中居正広さんの女性とのトラブルにフジテレビの社員が関与していたという疑いが週刊誌報道によって指摘された。その真偽は第三者委員会の調査・報告を待つことになるが、報道をきっかけとして、テレビ業界で働くアナウンサーやスタッフから、意に沿わない思いをしたという声が出始めている。
もちろんテレビ業界に限らず、「仕事の飲み会」で嫌な目にあった経験は、程度の差はあっても、少なくない人がしてきたに違いない。アナウンサーによる映像制作会社を経営する高橋絵理さんも、かつてフリーアナウンサーとして起用された仕事の宿泊先で「部屋で飲まないか」と誘われた経験があるという。
一方で、高橋さんは、今回の問題が起きたことで飲み会を禁止したり、飲み会にアナウンサーだけ連れていくのをやめたりすることは「違うのではないか」と疑問を示す。「接待」の場でアナウンサーが求められてきたこと自体は悪くないと考えているというのだ。
ただ、キャスティング権を持つ「経営側」に立った今では、見える景色も大きく変わってきた。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
–一連の報道をどのように受け止めましたか
私はテレビ局のアナウンサー経験はないので、フリーアナウンサーとしての経歴を踏まえた体験を語ることになりますが、放送業界は飲み会がすごく多く、その席に女性アナが呼ばれるのはよくあるシチュエーションです。
映像の仕事には多くの人が関わっています。クライアントや広告代理店、アナウンサー、演者、技術者など、さまざまなメンバーで飲み会を開くことはよくあります。
報道で「性接待」や「献上」「上納」などの言葉が出てきて驚きました。女性アナや演者が飲み会の席に行くと、クライアントから喜ばれます。アナウンサーはコミュニケーションがとれて、気配りもできる人が多いので、飲み会を盛り上げる役としては適任だと思います。
私自身もフリーアナウンサーとして、そのような役割を与えられて飲みの席に行くことを理解していましたし、何より私がそれを楽しく感じて飲み会に参加していたように思います。
チームのみんなで楽しく「いい番組ができた」「みんなでまた次もいい仕事をしようね」と振り返る時間はすごく楽しかったです。接待をさせられているような感覚ではありませんでした。
そのような飲み会を「性接待」という言葉で表現するなら、「性接待」はあると思いますし、私もそういう「性接待」をしてきた側になります。
とはいえ、これは私が関わってきた狭い世界の話なので、断りたいのに強制的に飲み会に参加させられた経験のある人がいるかもしれません。
「飲み会に来ないと次の仕事がない」「ポジションを奪う」
そのような言葉で半ば脅して誘うような飲み会もあるのかもしれませんが、私は経験がありません。
テレビに出ているアナウンサーがみんなそのような経験をしていると思われる人が多いかもしれませんが、必ずしもそうじゃないということをお伝えしたいです。
–危険な目にあったことはありませんでしたか
アナウンサーの仕事には地方ロケもあります。宿泊を伴う仕事になると、メンバーやクライアントとみんなで仕事の後に集合してお食事に行くこともよくありました。
ある意味で、みんなでご飯を食べるまでが地方ロケの仕事だと感じていたかもしれません。そこから2次会、3次会と行くこともよくあって、すごく楽しい思い出です。
ただ、宿泊を伴う地方の撮影では、部屋は別でもスタッフが同じホテルに泊まることもあります。飲み会が終わった後に、偉い立場の男性とエレベーターに一緒に乗って、「高橋、この後、部屋で飲み直さないか」と誘われたこともありました。
身の危険を感じて「お部屋でまだ飲まれるんですか。飲み過ぎ注意ですよ。おやすみなさい」と誤魔化してその場から逃げました。
誰かが仕向けてそのような状況になったわけでもなく、たまたまその人が私を誘ったという話ですので、私が陥れられそうになったという状況ではなかったんですけれども、事実として誘われて逃げた経験はあります。
これは女性アナウンサーだからというより、お酒を飲んでくだけた状態でいるときに誘われることは、業界や職種を問わずあることだと思っていて、「女性アナだから誘われた」とは思っていません。
–誘いを断れないような立場のアナウンサーもいるでしょうか
そうですね。嫌だけど断れない状況に置かれてしまう女性もいると思います。
女性が傷つくようなことをした相手が悪いのは間違いありません。
すごく偉い立場の相手に誘われて断れなかった、正常な判断ができなくなるまでお酒を飲まされていた、薬を盛られていたとか、いろんなパターンが考えられます。断れなかった人が悪くて、その自己責任を指摘するのは違うと思います。同意のない中で無理やり嫌なことをするのは犯罪です。
これは女性に限らず、男性が被害者になることもあり、性別は関係ありません。断りづらい環境で無理やりそういうふうになっちゃったっていう方もいるんじゃないかなとは思いますね。
とはいえ、「画面に出ているアナウンサーはみんな接待をさせられてきた」「飲み会に行くだけじゃなくて、その後部屋に入って性的な行為をされてきた」「枕営業をしてきた」などと世間に思われるのはすごく残念ですし、女性アナウンサーが偏見の目に晒されるのはつらいことです。
–アナウンサーの側にはこれまで「仕事と飲み会の場はセット」という意識はあるのでしょうか
あると思います。私自身は会に参加してコミュニケーションをとって、また次の仕事を取りに行くってことを今までたくさんしてきましたし、そこも含めて仕事だと思ってやってきました。同じような認識のアナウンサーもいると思います。もちろん、そうじゃない人もいるでしょう。
日本社会は極端なところがあるので「このような問題が起きたからアナウンサーや演者は飲み会に呼ばないようにしよう。仕事の飲み会は禁止にしよう」ということをやりがちじゃないですか。
実際に、テレビ関係者と話していても、騒ぎがおさまるまでは「飲み会禁止」の空気になりつつあるようです。
でも、それはちょっと違うんじゃないでしょうか。番組は大きなチームで作るので、節度を持った飲み会であれば、いい作品作りをする上ですごく重要なことです。テレビ業界に関係なく、当たり前の話ですが、きちんと節度を持ってやっていくことが求められます。
テレビ業界だけじゃなくて、どんな業種でも強い立場にある人が無理やり飲み会に誘って、あるいは断れない状況で性的なことを求めるのは絶対にやっちゃいけないことです。テレビ業界も世の中も変わっていかないといけないタイミングだと思います。
–経営者側の立場になって考えは変わりましたか
予算の権限もありますし、キャスティングの権限もあります。非常に強い立場にあることを意識するようになったので、私が演者を含めて飲み会を開くときには気をつけて声をかけるようにしています。
参加を強制することはないし、来なかった人に次の仕事の声をかけないといった意地悪もしません。
たとえば懇親会など「会社の飲み会」を開くにしても、私の会社のスタッフたちだけで飲む場合には、昼間の業務時間でやるようにしています。
–接待もそうですが、アナウンサーに求められるロールモデルまで変わる必要はあるでしょうか
外国ではニュースアンカーという呼ばれ方をされ、日本の「女子アナ」「女性アナウンサー」というカテゴリ自体が独特のものと感じています。
かわいくて、清楚で、画面の華として出演する役割は、ある意味で二歩下がって男性を立てる昔ながらの理想の女性像を具現化したものです。その理想の形を詰め込んだのが、女性アナウンサーという人物像だと思います。
それが必ずしもダメなのかというと、そんなことはありません。そういう女性像もあっていいですし、日本独特の文化として否定しなくても別にいいとは思うんですね。
ただ、それを強要したり、その方向に当てはめようとするのは違うと思っていて、あくまで本人の意向は重要です。
アナウンサー自身がそのような売り方は嫌だと言ったときに、制作側の人間は表現の方法の変更を提案することも求められるし、アナウンサー・演者が制作陣に対してきちっと発言ができる環境は整えていかなければいけないと思います。
日本はジェンダーの指数も世界のランクで下のほうにあるので、女性アナウンサーに求める像をガラッと一気に変えるのは難しいとは思いつつ、まずは、いろんな女性アナウンサーがいて良いと思います。
まだまだ「女性アナウンサー」「女子アナ」を1つのカテゴリーに当てはめて、画一的な見せ方を求める風潮を感じるので、もっと自由でいい気がします。
–結局のところ、「番組作り」において飲み会は必要だと思いますか
私は必要だと思いますね。飲み会でチームの距離が縮んで、よりいいものができることはあるし、飲み会が「悪」ではありません。
ただ、強要したり、部屋に入って接待しろ、2人きりで接待しろと迫ったりすることがあってはいけません。また、アナウンサーや演者を飲み会に呼んだ場合、責任者は「その後のことは個人の問題だから知らない」という態度は絶対にあってはいけません。
演者とクライアントを同席させる飲み会を開いたなら、解散まで責任を持たないといけません。
ただ、飲み会が解散した後で、2人の意思で、2人きりになって、そのようなことになるのであれば、それはもう業務とは違う、個人間における出来事になると思っています。
【プロフィール】高橋 絵理(たかはし えり)。大学卒業後、2012年から東京の事務所に所属し、フリーアナウンサーとして活動。2015年7月にアナウンサーが撮影から出演、編集までを行う映像制作会社、株式会社カタルチアを設立。約200人のアナウンサーやカメラマンなどを束ねる。映像制作を軸に、企業のPR戦略を支える。