〈「処女を5000万円で売られそうに」「混浴で妊娠させられた子も…」京都の元舞妓(25)が明かす、“花街の闇”を告発した理由〉から続く
京都の舞妓は未成年飲酒やセクハラに晒されているーー。2022年6月、Twitter(現X)につづられた一つの投稿が大きな波紋を呼んだ。花街の“闇”を告発したのは京都の元舞妓、桐貴清羽(きりたかきよは)さん(25)。あれから2年半、桐貴さんはいま、何を思うのか。話を聞いた。(全2回の2回目/はじめから読む)
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桐貴清羽さん 細田忠/文藝春秋
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――告発から2年半以上が経ちましたが、その後、花街では未成年の飲酒やセクハラといった問題は改善されたのでしょうか。
桐貴 私が花街の関係者に聞いた話では、お座敷風景は何も変わっていないそうです。18歳未満の10時以降の深夜労働は法律で禁じられているので、門限に関しては厳しくなったようですが、飲酒やセクハラは変わらず横行していると。花街はそう簡単には変わらないと思っていたので、驚きはありません。
――舞妓さんたちは桐貴さんの告発をどう捉えたのでしょう。
桐貴 舞妓さんが携帯電話を持つことを禁止している置屋も多いので、私の告発を見られなかった子も多かったようです。でも見ることができた子からは、「おかしいと思っていたのは私だけじゃなかった。姉さんのおかげで心が楽になった」と言ってもらえて、嬉しかったですね。
舞妓は「真っ白なスポンジ」であることを求められます。何にも疑問を抱かず、すべてを吸収して、男性の求める色に染まりなさい、という意味です。だから疑問を抱いても、誰にも相談できないし、自分の意見に自信を持てない。そんな子たちが、私の投稿を見て、初めて自分の考えを肯定できたのだと。それがきっかけとなったのか、最近は舞妓を辞めていく子が増えているようです。
――怪しげな勧誘に思えますが、10代の女の子なら興味を抱いてもおかしくないですね。
桐貴 映画や漫画などさまざまなフィクション作品の影響から、アイドルを目指すのと同じ感覚で「舞妓になりたい」という子も多いようです。憧れる気持ち自体は否定しませんが、実情を知らずに舞妓になって、望まない性的な接待を強いられる女の子にはこれ以上増えてほしくないと思います。
――桐貴さんの告発と時同じくして、ここ数年は芸能界を中心に女性の性被害の告発が相次いでいます。最近も芸能人に対する女性タレントや女子アナウンサーの「上納」や「性接待」が明るみになりましたが、この問題をどうご覧になっていますか。
桐貴 この数年でたくさんの告発があったことで、性暴力について深い議論がされている状況は、大きな前進だと感じています。私が22年に声を上げたのは、何かを変えるためというよりも、「これは嫌だった」とか「これは良くないんじゃないか」という正直な気持ちを発言しやすい空気を作りたいという思いがあったからでした。
舞妓だけでなく、どんな業界や会社でも女性が虐げられている現実があるのに、見て見ぬふりをされてきた。私は幼い頃にジュニアアイドルとして活動した時期もあったので、芸能界でも同じようなことがあるのは分かっていましたし……。
――舞妓時代にも、そうした芸能界の闇を感じることはありましたか?
桐貴 ありました。テレビで見る俳優さんやアイドルもよくお座敷に来ていましたが、私はあまり芸能人のお座敷にはつきたくなかったですね。全員ではないですが、セクハラが多いので……。自分がどんな作品に出て、いかに有名かを語って、「こんな有名な俺に触ってもらえるって嬉しいだろう」「オレと1晩過ごせるって嬉しいだろう」とでも言いたげに、身体を触ってくるんです。舞妓を遊女と勘違いして、「部屋に布団と枕が2つ隣合わせで用意されてるんでしょ」とあからさまに性行為を期待している方もいました。
――花街の中なら、外にバレる心配もない。
桐貴 もちろんです。外に漏らせば総叩きにあって、仕事ができなくなることが目に見えていますから。芸能界の性加害問題でも、女性はその世界で生きていけなくなる覚悟で告白しているのに、SNSなどでは「売名だ」とか、「ハニートラップ」と誹謗中傷を受けるケースが少なくないですよね。私も最初の投稿に「この世から抹消されるかも」と書きましたが、実際に告発からしばらくして、「殺してやる」と殺害予告が届きました。ちょうど、第二子を妊娠中のことだったので、怖かったですね。本当に殺されるんじゃないかって……。
――その時、活動を辞めようとは思わなかったのですか?
桐貴 思いました。でも、子どもたちのことを考えたら、ここでくじけちゃダメだって思って。芸能界の「性接待」と同じように、舞妓の世界の「性接待」も、未来の子どもたちのためになくしていかなくてはならない。それで昨年9月、国連に舞妓の人権侵害を訴える報告書を提出しました。今は来年の国連・子どもの権利委員会に向けて、この問題を知ってもらうよう活動しているところです。
――告発をしたことで、桐貴さん自身の内面に変化はありましたか。
桐貴 自分らしく生きるきっかけになりました。舞妓時代のことを隠して生きている時は、本当に孤独でした。元舞妓であることを「すごいね、素敵だね」と褒められても、アルコール漬けだったことや、セクハラをされてきたことは言えないからじっと黙っている……。その沈黙が一番、つらいんです。
「自分らしく」とか「等身大で」という言葉がありますが、隠しごとがある状態では、自分らしく、等身大で生きることなんてできないんですよね。告発して皆さんに話を聞いてもらい、「あなたは間違っていない」と言ってもらえたら、心が軽くなって。ようやく自分の意見や感情に自信を持てるようになりました。誹謗中傷は今も届きますが、私の事を知らない人から何を言われても、気持ちは揺らぎません。
――告発直後にお話を伺った時は、「辞めて何年経っても舞妓時代の悪夢を見る。舞妓の呪縛がなかなか解けず、自信が持てない」とお話しされていました。今はどうでしょうか。
桐貴 まだ悪夢を見ることはありますが、今は半年に1回くらいに減りました。舞妓時代は女子アナスタイルと呼ばれる清楚系の服しか着られなかったのが、今ではいろいろなファッションを楽しむことをできるようになりました。「はしたない」と言われて絶対に履かせてもらえなかったミニスカートに挑戦したり……。
――まさに再出発ですね。
桐貴 そうですね。実は私、二女が生まれた6カ月後に離婚してシングルマザーになりました。これまでは20ほど年齢が離れた夫に尽くすことが当たり前だと思っていたのですが、告発を機にフェミニズムについて学ぶうちに、「このままの夫婦関係でいいのだろうか?」と思うようになってしまって。慌ただしい毎日ですが、子どもとの時間も大切にしつつ、今後も舞妓問題について発信していきたいと思っています。
――お話を伺った感じだと、舞妓さんについてはまだ知られていないことがたくさんありそうです。
桐貴 舞妓問題は1995年に祇園の元舞妓さんが暴行や監視といった実態を告発し、その内容が『舞妓の反乱』という本にまとめられています。私も今回、コミックエッセイ(『京都花街はこの世の地獄~元舞妓が語る古都の闇~』竹書房)という形で、自分の体験を本に残せたことを嬉しく思います。これを読んで、第三、第四の告発者が出てくれれば、また舞妓問題に注目が集まる日が来るかもしれません。
――そうですね。ちょっと気になったのですが……。この本、京都の書店には置けるのでしょうか?
桐貴 置けないでしょうね(笑)。ちなみに私は告発後から今に至るまで、怖くて一度も京都に足を踏み入れていません。告発した直後はさまざまな媒体からインタビュー依頼が来る中で、直前になって「圧力がかかってしまって」とキャンセルになったこともありました。だから刊行できただけでも奇跡だと思っています。漫画にできていないネタはまだたくさんあって、連載も続きますのでよろしくお願いします。
撮影=細田忠/文藝春秋
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(「週刊文春」編集部/週刊文春)