東京都内のマーケティング会社に勤める女性(30)は、午前8時に出社する。退勤時間は午後10時を過ぎることも多く、忙しい日々を過ごしている。そんな中、ふと、思うことがある。
少子化が進む中、経済的な問題、不妊症など「子どもを産みたくても産めない」女性たちがいる一方、様々な経緯で「子どもを産まない」ことを選んだ女性たちもいる。女性たちの声に耳を傾けると、「産む性」を求められる女性たちの苦悩が見えてきた。(テレビ朝日デジタルニュース部 笠井理沙)
この女性が働き始めたのは8年前。以来、営業としてキャリアを積み重ねてきた。忙しく過ぎる毎日だが「経験を重ねたいし、仕事が楽しい」と話す。
3年前に結婚した。夫と過ごす時間が楽しく、2人の生活に満足している。しかし、職場や営業先などで、年上の男性から「そろそろ子どもだね」と言われることが多々ある。「受け流している」と話す女性だが、「子どもを産むこと」に悩みがないわけではない。
とはいえ、年を重ねるとともに妊娠する確率が低くなること、妊娠したいと思っても難しい場合があることは知っている。30歳を過ぎ、焦りも感じているが、女性は出産や育児で、仕事を離れることへの不安の方が大きいと感じている。
周囲には、子育てと仕事を両立させている女性たちもいる。しかし、女性は「両方手に入れてうまくできるほど、器用ではない」と感じているという。
両親は、女性が幼いころに離婚した。父と、父方の祖父母と一緒に暮らしてきた。その経験が、子どもを育てることへの不安につながっているという。
女性は、同世代の女性の友人と「子どもを産むこと」についてよく話をするという。友人たちとも、子どもを育てることの難しさを共有している。
女性の夫は、女性の「仕事をしたい」という思いを尊重してくれている。夫と2人で過ごす人生も楽しめると感じているが、「子どもがいない将来」に寂しさや不安はある。それでも女性は、「子どもは産まないかもしれない」という思いを強くしている。そして、同じ思いを持っている女性は少なくないと感じている。
実際、「子どもを産まない」女性たちは増えてきている。OECD(経済協力開発機構)のまとめによると、生涯子どもがいない女性の割合について、日本は1955年生まれの女性が12%なのに対し、1975年生まれの女性では28%だった。加盟国38カ国の中で最も高くなった。
国内の少子化は年々進み、2023年の「合計特殊出生率」(1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数)は1.20と統計開始以降最も低く、東京都では1を切っている。そんな中、「子どもを産まない」ことは「口に出しにくいこと」になっているという。
そう話すのは、ライターの若林理央(40)さんだ。若林さん自身も「産まない」ことを選んだ一人だ。子どものころから「仕事に打ち込みたい」「子どもは産まない」と思っていた若林さん。33歳の時に排卵障害の診断を受け、子どもを望むならば不妊治療が必要だと分かったとき「子どもを産むこと」について、改めて考えたという。
「産まない」ことを選んだ若林さんは、周囲から向けられる目に度々苦しんできた。
そんな思いを抱いていたころ、友人や仕事仲間に同じ思いを持った人がいることに気がつき、考え方が変わったという。
若林さんは、著書「母にはなれないかもしれない 産まない女のシスターフッド」(旬報社)で、「子どもを産まない」ことを選んだ女性たちのインタビューをまとめた。
不妊治療を経て「産まない」人生を歩んでいる女性や、子どもを産んだが「時間を戻せるなら産まない」と語る女性の声も紹介している。「子どもを産まない」ことに集まりがちな批判や、「産む・産まない」で女性たちが分断されてしまうことに、若林さんは強い危機感を抱いている。
聞こえてきた「産まない」女性たちの声。「産む性」を持つゆえに、女性たちが思い悩む現状が見えてきた。しかし、どんな生き方を選ぼうと、それは女性たちの自由であり、権利だ。少子化が進む中、女性たちが罪悪感や孤独感を抱くことがないような社会の空気づくりが求められている。