物価の上昇が庶民の生活を直撃している。なかでも最近、顕著な値上がりを見せているのが野菜類。都内のスーパーをのぞくとキャベツ1玉598円という信じられない値段がついている。以前は1玉100円という超お買い得価格も見られたが、今ではすっかり“高級食材”になってしまった。なぜこれほどの異常事態になっているのか。
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群馬県内のキャベツ配送業者がこう話す。
「2024年夏は猛暑日が続いたため秋用のキャベツ苗が広範囲にわたって打撃を受けました。その後、冬用の苗は順調に植えたのですが、今度は雨がほとんど降らなかった。野菜類はある程度大きくなれば日が照るだけで案外育つのですが、苗のうちは水がないと育ちません。そのため葉もの野菜全般のできが悪く、その結果、品不足が続き高騰しているのです」
群馬県内のキャベツといえば嬬恋村の「嬬恋高原キャベツ」が有名だ。同村内では「玉菜(たまな)」とも呼ばれている。夏から秋にかけて出荷される嬬恋産の「玉菜」は全国のキャベツ総出荷量の半分を占めるなど名実ともに「日本一のキャベツ産地」として名をはせている。
一般的にキャベツは高温や干ばつに弱く生育の適温は15~20度ほど。嬬恋の平均気温は6月から9月がこの範囲にあり標高800m~1400mの高冷地では夏の降水量が多く昼夜間の温度差が大きいためおいしいキャベツができるという。
日本の平坦部では秋から春にかけて多く栽培されるが、嬬恋村などの高冷地では夏から秋にかけて作られており国内全体で見ると年間通して収穫が可能だ。このためキャベツはどこの家庭でも年間通して食べられる身近な野菜だった。それなのに年末に来て一気に高騰。スーパーでは手を伸ばしにくい商品と化した。
「そもそもキャベツは天候に非常に敏感な作物です。特に夏場や秋の台風、長雨や異常高温など極端な気象条件が発生すると、生育に影響を与え収穫量が減少することがあります。例えば2023年には異常気象や台風によって農作物の被害が多く、キャベツの収穫量も影響を受けて供給不足が生じ価格が上昇しました」(前出のキャベツ配送業者)
キャベツ高騰の背景には天候不順だけではなく構造的な問題も横たわる。それは農家の高齢化による人手不足だ。
地元農協関係者が生産現場の事情をこう明かす。
「キャベツの高騰で農家は儲かっているように思われていますが、出荷量自体少ないのでそれほど収益は出ていません。輸送コストも増える一方で赤字寸前です。それもあってキャベツ栽培をやめる農家が目立ってきました。それを埋めているのがベトナム人、そして最近やってきたミャンマー人、インドネシア人の労働者です。とはいえキャベツは収穫する際、しゃがみながら包丁でひとつひとつ切るので大変な作業です。コロナの頃、外国人労働者が来日できず困っていたところ、仕事を失った地元のホテル従業員がキャベツ畑の収穫を手伝いましたが、すぐに音(ね)をあげて箱詰めだけをしました」
確かに大きく育ったキャベツはずっしりと重く、持ち運びに一苦労する。地元農協関係者はキャベツ農家の生活サイクルの苦労についてもこう言及した。
「キャベツ農家は早朝というか深夜2時、3時から畑に出てキャベツを切り、午前6時頃から搬出を始めます。その後、苗を植えたり畑を耕したり、お昼ごはんを食べて昼寝をしてからまた畑に戻って農作業を再開し午後6時頃、夕飯を食べて同8時頃に就寝、というパターンが多いです。体力的に相当きつい仕事というほかありません」
野菜の高騰に苦しむ地元レストラン経営者が嘆くことしきり。
「キャベツ以前に円安のためすべての食材が値上がりしています。食材の値段が上がると消費税も上がるわけですので、いずれメニューを値上げしなければなりませんが、値上げするとお客様がガクンと減るので値上げしたくても簡単にはいきません。飲食店経営者はみな慎重ですよ」
農業従事者の不足や円安による輸送コストの上昇が続く限り、キャベツ価格の高止まりは当分続くという。残るは異常気象が繰り返されないよう天に祈るのみか……。
デイリー新潮編集部