兵庫県宝塚市は今月3日、市内に住む岡本光一さん(77)・明美さんという夫妻から254億円の寄付を受けたと発表した。市の一般会計当初予算の約3割にも相当する高額な寄付金を、ポンと差し出した二人はいったい何者なのだろう。
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【写真を見る】夫妻が立ち上げた財団法人「プラザ・コム」
宝塚市によれば254億円のうち、250億円は市立病院の建て替えに、4億円は医療機器の購入に充てられるという。
「岡本さん夫妻は、市が病院の建て替え費用の確保に困っているのを知り、寄付を決めたといいます。市民からは喜びの声が上がっていますが、金額があまりに多過ぎて、きつねにつままれたような反応があるのも事実ですね」(県政担当記者)
夫妻は今月3日の記者会見に市の担当者と共に姿を現した。もっとも、光一さんは“安心できる病院を造ってほしい”と語った程度で、個別の取材を受けるつもりはないそうだ。
「実は光一さん、日本有数の高年収企業として知られる電子機器メーカー『キーエンス』が設立された当初に参画したメンバーの一人なんです」
と、県政記者が続ける。
「立命館大学の理工学部を卒業した彼は、電子工学の技術者としてセンサーの開発に携わり、キーエンスの発展に寄与しました。ナンバー2の常務取締役まで出世しましたが、1994年に早期リタイア。その翌年に阪神淡路大震災が起き、日曜大工などのボランティアを経験したことで社会貢献に目覚めたそうです」
夫妻は99年にも36億円の私財を投じ、ボランティアや福祉活動を支援する財団法人「プラザ・コム」を宝塚市で立ち上げ、これまで運営してきた。
「キーエンスの有価証券報告書を見ると、2016年に提出された第47期まで光一さんの名が大株主の欄に記されています。その株式数に当時の株価をかけ合わせると、526億円になる。莫大な創業者利益を惜しみなく世のために使ってきたのでしょう」(同)
光一さんの大学時代の同級生はこう言う。
「岡本はおとなしくて、部活や遊びなどで目立つ存在ではなかった。地道に勉強に励み、授業が終わればササッと宝塚方面の実家に帰っていましたね。成功してからも昔と変わらないままです。飲むのは地元の居酒屋で、マイカーも地味な国産車。奥さんはキーエンスが設立された当初の事務員で、職場結婚でした」
以前、夫がプラザ・コムで理事を務めていたという女性によれば、
「私たち夫婦は30年近く前、岡本さんご夫妻と知り合いました。互いにビアデッドコリーという犬を飼っていたことがきっかけで、交流が始まったのです。ほどなくしてウチの主人がプラザ・コムの理事に誘われ、お手伝いをする流れになりました。光一さんは事あるごとに、数万~数十万円かかる財団の経費をポケットマネーで支払っていたそうです」
この女性は、岡本夫妻がキーエンスにいたことを知らなかったという。
「二人とも進んで自分たちの話をするタイプではないんです。“株で資産を得た”という話は聞きましたが、どんなお仕事をしていらっしゃったのかは存じ上げません。ワンちゃんの写真を見せてもらった時、たまたま背景にご自宅らしき豪邸が写り込んでいましたが、本人たちに暮らしぶりをひけらかすところは全くありませんでした」
そんな岡本夫妻には子どもがいなかったようで、
「寄付を重ねてこられた背景には、そうした家庭の事情もあったのかもしれません。二人は仲むつまじく、そろって穏やかな性格の素敵なご夫妻ですよ」(同)
本物の篤志家とは、かくも奥ゆかしき人たちのことを言うのだろう。
「週刊新潮」2025年2月20日号 掲載