2023年7月、札幌・繁華街ススキノのホテルで男性会社員・Aさん(62=当時)が殺害された事件。逮捕・起訴された親子3人のうち、父・田村修被告(61)の第10回公判が2月18日に札幌地裁で開かれ、検察官は懲役10年を求刑。弁護人は無罪を主張し、結審した。
【写真】事件があったススキノのホテル202号室の現状。他、肌や毛の質感まで細かく塗装された田村瑠奈被告の「ドール」なども
入廷時の修被告に身柄拘束はなく、黒いスーツを着用して右脇にファイルを抱え奥のドアから法廷に入ってきた。
「修被告は、娘・瑠奈被告(31)による殺人や死体損壊など一連の行為を手助けした罪に問われています。
まず論告では、争点のひとつである『修被告は、瑠奈被告の殺害計画を事前に知っていたか』について検察官は『殺害の実行には修被告の協力が必要不可欠であり、瑠奈被告の計画を知らなかった場合に説明がつかない事柄が多い』と主張しました。
また、『修被告の行為がほう助にあたるか』との争点についても、『被害者男性の頭部を保管するために自宅を瑠奈被告に提供し、やめさせる態度を一切取らず容認した』と述べ、無罪を主張する弁護側と改めて真っ向から対立しました」(高橋ユキ氏)
修被告は瑠奈被告を手助けしたほう助犯であると検察側は主張しているため、瑠奈被告の刑事責任についても述べられた。
「被害者が抵抗できないようSMプレイを装い目隠しし、両手を後ろ手で縛り、抵抗できないようにして殺害したことや、そのための道具の準備も用意周到であったことから、瑠奈被告による一連の犯行は極めて計画的なものであるとの説明がされ、極めて残虐で冷酷非道、人命軽視も甚だしいと非難しました。
殺害後に死体を弄ぶことまで計画していたことからも、瑠奈被告の殺人における刑事責任は他の事案と比べて著しく重く、被害者が避妊せず性交したことが動機のひとつであるとはいえ、瑠奈被告にとって有利にはたらく事実ではないと述べました」(同前)
検察側はこうした瑠奈被告の刑事責任をふまえ、修被告に貸す刑の重さについて説明した。
「修被告は、瑠奈被告が殺害に使用した刃物や、ホテル室内における証拠隠滅目的のカビハイターなどの物品購入や提供を担っており、また現場と自宅の送り迎えや死体の隠匿場所としての自宅の提供など、瑠奈被告による犯行のほぼ全てに関与していると主張し、また瑠奈被告が被害者の頭部から右眼球を摘出する様子を自ら積極的に撮影したと説明しました。
修被告の役割は犯行において重要であり、裏を返せば修被告による手助けがなければ瑠奈被告の計画は実現不可能だと述べ、『他人の生命を軽視した、独善的な動機から加担した』と指摘しました」(同前)
求刑手続きの最後に、検察官は被害者ならびに遺族の心情を代弁した。
「SMプレイと称し縛られたところを突然複数回刺されて殺害されたうえ、首を切られ、皮膚や目を取られ、瓶詰めにされて撮影されるなど、その屈辱は想像を絶する。
また、殺害自体が衝撃的であるうえ、頭部がなかった遺族の衝撃や混乱は計り知れない。被害者遺族の(Aさんを)弔いたい気持ちは当然だが、頭部がないことで望む形で弔うことができず、特に長男は皮を剥がされて損壊されたことに強い憤りを感じている。遺族が処罰を求めるのは当然。
修被告は瑠奈被告の損壊行為を止めることもせず、自分が逮捕されるからと通報もしなかった。せめて通報してくれたら、早く頭部が帰ってきたはずであり、Aさんの頭部は悲惨な状態になるまで損壊されずに済んだ」(検察側の論告)
計画的かつ残虐な瑠奈被告の犯行のほぼ全てに関与した修被告の罪は、ほう助の中でも極めて重いと考えられるため、過去の量刑相場などを鑑みたうえで、検察側は懲役10年を求刑した。
修被告の罪を、裁判所はどう判断するのか。判決は3月12日に言い渡される予定だ。
◆取材/高橋ユキ(ジャーナリスト)