「成人の日」を迎えた今日13日は、全国の自治体で20歳対象の記念式典が開催されている。
かつて「成人式」と呼ばれたこの集い。成人年齢引き下げに伴い、現在は多くの自治体で「二十歳の集い」といった名称が使われているが、旧成人式と同様「大人になったことを自覚し、自ら生き抜こうとする青年を祝いはげます」という趣旨に変わりはない。
ここ数十年で、式の規律を乱したり、会場周辺で暴れたりするような新成人を多く見るようになった。この季節になると「荒れる成人式」の様子が報道されることが、すでに風物詩化している様相だ。
中でも、沖縄県に並び全国的にも「派手」「荒れる」として知られているのが福岡県北九州市の式典だ。だが、実はここ数年はその様子にやや変化が見られるのだという。
成人の日を前にした12日に行われた北九州市の「二十歳の記念式典」はどんな様子だったのか。筆者は現地に赴き、取材をした。
筆者が会場に到着したのは午前9時。式典開始まで2時間あるが、華やかな振袖や真新しいスーツに身を包んだ若者が集まり始めていた。
しかし、世間的なイメージにある「暴れる」「派手」な様子は鳴りを潜めているように感じられる。
筆者は5年前の2020年にも、北九州市の成人式を取材した。当時は、レインボーカラーの袴を着て髪色までレインボーのリーゼントにした新成人が大声をあげていたり、会場周辺の芝生広場にバイクが乱入したり騒然とした状況だった。
そればかりか、時折、人混みから人混みへ向けて酒瓶が投げられたり、筆者の足元でも爆竹が炸裂したりするような荒れっぷりで、恐怖を感じるほどだったのだが……。
それでも、式典まで1時間を切り、会場入り口に近づくと少し様子が変わってきた。振袖や袴の形をしてはいるが、他の会場ではあまり見ることのない派手衣装を着た人が増えてきた。
そんな中の一人、電気工事の仕事をしているというダイチさんに20歳を迎えた今の思いを聞いた。
「ついに大人への第一歩という感じっすね。個人事業主として電気工事の仕事をしてるんで、ミスしたら自分の生活にも影響が出ます。だから、楽をしたいという目の前の気持ちに流されず、ちゃんとした仕事をせないかんなと感じています」
派手な見た目はしているが、大人としての自覚のこもった意見だ。さらに、未来に向けても話を聞いてみる。
「いろいろなことがハラスメントと言われるようになって、教育しづらい世の中になってきよんかなって思ってます。そうなると、人が育たんくなるのが問題かなと思います。だから、人を育てる立場になったらどうするかを今から考えないかんなと感じますね」
社会人として成長した先の意見。なんとも大人である。
北九州の「ド派手衣装」のほとんどは、市内の貸衣装店「みやび」で作られているのものだ。建築物のコーキングの仕事をしている、ゆうとさんのブルーの衣装も同店で注文したものだという。
「青が好きなわけじゃないですけど、なんとなくっすね。衣装は全部で33万かかりました。髪型も4時間かけて作ったっす」
派手な袴、そしてサングラス姿からは威圧的な雰囲気を感じてしまうが、受け答えは朴訥として愛らしい。5年前に感じた「荒れる」「こわい」は過去のものになりつつあるようだ。
会場周辺で取材をしていると前出の「みやび」の衣装で着飾った20歳の若者たちを何人も見ることができる。色を揃えた衣装で固まっているのは、中学のクラスメイト同士で合わせたというグループがほとんど。
「地元の友達とみんなでシルバーの衣装にしようと相談して決めました。髪の毛も今日のために1年くらい伸ばしました」というのは、塗装会社で働く輝星さん。
彼もまた「高校を途中でやめたので、家族には心配もかけたけど、ここまで見守ってくれるので感謝しかないです」と、穏やかな語り口で話した。
北九州の成人式(二十歳の記念式典)が落ち着き始めた背景には、この「みやび」の評価が変化したことにあると見る向きもある。2023年に世界4大コレクションの一つ「ニューヨーク・ファッション・ウィーク」に同店が招待された。
日本人からは北九州のド派手成人式の服として知られる衣装が、ニューヨークのランウェイに登場すると、「KABUKI!」「beautiful!」と賞賛されたのだ。
そこから、「みやび」の衣装は「派手」から「オシャレ」なイメージへと変化していったともいわれている。
「みやび」で作った派手な衣装を身に纏った参加者女性は言う。
「先輩たちの代と今とでは感覚が違うかもですね。昔は目立ってなんぼって話を聞いていたけど、今はそれだけじゃなくて、それぞれのファッションのこだわりを表現しようっていう感じかな」
ド派手な若者たちの中でもとりわけ目立っていた女性、いおんさんも同店のユーザー。「かっこよく目立って写真を撮ってもらいたかったからこの衣装にしました。半年以上前から、お店の人と相談してデザインを考えました。今日は4時に起きて完成させました」と話した。
それでも、ド派手衣装の若者に声をかけるのにはこわさもある。どうしても昔のイメージが抜けず、胸ぐらを掴まれるような妄想が頭をもたげるのだ。
会場周辺の賑わいから少し離れた一角に、単なるド派手ではなく少し”ワル”の香りを漂わせる一団がいた。
時折、大声での帰れコールの大合唱が始まったり、遠巻きに「◯◯くんの出所祝いでもあるから!」という叫び声が聞こえている。
筆者は、腹に力を入れながら取材の申し込みをしたのだが、「あ、俺っすか?なんも喋れないんで、すんません」とシャイそうな笑顔で断られた。しかし「俺ら、フリー素材なんで、写真はいいっすよ」とのことだ。
その表情と声色からは、仲間内で盛り上がっている普通の若者の雰囲気も感じられた。ド派手衣装=こわい、というレッテルを張った自分を恥じた。
ただ、北九州の成人式がいまだ「ヤバい」と思われていることは間違いないはずだ。実際に、北九州に暮らし「いずれは自分もあの式に出るのか」と見てきた今年の20歳たちは、そんなイメージについてどう思っているのだろう。
地元の同級生で集まっていた大学生、れれさん・ゆうなさんに聞くと「どう思われているかより、私たちは20歳のこの日は、こんな服装がしてみたいと思ったからやっているだけですよ」と、世間の目よりも自分の価値観を大事にしているようだ。
この2人は普段は派手な格好もせず、至って普通の大学生だという。
「地元も全然派手な学校じゃないですよ!むしろ、めっちゃ田舎で、全校生徒が100人もいないような小さな学校です。でも、せっかくの日なのでちょっと目立ちたいなって(笑)」
1日だけ味わう非日常感においては、渋谷のハロウィンの仮装のような捉え方のようである。
そう考えると、無秩序に仮装をするハロウィンと違って、「みやび」によってある程度の統一的な美意識がある北九州の成人式(二十歳の記念式典)のほうが良いようにも思えてきた。
仮装や非日常という視点から見ると近しいかもかもしれないが、ハロウィンとの大きな違いは「人生の節目」であること。
自発的にせよ求められてにせよ、節目は「振り返り」「展望」「周囲との関わり」を考えさせられる機会だ。
真っ赤な衣装に身を包む、YSさんに20歳の思いを聞くと、節目としての気持ちを語ってくれた。
「大人の自覚を持ちます。電気系の仕事をしていて、もうすぐ初めての後輩が入ってきます。なので、見本になる立場だと自覚して働きます。親にも感謝しかないです。この衣装のことも親に聞いてみたんですが、『いいよ』と快く送り出してくれたり、いつも認めてくれるので」
服装で非日常的な楽しさを求めながらも、節目の日に、これまでとこれからを考えながら、感謝と決意をする20歳が多いことに気づかされる。
大人といえど、まだまだ社会経験も少なく、学生である20歳も多い。だからこそ、将来への夢や希望には眩しいほどの輝きを持っている。
美容専門学校に通うゆあさんは、この春就職が決まっているのだそうで……。
「3月から表参道のサロンで働き始めます。仕事もですけど上京がめっちゃ楽しみです。でも、福岡が好きなのでいつかは帰ってきたいと思っています。サロンで頑張って福岡店ができることになったら、そこの店長になるのが夢です」と、服飾系を目指しながら大学生活を送る、友人のねいろさんと未来を見つめた。
派手さを競うようなきらびやかな中、道着姿の男性を発見。フリーでものまね芸人をしている、いのうえまさとさんだ。
「将来の目標は、ものまねタレントとして有名になることです。今月、自分の人生が変わるかもしれないチャレンジがあるんですよ。オーディションに合格して、東京で大きな番組の収録に参加できるので、気合いが入っています!」
「北九州市の成人式は変わったな」。取材の終盤までそう感じていた筆者だったが、シャンパンのボトルをラッパ飲みして大声で騒ぐ一団を発見した。
だが、そこにも変化が見られていた。
5年前の取材時は、そうした集団に、普通にしている新成人が気圧されている様子が見られたが、今年は騒いでいる団体は圧倒的マイノリティで、隅の方にいた印象だ。
良い傾向にあると感じるのと同時に、世界にも認められた「みやび」の文化がさらに継承され、健全な式典が続くことを願う。すべての20歳の未来が明るいものでありますように。
(取材・文/写真・Mr.tsubaking)
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