターのデザインなんて印刷業者がやって、それは公費で支払われるのが当たり前ですから、説明がつかない。そういう点では折田氏は『落ちている』と言ってもいいのかな。
ただ強制捜査までしたスマートフォンなどは何度、任意提出をと言っても出さなかった。よほど何か(隠したいことでも)あるのかと、強制捜査になりました」
そう、折田氏は供述ベースでは「落ちた」──SNS展開の報酬だと認めているというのだ。ところが、それだけですぐに立件できない事情があるという。
「斎藤知事の選挙には、けっこういろいろな人が絡んでいるので、調べる範囲がかなり広い。中でも鍵になる人物が、広報をとりまとめていたX氏をはじめ、複数名います。
選挙戦で、斎藤知事はこの広報責任者・X氏にかなりの部分を任せっきりにしていた。そのため、斎藤知事がSNS展開の報酬をどう認識していたかが焦点になる。LINEやメールなどの重要な証拠が、スマートフォン、パソコンに眠っているはずです。
ただ、わかっている金額が71万5千円と高額とは言えない。また斎藤知事の関与もグレーゾーンなので、折田氏が落ちたとしても捜査の行方はなんともね…」(捜査関係者)
斎藤陣営のX氏は、選挙中、
《昨日の会議内容 SNS監修はメルチュさんにお願いする形になりました》
というLINEを送っている。
斎藤陣営の関係者はこう語る。
「これをみて、SNS展開はmerchuの折田さんがやるんだと思った。折田さんの会社は県の仕事もしていますから、メリットも大きいのでしょう。
SNS展開のことがいろいろ言われているが、私が聞いているところでは、折田さんがnoteに出した内容はほぼ正確で、本当のことを書きすぎてX氏から指摘を受け、あわてて修正したそうです」
強制捜査の日、merchuや自宅を取り囲む、メディアの前に折田氏は姿をみせなかった。事情聴取に応じているということは、日本国内にいることだけは確かだ。
強制捜査後、取材に応じた斎藤知事は
「公職選挙法になるようなことはありません」
と型どおりのコメントに終始した。上脇教授は言う。
「強制捜査は、裁判所の許可が必要です。裁判所も、SNS展開で使われたであろうスマートフォンを重要視しているのだと思います。捜査をする神戸地検、兵庫県警だけではなく、裁判所までがガサの必要性を認める許可状を出したという点に注目をしています」
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