「理想の夫」は大嘘つきの性依存症だった――。
【マンガ】『それでも家族を続けますか? 難病児のワンオペ中に、夫が520人と不倫してました』を読む
友人の紹介で知り合った男性と結婚した、くさのねむさん。優しく穏やかだと思っていた夫は、残業ばかりでくさのさんの出産時にも連絡が取れず、生活費も入れなくなっていったという。
さらに、生まれてきた我が子は世界で30人以下しかいない希少性疾患を持っていた。くさのさんは夫を信じて貯金を切り崩しながらワンオペ育児を続けていたが、ある時、彼のカバンから見覚えのないコンドームと精力剤を発見してしまう。
夫を信じていたのに……仕事用カバンから出てきたのは、見覚えのないコンドームと精力剤だった 『それでも家族を続けますか? 難病児のワンオペ中に、夫が520人と不倫してました』より
くさのさんが問い詰めると、夫の性依存症が発覚。夫が関係した人数は、なんと520人にも上るという――。
これは全て、くさのさん自身がSNSで発信し続けている実体験だ。くさのさんのアカウントには多くの反響が寄せられ、2025年1月28日にはコミック『それでも家族を続けますか? 難病児のワンオペ中に、夫が520人と不倫してました』(KADOKAWA、漫画:あらいぴろよ)として書籍化され、さらに話題を呼んでいる。
ここでは、くさのさん本人に夫の不倫が発覚したときの思いや一番許せないこと、SNSでの反響の大きさや書籍化についてなどを詳しく伺った。
◆◆◆
――SNS投稿やコミックで描かれた、くさのさんの実体験はとても衝撃的でした。最初はとても良い人だと思っていた夫さんに、違和感を感じ始めたのはどんなときでしょうか。
くさのねむ(以下、くさの) 夫は本当にいつでも感情がフラットで、愚痴ひとつ言わない落ち着いた人でした。
一緒に暮らすうち、早朝から深夜まで働く激務っぷりにもかかわらず、疲れたりイライラする様子がないのでおかしいと感じ始めました。
何度か「どうしてそんなに忙しいのにいつも冷静なの? ストレスがたまらない?」と聞いたら「そうでしょ、偉いでしょ」と答えたので、それを発散する方法はあるんだろうけど、その方法に全く見当がつかないので、何か裏があるのだと思いました。
――なるほど。その時はまだ「疑い」レベルだったのが、スマホの怪しい通知やカバンに入っていたコンドームと精力剤を発見して、確信に変わってしまったんですね。大勢の女性たちとの不倫が発覚したときは、どんなお気持ちでしたか。
くさの 結婚の決め手のひとつに、夫は「女性とのコミュニケーションが苦手」に見えたこともありました。真面目で奥手なら、絶対浮気はしないだろうと。
これは結局、女性とちゃんとした関係性を築くという段階を、金を出してすっ飛ばしていたからコミュニケーションが身についていなかった、ということだったんですけど……。夫の中に「女性を金で買う」という選択肢があることを想像もしていなかったので、本当に驚き「まさかこの人が」と思いました。
――夫が女性相手に値段交渉しているLINEを見てしまった……というのも驚きました。しかも520人ですもんね。相当、耐えがたかったのではないかと思います。
くさの 夫の不倫が発覚する3ヶ月前に、子供が治療法のない希少疾患だと告知されてどん底に落とされたのですが、これより最悪なことがあるのかと。さらに絶望することになるとは、思いもよりませんでした。
息子の病気は悲しかったけどしかたがないと思えました。でも、夫は自分の意思で家族を裏切っている。その事実に対して激しい怒りが湧きました。その晩は本気で「こんなことが起きている人生の延長線上を生きるのは嫌だ、死んで終わらせよう」と思いました。そのまま死んでいたら最強の怨霊になっていたと思います。
――生きていてくださって本当によかったです。そのほかにも、夫さんからの信じられない仕打ちがたくさん描かれていますが、一番許せないことはなんでしょうか。
くさの どれも死んでも許さないし、化けて出るつもりですが、子供が発熱で亡くなる可能性の高い基礎疾患を持っているとわかった後も、新型コロナ感染症が流行るなかで女性を買ったり会ったりするのをやめていなかったことです。後でわかったことですが、女性からコロナをうつされていたこともあったようです。
守るべき自分の子の命を父親自らが危険に晒し続けていたことが、はらわた煮え繰りかえるほど許せません。それによって、子供が信頼し合う家庭で育つことができなくなったこともです。
――そんな辛い体験をSNSで発信しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
くさの 夫の凄まじい性依存症、子供の超希少疾患と自分に起きていることが大きすぎて1人では抱えられないと思ったからです。
ちょっとしたことなら友人に「聞いてよ! こんなことがあったんだよ!」と話をして発散させることも多いですが、身近な人に話すには重い内容だったので、SNSで不特定多数の知らない人に向けて発信することで、気持ちを整理できるのではないかと思いました。
漫画を見てくださった方はどう感じるのか、どのような意見を持たれるのかを知り、出来事を多角的に見られるようになって少しでも解決や癒しにつながらないか、という期待もありました。
――ご自身のためでもあったんですね。
くさの 漫画にすることによって、自分と出来事の間に少し距離を置きたいというか……。ただダメージを受けているだけではなく何か形にして、自分の中から取り出したいという感覚があったからです。
あとは、夫は本性を知られるのを嫌がっていたので、ならばやってやろうという嫌がらせでもあります。
――復讐でもあると。実際、公開してみて反響はどうでしたか?
くさの 公開し始めた時は読んでくださる方も多くなくて、元々のフォロワーさんからの応援や「驚いた」という反応をいただいていました。それがだんだんと多くの人に見てもらえるようになるにつれて、同じようにパートナーにひどい裏切りをされた方からの声が多く届くようになりました。
中には私と同じく相手が依存症の方や、別の角度でさらにヘビーな事情を抱える方、既に離婚された方も今まさに発覚したてという方もいらっしゃいました。
子供についてや家族としての付き合い方について、同じ悩みを持っている方がたくさんいると知って、励まし合い、時にアドバイスを受けながら描き続ける力をいただいています。
――そのようにSNSで公開されていた実体験が、あらいぴろよさんに新たに描きおろされる形で書籍化しました。ご自身の体験を客観的に読んでみて、いかがでしたか?
くさの 本を手に、これが私に起こったことなのか……と改めて信じられない思いで読みました。強烈なフィクションみたいですよね。
自身で描いていた頃は、あまりのことにこれ以上傷つきすぎないよう怒りを全開にしていて、他の感情や自分を労る気持ちはゼロでした。少し時間が経って、冷静に起きたこととその時の思いを見つめ直すことができて。
さらに、内省をマンガにしたら右に出るものがいないあらい先生のお力もあって、より丁寧でリアルなマンガになりました。何度も「あらい先生、あの時どこかから見てたの?」と思うところがあって驚きました。
――特にどのシーンが心に残りましたか?
くさの 発覚後に夫を問い詰めるシーンです。私の感情のジェットコースターっぷりと夫のとんちんかんっぷりが、追体験するようなテンポで描かれていて、読んでいて当時の動悸を思い出します。
あと、夫が何を考えているかわからない表情が本当に本人そっくりでひとつひとつに腹が立ちます(笑)。
――すごく迫力のあるタッチですよね。表情に注目してもう一度読み返したくなりました。最後に、これからコミックを読む人に向けてメッセージをお願いします。
くさの 自分でも信じられないような話なので、読んでいる間は悩みから離れられるエンタメになっていてくれたらと思っていますが、特にいま渦中にいて決断ができない方、進んでいる方向が合っているのかわからない方に、ラストを読んでほしいです。
この経験をSNSに投稿し始めたのは、夫の性依存症が発覚してから1年後、まだ過去はかさぶたにならず、未来も想像できないなかでのことでした。よく読む漫画の終わりはキレイでスカッとできるのに、現実はそうすっきりしない。キッパリ決めたり、パッと未来が明るく見えるわけでもない。もがきなら今できることを淡々とこなす自分のリアルを描いています。
そんな等身大の姿を見て、エールになったり、「自分はこれでは嫌だ」と思ったりしていただけたらと思います。
〈真面目で奥手、性欲は薄め「こりゃ絶対浮気しないわ」と思っていたのに…結婚後にわかった“理想の夫”のウラの顔〉へ続く
(「文春オンライン」編集部)