まるで“底なし沼”のような穴が、捜索隊の行く手を阻む埼玉・八潮市の道路陥没事故。その原因と目されるのは老朽化した下水道管である。実は同様のリスクを抱える管は全国各地に存在するが、中でも危険なのが東京23区。その実態について紹介する。
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【写真を見る】あなたの住んでいる区は大丈夫? 都内の下水道の平均経過年数
1月28日、埼玉県八潮市で起きた県道陥没事故は、発生から1週間が過ぎてもトラックに乗った74歳の男性ドライバーが発見されない異例の事態となった。
今回の事故を受けて、国土交通省は同規模の下水管を持つ全国の自治体へ緊急点検を指示し、その結果を2月7日までに回答するよう求めている。わが街の下水道は大丈夫なのかと、不安に思う方も多かろう。
事実、国交省がまとめた「下水道管理メンテナンス年報(令和5年度)」によると、下水道管が原因となった道路の陥没は、令和4年度だけで約2600件も発生しているのだ。
社会部デスクが解説するには、
「陥没といっても、大半のケースは道路上に50センチ未満の小さな穴ができたというものでしたが、中には100センチを超えるような陥没も2%起きていることが報告されています」
今回、国交省の緊急点検の対象になった自治体の一つである東京都は、全国でもいち早く下水道が整備されたことで知られる。
今から61年前の東京五輪開催が契機となり、公共インフラが整ってきたわけだが、下水管は耐用年数の点で更新期を迎えつつある。いわばインフラ老朽化の最前線と言っても過言ではない。
都の下水道局がまとめた「下水道再構築(交換や補修)プラン」を見れば老朽化は一目瞭然で、気になるのは2023年の時点で、23区全体の下水道平均経過年数が38年、再構築が未実施のものに限ると、51年となっていることだ。
埼玉の事故原因と目される42年前の下水管と比較しても、果たして安全性は大丈夫なのか。同様の事故が起きないかと心配になってしまうのである。
むろん、都も手をこまねいているわけではない。23区を第一期から第三期までのエリアに分けて、耐震化も含めた下水道の更新工事に着手することになっている。
すでに千代田、中央、港区を中心とした第一期のエリアはすでに75%の割合で再構築が完了しているというが、平均経過年数が44年という第二期のエリアはどうだろう。
こちらは北から板橋、練馬、中野、杉並、世田谷、目黒、品川、大田区といった比較的住宅街の多いエリアながら、工事着工は、4年先の2029年なのだ。
都の下水道局によれば、
「区部全域において、日頃から点検調査を行い、調査結果に基づき、下水道管の状況に応じた取り換えや補修等を実施しています」
あくまで「再構築」とは別に、日頃のメンテナンスにおいて万全の体制を取っていることを強調する。
元国土交通省技官で東京大学大学院工学系研究科特任准教授の加藤裕之氏に聞くと、
「他の自治体と比べて、東京都は掘り返さなくても古い下水管の中に補強材を入れて、新品と同程度の耐久性を持てるようにする技術を開発しています。たしかに経過年数でいえば老朽化の課題があるのは大都市部、特に東京都ですが、多くの地下埋没物に注意しながら改築工事が着実に進められるならば、将来的には不安も減ると思います」
2月6日発売の「週刊新潮」では、三つの不運が重なったという事故原因などについて詳しく報じている。
「週刊新潮」2025年2月13日号 掲載